087 感激
「ズバリ『エルブ』だよ!」
自身に満ち満ちた表情で、ヤヤはそう言い切った。
何を言ってるのか理解出来なかった僕に対して、その単語の意味を理解したらしい陽菜ちゃんが、ヤヤに問い掛ける。
「それって、レンタの言っていた『エルの歌声』を取り戻すのに関係あること?」
陽菜ちゃんに言われて、僕は要やる『エルブ』がエル+部で構成されていることに気が付いた。
僕が一人、胸の内で「あぁ」と納得の声を上げている間に、ヤヤは陽菜ちゃんの問いに頷いて、答えを返す。
「出来れば学校にいる間も研究を進めたいなと思って、それで部活というのにすればいいと思ったんだ」
ヤヤの言葉に、陽菜ちゃんは「学校でも研究をする必要があるの?」と浮かんだのであろう疑問をそのまま口にした。
対してヤヤは、少し苦笑気味に答える。
「正直言うと、あんまり無いけどね……その、クラブ活動とか、部活動というのは、この国の独特な仕組みなんだよ……だから、その、体験してみたいという非効率的な理由が基礎にあるから……」
ヤヤの語尾が徐々に小さくなっていったのは、自分の気持ちが発端であることに身勝手さを感じていることの現れのような気がした。
僕はその事を察してしまったせいで、どう声を掛けるか考えてしまう。
けど、同じ言葉を聞いていた陽菜ちゃんは、直ぐに行動を起こした。
「まずは、同好会が現実的だね。三人いれば申請出来るわ」
いつの間にか取り出していた生徒手帳の条項を指でなぞりながら、陽菜ちゃんは笑う。
そんな陽菜ちゃんに、答えはわかっていたけども、一応「三人?」と考えを尋ねてみた。
すると、陽菜ちゃんは僕、ヤヤと指さした後で、気恥ずかしそうに自分を指さす。
「ほ、ほら、三人いるでしょ?」
直後、もの凄く恥ずかしそうに斜め上に視線を逸らした陽菜ちゃんに、感激したヤヤが抱き付いた。
「ちょ、なに!」
「陽菜! ありがとう、助けてくれるんだね!!」
「ま、まあ、ヤヤは、体験出来なかったのにも事情がありそうだし、私も部活には入ってないし……ね」
「条件が揃っていても、助けてくれるかどうかは、陽菜の判断だよね? つまり、陽菜が優しくていい人だから、手伝ってくれるというわけだよね」
「そ、それは……」
ヤヤから口早に放たれる好意的な言葉に、陽菜ちゃんは顔を赤くしながら首を振る。
「別に私が優しいからとかじゃないから!」
そう陽菜ちゃんは言い切ったけど、それでヤヤが引き下がるわけもなく、助けを求める視線が僕の方に向けられた。
「まあ、陽菜ちゃんが優しいのは僕も保証するよ」
「ちょっと、レン!?」
助けを求めていたからだろうけど、僕の発言に対して、陽菜ちゃんから非難の声が放たれる。
「でも何よりも、友達だからだよ、ヤヤ。友達のために何かしたいって言うのは当たり前なんだよ」
「友達!」
ヤヤは目を輝かせて、嬉しそうに微笑み、コレで決着すればと思ったのだが、そうはいかなかった。
だが、ヤヤは感激のあまり、陽菜ちゃんから僕に抱き付く先を変えてしまう。
正直ヤヤの動きは予想外だったし、抱き付かれて困っていたのは解消したのだから、その軽蔑と怒りの籠もった視線を向けるのは辞めてくれませんか、と、心の中で陽菜ちゃんに訴えた。




