045 水没
感情をこめて、そう呟いた後で、横にある存在に意識が向いた。
表情が変わるわけではないが、アダムが何か言いたそうに見えて、慌てて僕は言葉を追加する。
「ア、アダムも、一緒に頑張ろう」
だが、アダムはピクリとも動かなかった。
エルと同じように感情を獲得したからこその沈黙なのか、あるいは単純に命令ではないから反応しないのか、そもそも大男な外見で威圧感があるアダムに沈黙を貫かれるのは不気味でしかない。
なので、せめてそのあたりだけでも把握したいと探りを入れることにした。
「アダム、えーと、怒っていたりするの……かな?」
僕がそう質問すると、先ほどはピクリともしなかったアダムが、カメラのレンズにしか見えない黒目を僕の方に向けてくる。
「私には、感情がありませんので、怒るということはないと思われるマス」
思えば初めて会った時も妙な日本語を使っていたなと、アダムの返答を聞きながら、昨日の事なのに、もうだいぶ前の事の様な印象を受けた。
最初はアダムに驚いてビビっていたのに、今ではヤヤとエルの事で彼を忘れている。
そんな自分に呆れていると、僕を突然浮遊感が襲った。
「は?」
思わず驚きが音になった直後、僕は水槽の中へと落下し、一瞬で全身が水に包まれてしまう。
ボコボコと大きな泡が口から漏れ出し、慌てたせいで、水を飲みながらも、僕は必死に腕を動かして水面に浮上した。
そして、直後、大きく開かれ突き出されたアダムの左手を目撃する。
直後、僕の頭が導き出した結論は、一つ、アダムに突き落とされた、だ。
急に水に突き落とされて、慌てたのもあって、僕はその考えが浮かぶと同時に怒鳴ってしまう。
「アダム! 何で僕を突き落としたんだ!」
だが、感情的な僕に対して帰ってきたアダムの言葉は淡々としたものだった。
「マスターから、エル……レンタを水槽に入れろと指示されましたので」
アダムはロボットであり、マスター……つまりヤヤに指示されたのであれば、従うのは当然である。
同じロボットのエルが人間と変わらない感じで、接せられているせいで、アダムが機械的すぎる様に僕には見えてしまっていた。
冷静に考えれば、アダムの方が当たり前な気もする。
そんな風に考えを進めながら、水槽の中で軽く足を動かして体を浮かせていた僕の頭に、何かが急遽被せられた。
「な、え、ちょ!?」
状況がわからずに、視界が狭まると同時に、顔全体が圧迫されたことに、口から勝手に驚きが声として飛び出す。
そんな状況で、プシューという空気……気体が吹き出す音が聞こえてきた。
直後、首回りに何かが押し付けられるような感触が走る。
首を絞められるような感触に、思わず首元に手をやったせいで、足の動きが緩慢になってしまった。
それに気付いたのは、水槽の中に大分沈んでからのことで、被せられた物体に付いたのぞき窓のような透明部分の向こう側に、僕が体を動かしたことで生じた細かい泡が浮かんでいるのが見える。
手には水を掻いている感覚があるので、開いていた指同士をくっつけて、動かせば、どうにか浮上感を得ることが出来た。
それでも頭に被せられたものに大分質量があるのか、浮かび上がることが出来ない。
このままじゃ、呼吸が続かないと焦る僕の耳が、そんなタイミングでヤヤの声を捉えた。
修正報告
2021.05.23
前:つまり八弥に指示されたのであれば、
後:つまりヤヤに指示されたのであれば、
前:開いていた指通しをくっつけて
後:開いていた指同士をくっつけて
前:それでもたまに被せられたものに
後:それでも頭に被せられたものに




