048 Start up
『レンタ、これからなるべく体は動かさないでね』
「了解」
僕はヤヤの言葉に対して、そう返事を返した。
『これ以降は声に出さないで『承諾』か『拒否』かを、思い浮かべてくれる?』
「りょ……」
ヤヤの指示に返事をしそうになって、僕は慌てて口を閉ざす。
コレも実験だったと、慌てて頭の中で『了解』と念じた。
すると、少し間があってから、ヤヤの声が聞こえてくる。
『あー。そんなに繰り返し思い浮かべなくても大丈夫だよ』
言葉に多少苦笑のような気配を感じて、思い浮かべすぎたのかと察した。
気持ちを切り替えて、体の力を抜いていくと、目を閉じていて、マスクの中の匂いにも変化がなく、体はスーツに包まれているので、耳が敏感に動き始める。
それを示すように、ヘルメットに取り付けられている機械の低い駆動音がコレまでよりも強くなった。
実際には、駆動音が大きくなっているのかも知れないけど、確かめようがない。
そんなどうでも良いようなことを考えているうちに、急に音が途絶えた。
どうなったんだ?
動くなとヤヤに言われていることもあって、目を開けることも、体を大きく動かすことも良くないと思って、耳に意識を集中するものの、先ほどまで大分大きく聞こえていた機械の駆動音は聞こえなくなっていた。
明らかに状況は変わっているけど、まだ、ヤヤからの指示は出ていない。
何の説明もなく放置されるのは、不安しかないので、僕は自分の体が動くことを確かめるために、指先を動かしてみた。
にも拘わらず、動かしたはずの指先には、何の抵抗も生まれない。
指が動かせてない?
普通に出来ていたことが出来ないというのは、とても大きな焦りになった。
ともかく、自分がどういう状況なのか、確認しなきゃいけないという思いで、僕は目を開いてしまう。
直後、僕の目はこちらに向けて強烈な光を放つライトを捉えた。
強い光を放ってはいても、眩しいとは感じない。
直前まで目を閉じていたら目がくらみそうなのにと思いながらライトに意識を向けると、グンとズームアップされ、しっかりと、ライト一つ一つが光っているのが確認出来てしまった。
「う、うわ?」
思わず驚きが声になったけれど、その声も違和感がある。
普段、僕の発している声とは違う……いや、今の声とは違うだけで、かつては僕のものだった声だ。
もう取り戻せないと思っていた、今はスピーカー越しに、あるいは彼女の声としてしか聞くことが出来なかった『エル』の声が僕の口から放たれている。
その事実に、僕の気持ちは、嬉しさ、悲しさ、悔しさ、腹立たしさなど、様々な感情が入り交じった自分でも判別の出来ない気持ちが沸き上がってきていた。
気持ちを持て余すそんな僕の視界の端に、突然、テレビバングなどに使われるワイプのような四角い割り込み映像が出現する。
枠の中には、ヤヤの姿が映し出されていた。
『調子はどうかしら、エル?』
そう声を掛けられて、僕は思わず「える?」と返してしまう。
すると、映像の中のヤヤは苦笑気味に『その姿の名前は、エル以外あり得ないでしょう?』と、返してきた。
もっとも、おかしそうに表情を緩めていたので、呆れや揶揄いの色もあるのかも知れない。
そんなことを思いながらヤヤの人工物のような整った外見に見とれていると、急に視界に新たな映像の枠が差し込まれた。
修正報告
2021.05.23
前:そんなに繰り返しい思い浮かべなくても
後:そんなに繰り返し思い浮かべなくても
前:動かしたはずなの指先には
後:動かしたはずの指先には
前:その子英も違和感がある。
後:その声も違和感がある。




