026 転倒
慌てて飛び出したせいで、前のめりになった僕は、そのまま全身を前に伸ばした格好で床へと落下していく。
視界の中に慌てて僕を支えようとしてくれるエルの姿が入ってきた。
やっぱり、小さくてもエルはロボなんだなぁと、僕を受け止める姿を想像した。
が、結果的に僕はエルを押しつぶす形で、二人揃って床に転がることになる。
頭の上で再生される僕の動画の歌声を聴きながら、押しつぶす形になってしまったエルの謝罪を聞いた。
「申し訳ありません、エルの体は5歳頃のマスターの筋力を忠実に再現しているので、支えきれませんでした」
申し訳なさに恥ずかしさが乗っかった居心地の悪そうな顔で言うエルに僕は思わず吹き出す。
「わ、笑っては……嫌です」
目を逸らしながら消え入りそうな声で放たれたエルの言葉に、僕は慌てて笑うのを辞めた。
「ご、御免、馬鹿にしたわけじゃないんだよ。なんか、その……安心したって、感じかな……」
「安心ですか?」
エルは僕の言葉の真意がわからないといった様子で目を瞬かせる。
「エルがアダムみたいに僕を受け止めるんだと思ってたら、受け止められなくて、頑張って受け止めようとしてくれたんだなって思ったら、なんか、普通だなって思って安心したんだよ」
どう安心したのかって説明は難しく思っていたけど、いざ言葉にしたらするすると形になった。
そんな僕の言葉に対して、エルは割と真面目な顔で応える。
「なるほど、見た目の年齢通りの筋力に、安心されたということですね」
「そ、そうなるかな」
「エルのデータの中にも、人間は見た目から多くを想定して試行するとありますから、興味深い実例ですね」
一人コクコクと頷くエルを、先に体を起こした僕は手を差し出して引き起こした。
ちょうどそのタイミングで、動画の再生も終わる。
画面中央に映し出された三角形の描く再生ボタンを見て、何をやっているんだろうと、僕は苦笑した。
「え? なんで、恥ずかしい?」
僕の主張に対して何度も首を傾げるヤヤの姿に、理解してもらうのは無理そうだと諦めた。
僕は小さく咳払いをして気持ちを切り替えてからヤヤに対して、素直な思いを伝えることにする。
「しばらく歌ってる姿なんて披露してなかったからね」
それで分かってくれるだろうと思ったが、ややは首を傾げたままだ。
どうしたら伝わるんだと思いつつも、さらに言葉を続ける。
「あー……その、満足がいくまで公開するつもりがなかったからさ……」
迷いながら発した言葉だったけど、今回の言葉に、ヤヤは大きく頷いた。
「そっか、未完成品だったのね、あの動画は! そうか、確かに成果として一定レベルを超えていないものを見られるのは屈辱だわ!」
ヤヤの性格がよくわかる発言に、若干ニュアンスは違うけど、動画が流されることに抵抗があったことは伝わったようなので、良しとする。
と、そんなことを考えている間に、ヤヤは腕を組んで深刻な表情で何事か悩み始めた。
その様子に嫌な予感を覚えたものの、そのままにするのも気になるので、僕はヤヤに声を掛けることにする。
「えーと、何を悩んでるの……かな?」
僕がそう尋ねると、ヤヤは困惑した顔で僕に尋ねてきた。
「まだレンタの中では納得出来ていないかもしれないけど、協力してくれないかな?」
ヤヤの浮かべた申し訳なさそうな表情は、彼女が完璧主義者であり、未完成品を世に出すことに恥というか、抵抗を感じているのだとわかる。
でも僕の感じていた羞恥の元はそこじゃなくて、僕が未練で作った動画を笑われるんじゃないかってことなので、ここまでくると、正直どうでも良くなっていた。
だから、割と気楽に返事をする。
「もちろん、そのつもりだよ」
直後、強烈な勢いで僕の首に腕を回したややが抱き着いて来た。
それは完全に僕にとっては不意打ちだったのと、そもそもヤヤを受け止めるだけの筋力もないので、ヤヤと二人で床に転がることになる。
エルとに続いて、ヤヤとも床に転がることになった僕は、思わず笑い声をあげてしまった。
修正報告
2021.05.23
前:そっか、未完成品だったので
後:そっか、未完成品だったのね
前:正直どうでも直なっていた
後:正直どうでも良くなっていた
前:得るとに続いて、ヤヤとも供床に転がることになった
後:エルとに続いて、ヤヤとも床に転がることになった




