082 送迎
「じゃあ、のってのってー」
テンション高めのヤヤは、僕らをマンション前に止まっていた黒塗りの車を指さした。
「乗ってって……」
言葉の意味はわかっているのに、上手く飲み込めないという不思議な感覚のままで僕は陽菜ちゃんに、視線を向ける。
僕としては、視線に『どうしたらいい?』という意見を求める意思を込めたのだが、陽菜ちゃんはスッと視線を逸らしてしまった。
どうも、部屋でのやりとりがダメだったらしい。
一方、ヤヤは「アダムで飛んで通うのはダメだって言われてね、車用立ててくれたの」と無邪気に笑みを見せた。
「あー、えーと、そうだ、車での通学って許可されてるの、陽菜ちゃん?」
「車で通学したらダメなの、陽菜?」
僕が反応の悪い陽菜ちゃんに返事を貰いたくて絞り出した疑問に、ヤヤが乗っかってくる。
急に僕ら二人から質問される形になった陽菜ちゃんは「えっ!?」と驚きの声を上げた。
驚きのあまり動揺しているように見える陽菜ちゃんだったが、根が真面目なこともあってか、まず口にしたのは僕らへの答えである。
「う、運転免許証の取得は禁止って言うのしかなかったと思う……まあ、足を骨折したら、親に車で送って貰ったりもするだろうから、車で送って貰うなら問題……ないかな?」
「そう、じゃあ、大丈夫だね」
陽菜ちゃんの答えに、ヤヤは満足そうに頷いた。
僕はその態度に、何故か不安を覚え、直後、閃きが頭に舞い降りる。
車は用立てて貰ったと言っていたけど、運転手は?
そう考えた時僕の頭が思い描いたのは『アダム』だった。
まさかという思いに背中を圧されて、僕は後部座席のドアを開けて車内をのぞき込む。
すると驚きと強い疑念の籠もった「レン!?」という声と、緩く質問をするようなヤヤの「レンタ?」と僕を呼ぶ声が、背中に掛けられた。
一方、僕は視線の先、運転席に座る人物がコチラに振り返ったことで、思わず固まってしまう。
そこに座っていたのは予想とは違いアダムではなかったが、見覚えのある顔だった。
「何してるんですか?」
「運転手ですよ」
薄く笑みを返してそう答えた永田さんは、今日はサングラスを外していない。
僕とヤヤだけじゃなく、陽菜ちゃんも居るからだろうかと理由を考えていると、永田さんは「校則違反ではありませんから、安心して乗ってください。お送りしますよ」と声を掛けてきた。
そんな永田さんの言葉にどう変えそうかと思ったタイミングで、陽菜ちゃんの声がまたも背中に掛かる。
「なに、レン? どうかしたの?」
僕は一旦後部座席に突っ込んだ上半身を起こして、ヤヤと陽菜ちゃんに向き直った。
「いや、な……まえはしらないけど、運転手さんが学校まで送ってくれるらしい」
少し苦しい言い直しをしてしまったことに二人がどう反応するかヒヤヒヤしながら、戻ってくる答えを待つ。
すると、ヤヤが「そうだねー遅刻しないように行こう」と僕に近づいてきた。
一緒に車に乗り込むつもりなのであろうヤヤに、車内へ向けて促すように指呼し圧されたところで、陽菜ちゃんが素早く回り込む。
「ちょっと待って、座り方を決めましょう、ヤヤさん」
「ん? 座り方?」
何故か目に力のこもっている陽菜ちゃんの言葉に、ヤヤが首を傾げた。




