066 認識
「……なるほどね。エルの歌声か……」
僕の話を聞き終えたところで、陽菜ちゃんはそう言って大きく頷いた。
その後で「出会ってから、まだ3日目って言うのは、信じがたいけど……」と言いながら、陽菜ちゃんはこちらにジト目を向けてくる。
「そうはいっても、ヤヤのことは本当に一昨日知ったばかりなんだよ」
僕としても、陽菜ちゃんの気持ちはわからないではないので、否定せずに困惑していることを前に出した。
すると、陽菜ちゃんは、少し考える間を置いてから、それまでとは少し違う躊躇うような様子で質問を繰り出す。
「……それで、どうなの?」
「どうなのって?」
僕は単純に陽菜ちゃんが聞きたいところがわからず、そう尋ねただけなんだけど、どうも、お気に召さなかったようだ。
片目を閉じて、やや不機嫌そうに僕を見詰めている。
それから少し間を開けてから、陽菜ちゃんは癖になっている仕切り直しの溜め息を放った。
「彼女のこと、どう思ってるの?」
なんだか聞きにくそうな陽菜ちゃんの様子に疑問を感じながら、一応の確認をする。
「彼女って、ヤヤのことだよね?」
「……そう」
対象の人物が一致したことで、僕は改めて、ヤヤに対する自分の考えを整理してみた。
超が付く美少女で、たぶん、いや間違いなく天才といわれるタイプの人間だと思う。
僕が昔演じた『エル』を造り上げて、僕にまたあの声で歌うチャンスをくれた。
手段は無茶苦茶だし、滅茶苦茶自己流の考えで突っ走っているけど、でも、変に気を遣うし、歩み寄ってくれるいい人……というよりは『良いヤツ』って言うのが似合う。
まあ、正直、僕の知識や考えじゃ、まるっきり全貌がわからない未知の存在ってヤツだろうなと思うと、ついニヤけてしまった。
「なに、なんでニヤニヤしてるの?」
鋭く怒りの籠もった陽菜ちゃんの声が耳に突き刺さる。
まあ、会話の途中で、答えを求めてる相手がニヤついたら怒るのは当然だ。
まずは陽菜ちゃんに「ごめん」と一言謝る。
それから改めた、僕の見解を伝えることにした。
「陽菜ちゃんの問いに真面目に答えようといろいろヤヤについて考えてみたんだけど、改めて、何にも知らないなと思ってさ」
陽菜ちゃんの目が、無言で、だから笑ったのか問うてくる。
「まあ、まるで何も知らなくて、おかしくなったのも理由だけど、一番は『漫画みたいなヤツ』だからかなー」
「漫画みたい?」
細い眉を寄せて、小さく首を傾げる陽菜ちゃんに、僕は頷いて見せた。
「だって、設定盛りすぎだろ? 天才科学者で、転校生で、しかも政府に関係まであるんだぞ?」
敢えて美少女というのを省いたお陰か、陽菜ちゃんの僕に向ける怒りの色が少し和らいだ気がする。
そんな陽菜ちゃんは「それは確かにそうネ」と同意した後で、改めて同じ質問を口にした。
「彼女のこと、どう思ってるの?」
それに対して、僕はヤヤについて考えるうちに僕らの関係にふさわしい呼び名を答える。
「『共犯者』かな? 別に犯罪を犯す予定はないけど、一番しっくりくる気がする」
僕はそれなりの満足を持ってそう言ったのだけど、陽菜ちゃんの口から出た言葉は、思わず思考停止するほど衝撃的だった。
「彼女……恋人という意味での、彼女じゃないの?」
修正報告
2021.06.11
前:編に気を遣うし
後:変に気を遣うし
前:道の存在って
後:未知の存在って
前:ついに焼けてしまった
後:ついニヤけてしまった




