084 爆弾
「は、部活?」
比較的平穏に午前中の授業を乗り越えた僕は、唐突にヤヤの口から放たれた単語を繰り返していた。
一方、ヤヤは「そう」と軽い口調で頷く。
「学校に通うなんて今までなかったからね。興味があるんだ」
「そ、そうか……」
永田さんからの話を聞いてしまったせいもあって、僕にとって当たり前だったことをヤヤが経験していないと知るだけで、苦い気持ちになった。
どうにかして上げなきゃいけないと、気持ちだけが焦る。
「上野さん! 別に、この学校では部活に入る必要は無いのよ!」
急に会話に参加してきたのは、いつのまにか、僕らの席までやってきた陽菜ちゃんだった。
「上野さん? ……あ、私か!」
呼び慣れないと言うより、自分が『上野八弥』と名乗ったことをすっかり忘れていたという返しに頭が痛くなる。
チラリと確認すれば、予想外のヤヤの返しに、陽菜ちゃんも固まっていた。
一方で、ヤヤは少し唸ってから、何事もなかったように、一つの提案を切り出す。
「上野さんだと、私がわかりにくいから、ヤヤって呼んで、まあ、私も陽菜って呼んでるしお互い様、というか、これはクラスメートっぽいよね!」
自分の言葉に気を良くしたらしいヤヤはにんまりと笑った。
それを直視した陽菜ちゃんが思わず視線を逸らすほどに、気持ちがほんわかとなる柔らかな笑みだった。
一方、ヤヤは陽菜ちゃんが返事をくれなかったからか、そもそも反応を求めてなかったからか、僕の方に振り返り「ね、レン」と更に深い笑みを浮かべる。
確かにコレはスゴイ威力だと思いながらも、頬が熱くなるのを止めることは出来なかった。
「そうね。私たち、クラスメイトだものね。当然、打ち解けるには名前を呼ぶわよね! ヤヤさん」
突然、ぎりぎりうるさいまでは届かない程度の大きめな声で、陽菜ちゃんはヤヤへの返答を口にする。
直ぐにヤヤが陽菜ちゃんを振り返ったことで、自分に意識を向けるための大声だと僕は理解した。
『何故か』は、よくわからないけど……。
陽菜ちゃんの行動が理解出来ずに僕が首を傾げてる間、ヤヤは陽菜ちゃんに「別に『さん』はいらないけど?」と告げる。
「わ、私はさん付けで呼ぶのが落ち着くの」
自分の胸に手を当てて、陽菜ちゃんはそう主張した。
だが、ヤヤはその主張を「でも、レンタをレンって、呼んでるよね」と首を傾げる。
陽菜ちゃんの『さん』付けは、まだ親しくなっていないことが背景の暫定処置のようなものだ。
関係を含めることで『ちゃん』に変わったり、あだ名になったりする。
とても自然だと思うけど、ヤヤにその手の常識というか、共有認識というか、暗黙の何かは通用しないので、陽菜ちゃんは説明せざるを得なくなってしまった。
だが、内容が内容だけに、言葉にはしにくいだろうと思って、僕は間に入ることにする。
「あー、それは陽菜ちゃんが、僕の『幼なじみ』だからだよ。呼び名って、短くなるものだからさ」
自然にそうなるもんだよと言うのを言葉に含ませつつ、僕はヤヤに説明出来た気になっていた。
だから、ヤヤの「なるほど」という返しに満足してしまう。
そんな僕が油断したタイミングで、ヤヤは陽菜ちゃんに向かってとんでもない爆弾を解き放った。
「『幼なじみ』ってことは、陽菜は『負けヒロイン』役ってことだね」
「……は?」
修正報告
2021.08.23
前:急に会話に参加してきたのは、いおつのまに花木らの席までやってきた陽菜ちゃんだった。
後:急に会話に参加してきたのは、いつのまにか、僕らの席までやってきた陽菜ちゃんだった。




