10 厳しいレッスン-1
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ありがとうございます!
初ライブに向けて準備を進めていきます!
それは、私がフォルケル家へ出発する直前のこと。
『貴方達にはアイドルになってもらうわ!』
そんな私の言葉に、腹心の部下である女装メイドのクリス、執事見習いのシリル、騎士のチェスターは一様にポカンとした表情だった。
『あ、ちなみに拒否権はないから』
『お嬢様のお言いつけであれば、拒否をするつもりはございません。ですが……』
アイドルとは?
そうシリルに問いかけられて、私はうーん、と考える。
『アイドルっていうのは、色んな人に愛される人たちのことよ!』
『愛される、ですか?』
私の愛、という言葉にクリスは辛そうな表情になった。見目の良さやその独特な雰囲気から、現在でも良からぬ輩を引き寄せやすいクリスは受け入れ難いのかもしれない。
『ああ、ごめんなさい。クリス、貴方を苦しませるつもりはないわ。それに、男性アイドルグループのターゲットは女性だもの』
この世界で流行を握っているのは女性だ。街中で話題になれば必ず社交界に話が出る。それはお茶会を中心に夜会などでも噂として広まり、受け入れられればあっという間に定着するだろう。テレビもネットもない世界で新しい娯楽は貴重なのだ。
クリスは、女性を相手にした商売をしたいと理解したようで、ほっと息を吐いた。
『あの、女性の前に出るのですか?』
次に不安げな顔をしたのはチェスターだ。密かに女性に人気があるが、その実あまり免疫がない彼は、私以外の女性の前では常に無表情なのだ。
今はすっかり青ざめた表情になっている。
『大丈夫、笑顔は身につくものだから!』
困った顔をしつつも、私の言葉から諦める気がないと悟ったようだ。
3人は結局、それぞれの形で跪いたり頭を下げることで私へ是と答えたのだった。
『それで、私たちは何をすれば良いのでしょうか?』
『それはもちろん――歌の練習と、ダンスレッスンよ!』
***
そんな会話から早2週間。
「ワンツー、ワンツー、ほらチェスター、遅れているわよ!」
「っ、お嬢様、厳しすぎます……っ!」
どさり、と膝をついたチェスターは額に大量の汗を浮かばせて苦しげな表情をしていた。
「情けないわね。貴方が一番体力あるはずでしょう」
「そ、れでも、こんなに動きづらい服装で飛んだり跳ねたり回ったり……うっ、足がもつれて……もう限界です……っ!」
「仕方ないわね、少し休憩にしましょう」
その言葉を聞いて、クリスもシリルも床に尻をついた。一様に荒い息を吐いている。
ちょっとスパルタしすぎたかしら。でも3人共筋が良くてすぐステップも身に付けたから、つい熱が入りすぎたのよね。
大理石敷きの広間は、ちょっとしたパーティにも使える広さがあり、そこに横にも縦にも大きな姿見を用意させてレッスン室とした。チェスターが非番の時を見計らい、私はシリルとクリスを引っ張っていってもう3時間になるだろうか。
部屋の隅では楽器を持ち、椅子に座った4人の少年少女が、厳しいレッスンに困惑した表情を浮かべていた。
「この間に貴方たちの指導をしようかしらね」
ヴァイオリン、トランペット、ヴィオローネ、ティンパニを担当する音楽隊を、私は暫定的に『バックバンド』と名付けた。
そしてメロディを担当するヴァイオリンのベルティとトランペットのカールには五線譜に書いた2曲を、それぞれ1曲ずつをメインに押し出したものにしたので、集中して練習してもらっていた。
複雑なメロディではあったが、2週間もすればすっかり物にしてくれている。頼もしい限りだ。
ヴィオローネのエレーナとティンパニのクルトの2人には、まずフォルケル家が懇意にしている楽器職人のところへ行って、それぞれに合うベースとドラムセットを発注してもらった。
もちろん先行投資ということでお金は払わせてもらったわ。
ポップスやバンドサウンドを表現するにはヴィオローネは音が重厚すぎるし、まずは路上ライブをするつもりだからサイズも大きすぎる。ティンパニは2つから4つが主流なので、数はいいけれどこちらもサイズが問題。
ドラムセットは持ち歩けるものじゃないのは分かっているけど、バスドラムがないとバンドサウンドはかなり味気なくなってしまうから、これの対策は考えないとね。
ビートという概念がないこの世界でその重要性を伝えるのはなかなか骨を折った。だが、ひとまず間に合わせの木箱で音を立てて合わせてみれば、まとまった音楽と刻まれるビートから生まれる高揚感のようなものを理解してくれたようだ。
まだ若いこともあってか、中毒性に近いものがある早いメロディや突飛なリズムを楽しんでくれた。
これは街中の反応でもあるだろうから、つかみはオッケーと言えるはずだわ。
「ベルディは十分ね。ああ、でもアドリブできるようにもうちょっと臨機応変に弾く練習もしておいて頂戴」
「アドリブ、ですか?」
クラシックはアドリブを良しとしないだろうけれど、ライブできっちりしているのなんてむしろ野暮だと思うもの。
「ライブはお客さんとの距離がかなり近いの。だから、そのときに反応を見てサビだけ繰り返したり、終わりを引き伸ばすみたいなことがあると思うのよね。そのためにそういうやり方にも慣れておいてほしいわ」
「良くわからないですが、やってみます」
ベルディは率直な性格で、口に出しつつも了承してくれた。
カールにはもう少し練習を続けるように言う。
「この曲はトランペットが良いのよ。一番音が響くし、テンションもガンッと上がるから、まず1曲目はこの曲にしたいのよね。だから、完璧にできるようにして」
「分かりました!」
トランペットをメインにした曲はパンクメインだけどどこかジャズっぽいテイストが入った曲で、かなり耳に残るメロディを採用している。だからその分失敗は許されない。
ヴァイオリンをメインにしている方はプログレ・ロックぽいポップス。メロディアスでどこか異国っぽい雰囲気の曲になっている。
ちなみに、曲自体は私が好きな音ゲーの曲を参考にしつつアレンジしたものをひとまず採用した。一から作曲は流石にしたことがなくて、申し訳ないけど流用させてもらったわ。
歌詞の方は自分で考えたけどね。考えるのはちょっと恥ずかしかったけど、やっぱりウケを狙って恋の歌にした。可愛い女の子に向かって囁いたり、語りかけたりするような。考えてる時、ちょっと倒錯的な気分になったわ。
「2人はどうかしら?」
「うーん、そうですね。だいぶ慣れてきました。このベースってやつ」
エレーナは皮と布で縫い合わせて作らせたストラップを慣れなさそうに指でいじりながらも、この世界では生まれたばかりの新しい楽器に触れている嬉しさにか、頬が薔薇色に染まっていた。
「良かったわ。ヴィオローネとベースは運指が同じだから慣れるのも早いでしょうね。ピックはどう?」
「弦と違っているからまだ慣れませんが、本番までにはどうにかします」
「さすがね」
象牙で一から作らさせたピックも、ベース自体も新開発にはなったけど、この世界にもギターの源流であるリュートがあったから、それを流用してどうにか10日で形にしてもらったわ。練習を開始して4日でそれなりに弾けるようになっているのだから、エレーナはかなり努力してくれているようだ。ありがたい限りである。
「クルトはどう?」
「そうですね……足で踏みながら手を動かすのにまだ慣れなくて……」
大柄な体を縮こまらせて恐縮するクルト。ドラムセットは既存のものの組み合わせだからさほど時間がかからず1週間ほどで仕上がってきたものの、やはりこれまでとは全く違う動きになる。
慣れるのに時間がかかるだろうとは思ったけれど、本番までに間に合うかはギリギリかもしれないわね。
「そう……」
「あ、でも、がんばります! 俺は楽団の方では、まだ楽器にもあまり触らせて貰えませんし……だから、クビにしないでくださいっ!」
ティンパニは人が足りているからか、師匠が厳しいのか、青田買いや実力試しのために開催される小規模なパーティなどで置かれるチャンスもなかなかないらしい。
実力はあるのに、もったいないわね……。
「大丈夫、貴方を見込んで選んだのは私よ。本番までに間に合うって信じてるもの」
「は、はいっ……!」
クルトは嬉しそうに瞳を輝かせて、この調子ならどうにか形になりそうと思った。
それより問題はアイドルチームの方ね……。
バックバンド組にも言及したら長くなってしまったので続きます!
※活動報告に、楽器制作期間についてちょっとだけ補足させていただきました。




