011 視認
「そうよ!」
ヤヤは僕の言葉に顔を決めてくる。
けれども、僕の目は思わずドヤるために背中を反らすことで強調されたヤヤの胸に向かってしまった。
大きさじゃないとか、形が大事とか、コレまで僕の耳にしてきた胸に対する同級生男子達の意見が頭を過る。
「私は大きくなくて助かったと思っているんだけどね」
シレッと放たれたヤヤの言葉に、僕の心臓は跳ねた。
胸を見ていることを前提とした言葉に、僕の目が泳いでいるのをその視界で実感しながら、顔をヤヤに向ける為に視線を上げる。
それを待ち構えていたヤヤの表情は、怒っているわけでも、恥じらっているわけでもなく、とても静かなものだった。
何も感じていないようなヤヤの態度に、僕は無意識に瞬きをしてしまう。
すると、ヤヤは「メスの胸に意識が向くというのは、オスとしては至極まっとうな反応だよ」と恥じらいもなく言い放った。
僕の視線に気付いた上で、気にしてないヤヤは、さっさと次の話題に切り替えようと「そんなことよりも」と切り出してくる。
一方で僕は、思いの外、男女ではなく、オスメスで表現されたことがショックだったらしく、ヤヤの言葉に反応出来なかった。
すると、コレまでは平然としていたヤヤが不機嫌そうな顔をして、にじり寄ってくる。
「ちょっと、レンタ、話を進めたいんだけど?」
あっという間に息が掛かりそうな距離に近づいた整ったヤヤの顔から不満が放たれた。
「ご、ごめんなさいっ」
反射的に飛び出した情けない謝罪の言葉に、ヤヤは少し呆れた表情で「そんなに謝らなくて良いけど……」と少し不満げに言う。
直後、僕の中に、その顔を続けさせたくないという強い思いが生まれた。
その感情に背を押されるままに僕は口を開く。
「ヤヤの秘密基地が気になって……」
るんだけど……と続ける前に、ヤヤに両手で包み込むようにして手を取られた。
「そうだよね! 気になっちゃうよね、いや、まいったなぁ」
デヘデヘと口元がみっともなくなり出したヤヤに、このままじゃダメだという謎の内なる声に押されて僕は周囲を見回しながら、無理矢理話題を作り出す。
「そ、そういえば、この場所、遊園地……だよね?」
チラチラと僕の言葉にヤヤが反応するか確かめながら声を掛けると、間を置くことなく解説が始まった。
「そうなの。ここはドリームファンタジーパークって言う遊園地の跡地でね。大分安かったから、買っちゃった」
テヘッと舌を出すヤヤの言葉に大きく頷きながら「そっか、安かったからね」と返し終えてから、自分の発した言葉のおかしさに気付く。
「買ったの!?」
お金はどうしたのか、というのがそれを発した時の僕の頭では一番大きな比重を占めていたけど、ヤヤから返ってきたのは、それとは関係ない購入理由だった。
「ほら、ここって街から離れているでしょ?」
ヤヤの言葉がまるで想定していなかった方向から来たせいで、僕はお金の出所の方が気になると切り返せずに、素直に「そうだね」と頷く。
ヤヤが口にした名前からすると、ここは僕が小学生の頃には廃園になってしまった遊園地で、来た記憶は無いから、はっきりとは覚えていないけど、たしか結構山の中にあって、公共交通機関はバスぐらいしかなかったはずだ。
そのせいでお客さんに恵まれなかったのも廃園の理由なんだと思う。
まあ、僕の住む街から三十キロ以上離れているので、詳しくはしらない……って、三十キロ!?
自宅からの距離を思い出したことで、僕は自分が一瞬で三十キロを移動したことに気が付いた。
思わず、僕とヤヤを抱えて飛んだアダムに視線を向ける。
そんな僕の視線の動きをどう解釈したのかわからないけれど、ヤヤはなぜだか頷きながら口を開いた。
「飛行実験とかするには、開けてた方が都合が良いからね!」
力強いにも拘わらず、何故か不安を感じるヤヤの言葉を耳にした僕の背中を、ぞわぞわっと冷たい気配が這い回る。
タイミングが良いのか、悪いのか、背中の気配と同調するように、ガダッと大きな音が頭上から聞こえてきた。
ブランと電源コードであろうケーブルでぶら下がる、強い力で潰されるように分断された看板が目に入る。
すると、それをきっかけに、滅茶苦茶に壊れた屋根の状態を目にすることとなった。
「あのぉ……ヤヤさん、建物天井がボロボロに見えるんですが……」
「着地が一番難しいって、飛行機のパイロットが語っているの聞いたことない?」
にこりと満面の笑顔で問われれば、僕に返せる言葉はそう多くない。
「……あります」
結局僕が返せたのは、それだけだった。
修正報告
2021.05.18
前:何も感じて居ないような
後:何も感じていないような
前:周囲を美馬渡しながら
後:周囲を見回しながら
前:テヘッと知多を出すヤヤの言葉に
後:テヘッと舌を出すヤヤの言葉に
前:廃園の理由なんだだと思う。
後:廃園の理由なんだと思う。
前:そんな僕の緯線の動きを
後:そんな僕の視線の動きを




