信じられるもの 宮谷 零斗said
宮谷saidです!
なんでこーなった?うっすらヤンデレが顔を出してくるんですけど見逃してください・・・
最初はただの興味だった。
この人形のように美しい少女にこの汚い世界を見せてやろうと思った。
本当にただ、それだけだったんだ。
◆◇◆
出会ったのは入学式の日。
環境が変わったって何も変わらない。
俺はそう思って一人の女の子に声をかけた。
中学で同級生だった彼女、花園 ゆりは俺がそれらしいことを言って少し微笑めばすぐについてきた。
ほら、中学と何も変わらない。
さっき声をかけた先輩だって初対面の俺に対してすぐに警戒心を解いていた。きっともう少しおせば一線を越えるのなんてなんてことないだろう。
つまんないな。やっぱり人の感情なんて簡単に操れる。
俺は過去の自分に言い聞かせるように頭の中でその言葉を反芻した。
「やっぱりゆりちゃんが一番だわ〜」
いつもと同じセリフを吐く。
彼女は謙遜しながらもまんざらではなさそうな顔をしていた。
つまらない。
彼女と別れてすぐに何かを考え込んでいる女子を見かけた。
そう言えば、教室から出てきた時もあの子、いたなぁ。
よく顔を見てみればその子は『鉄の女』とまで呼ばれている噂の女子、北条 すみれが立っていた。
中学の頃もよくその噂を聞いていたが本当に一切顔に筋肉が動く様子がない。
なんとなくだった。
本当になんとなく、彼女の綺麗な顔が崩れるのが見たくて声をかけた。
まず、彼女と話して思ったことは面白い。
俺と話していても顔を赤く染める気配はないし、最初に驚いた時以外は表情筋も一切動かない。
流石、あの大企業の社長令嬢って言うだけある。
それに彼女の近くにはいつも龍宮寺 誠というハイスペックな男がいるから俺くらいじゃあ動じないか。
そう彼女を分析しながら作り笑いを浮かべていると彼女は突然俺の顔をじっと見た。
「貴方・・・、辛くない?」
その言葉に俺は動揺する。瞳の奥までのぞき込まれているような気分になって落ち着かなくなる。
あまりに真剣に彼女が問うものだから彼女のその根拠がどこから来ているのか気になった。
「君は・・・」
一体何を見てそう言ってるの?
そう聞こうとした瞬間、男の声が聞こえた。
一目見てこいつが龍宮寺だとわかった。
彼女はその男を見て心底ほっとした顔をした。俺はそれがなんだか気に食わなくてモヤモヤとしながらも彼女の後ろ姿を見ていた。
暫くしてからまた彼女を見かけた。
俺はさっきのもやもやが一向に消えずイライラしていたので半ば八つ当たりで彼女の肩に手を置いた。
「ひゃあ!まーくん?」
まーくん・・・?誰のことだ?
彼女の振り向いた顔は安心しきった顔でこれがまーくんに見せるものだと思うとまたモヤが増えた気がした。
「まーくんって誰?」
そう聞いて探っても彼女は綺麗な無表情で何も読み取らせてくれない。
それどころか俺の前からさっさと消えようとしている。
と、彼女の後ろ姿まで綺麗な姿を見て俺は気づく。
あぁ、このモヤモヤの正体がわかった。
彼女を、壊してやろう。
俺は何も知らないような顔で綺麗事を言う彼女を壊したいんだ。
手始めに、
「君は・・・、綺麗事や夢物語を語る人間をどう思う?」
揺らしてみようか。
でも彼女の答えは俺の思い通りには行かない意外なものだった。
俺は子供のように自分のやりたいように進まないことにいらいらしてどんどん余裕がなくなっていく。
だめだ、こんな事じゃあダメなのに。
視界が黒で塗り潰されそうになったその瞬間、彼女のブレない声が俺の耳に届いた。
「それは違う、それは違いますよ」
彼女は全くぶれなかった。
その考えを、彼女の考えを綺麗事だと馬鹿にしてしまえれば楽なのに、俺と同じように色々なものを見てきた目をしていた彼女にそんなのは綺麗事だ、と言える自信がなかった。
でも素直に受け入れることも出来ずに俺は否定の言葉を口にしながらゆっくりと彼女の腕を離す。
分からない。何が正しいのか、分からない。
そんなださい俺に彼女は逃げればいいのに向き合った。
彼女は信じられるものを見つければいいと言った。
俺にとって信じられるもの、信じたかったもの。
考え込んでいると不意に彼女が笑った。
決して華やかな笑みではなかった。
少し、微笑むような綺麗な笑み。でも心の底から笑ってくれたのだと分かった。
彼女は見た目と中身のギャップがありそうな人だ。
彼女を信じることから始めてみようか。
一方的に信じるだけなら誰も止めやしないだろう?
数日後、俺はいつものように女の子と遊んでいた。
でもいつも以上に楽しくないし、何もいいことは無かった。
あまりにつまらないものだから俺は決めていた時間よりだいぶ早く帰った。
『貴方・・・、辛くない?』
彼女の顔が浮かんでは消えた。
因みにここまではきっと本当にただの興味だったのだろう。
その後だ。俺の感情に変化が起きたのは。
◆◇◆
それから暫くして球技大会があった。
俺的には適当にやる気満々だったんだけど、事情が変わった。
すみれちゃんの完璧な、俺でさえ見破れないくらい完璧な猫かぶりが判明して、流れでデートを申し込んだ。
いや、いきなりだと思うことなかれ。あれは仕方なかった。
まさか彼女があそこまで感情豊かな人だとは思わなかったし、庶民の桃ちゃんとあそこまで仲良くしているのも知らなかった。
ちなみに桃ちゃんとは廊下で桃ちゃんが物を落とした時に知り合った。
ほわ〜んとしてるすみれちゃんとは違う意味で面白い女子。
やたらまーくんを連呼するすみれちゃんも気に入らなかったし、さっさと俺の前から消えようとする所も、慌てて誠くんがいるチームの応援をしようとしていたところも気に食わなかった。
思わず俺に背を向ける華奢な背中に抱きつけばすみれちゃんは顔を真っ赤にさせる。
俺はそれに味を占めて意地悪をした。
だって彼女のあの顔はあまりに嗜虐心がでてきてしまう。
まあ、その後口説いたのだけど。
そんなやりとりをした俺は半ば無理やりデートの約束をとりつけた。
問題はその後だ。
桃ちゃんが過呼吸で倒れてからすみれちゃんは迅速に対応した。その道の専門家のように的確に指示を出した。
その後、誠くんの手によって保健室に運ばれた桃ちゃんを見たすみれちゃんにいつものような覇気はなく、どこかへ消えてしまった。
俺はすぐにすみれちゃんを探しに行く。
見つけたすみれちゃんはやっぱりいつもより様子がおかしかった。
すみれちゃんでいてすみれちゃんではない人。
それが俺が見つけたすみれちゃんの印象だった。
酷く動揺しているすみれちゃんに俺は声をかける。
ねぇ、いつもの君に戻ってよ。なんだか今の君は君と出会う前の俺みたいな瞳をしているよ。
暫くすると何がスイッチだったのかはわからないが、俺が知っているすみれちゃんが戻ってきた。
意思の強い瞳に戻っていた。
前を歩くすみれちゃんが少し後ろを向く。
君は俺にありがとうと言ってくれたけど、君に救われたのは俺だよ。
だから君が抱え込んでいるものを知りたかったんだよ。
きっとこのときに、俺は興味という感情から違う感情に変わっていった。
いや、元々そう思っていたのかもしれない。
ただ、気づきたくなかっただけなんだ。
俺はどうしようもなく臆病だから。
◆◇◆
デートに行った日、指輪を渡したけど君はやっぱり何も言わなかったね。お金の心配をするなんて君らしい。
でも指輪は一般に独占欲を示したり、一緒にいたいっていう気持ちを表すことに使われたりするんだよ。
君はそれを知らないだろうけど。
その後、杉原がきたりして俺の機嫌は急落下することになるんだけど、女の子といても全く感情の動かなかった昔の俺と比べたら笑えてきてしまった。
君が俺をかえたんだ。責任はとってよね?
信じられるものを俺は見つけた。
何年かかっても手に入れたいものを。
だから俺は君に流されてもいいからできる限り愛を伝えることにした。
「すみれちゃん、好きだよ」
お読みいただきありがとうございました!




