099 接触
「えーと、僕は何でここでこんなことしてるんだろうなぁ」
僕の呟きに、即座に反応したのは陽菜ちゃんだった。
「何って、研究会の学外活動よ」
清々しいほどにはっきりと断言されてしまったので、それ以上の問答は無意味だと諦める。
そして、周囲を黒服の人たちがうろつくという異様な空気を漂わせる記念写真撮影を生業としている写真館に視線を向けた。
全国にチェーンがあるこの写真館は、店から溢れるほどに、衣装の数々が陳列されている。
エルは5歳当時のヤヤのデータを元に作られているので、サイズがバッチリな衣装が多いんじゃないかと気が付いた陽菜ちゃんの発案で、写真を撮りに来たのだ。
その目的とは、舞台衣装を決める参考にすると言うことなんだが、そもそも舞台で歌う予定があるのかという大きな疑問点がある。
まあ、エルも楽しそうだし、陽菜ちゃんも全力で燥いでいるし、八弥も反対しなかったので、そこは良いかと思うんだけど、問題はジョン・スミス軍団だ。
今回利用する写真館は、住宅街近くの規模が小さめなショッピングモール内にある。
近所の住人が数多く利用するような地元密着のモールなので、当然黒服軍団は目立った。
まあ、幸いにと言うべきか、今日はそれで混乱が起きるほどに人ではない。
それに実際トラブルに発展したとしても、永田さん達ならなんとかしてしまうんだろうなぁと、僕は気楽に考えていた。
「陽菜ちゃん、ヤヤ、エル。僕は少しトイレに行ってくるよ」
それほど緊急事態って訳でもないけど、エルのドレス選びに参加する気分でもないので、気分転換を兼ねて、僕はトイレに行くと皆に伝える。
僕が持ち出したのが、生理現象なのもあって、引き留められることなく、僕はその場を離れた。
ヤヤ達だけでなく、ジョン・スミス軍団からも遠ざかった僕は一人モール内にある男子トイレに向かっていた。
別に写真館近くのトイレでも良かったんだけど、なんとなく習慣で、同じモール内にある音楽店近くのトイレまで足を伸ばす。
東西に長い長方形の東端近くに写真館、西端近くに音楽展があるので、割と距離は離れていた。
とはいえ、ドレス選びはまだ時間が掛かりそうだったので、焦る気持ちはない。
そうしてかなり油断した気持ちで用を足した僕は、皆の元に戻ろうとトイレから出たところで一人の男に出くわした。
こちらに向かって真っ直ぐと歩み寄ってくる男は、はっきりと僕を見詰めている。
一瞬、永田さん達の関係者かと思ったが、その衣服は明るめのグレーのスーツだった。
どう動くかを少し考えた上で先手をとることにした僕は警戒しているのがわかるように」、斜に構えながら問い掛ける。
「僕に何か用ですか?」
すると男は嫌らしい笑みを浮かべて「ええ」と答えた。




