第四話 強制移動
第四話 強制移動
扉の向こうにはピエールの姿があった。私は立ち上がりベッドから離れて、扉へ一直線に歩き出す。
「ピエールね。早く入って扉を閉めなさい。」
私の声は部屋の外に見えるピエールに向けられた。
「ソフィー様。お許しください。」
ピエールの声を聞いた私は扉へ向かうことを止めた。何か変だと思った。なぜピエールがこの状況で謝るのだろうか。そして、何故部屋に入ってこないのだろう。
背後を見れば、ベッドの下からアランが出ようとしていた。そして、私は気が付いた。
「アラン。隠れて。」
私は小声の直後、扉を越えて部屋に入る者の足音が聞こえた。私はすぐに振り返る。
「ソフィー。何を見ているのかな。」
そこには私のお父さんが居た。つまり、王様だ。体型は太っていて、体の大きさが裕福さを表しているかのようだ。お父さんとは、お母さんの一件があって以来まともに口を利いた覚えが無い。既に父親と思っていないも等しいと思う。
「な、何も見て無いわよ。」
私は焦った。この状況でアランが見つかるということは、私の計画にかなりの打撃を与えることは確かである。見つかるならまだしも、捕らえられて私の傍から居なくなることは本当に困る。
「何か隠しているようだね。」
王様は私の横を通り抜けて、私が見ていたあたりを見た。そして、ベッドへと視線が移動する。
アランはベッドの下に居るので、このままでは見つかってしまう。
王様はベッドの上を見たのち、下を見るためしゃがみ込んだ。
「ん。」
王様が何かを発見したようだ。多分アランだろう。さてと、見つかった状態でこれからどうしよう。
私が考えている間に、事は確実に進行していた。
「ぐほっ。」
ベッドの下から王様の顔に向けて蹴りが入れられていた。王様は蹴られた衝撃で後ろに倒れる。ベッドに視線を戻すと、アランがベッドの下から這い出てくるところが見えた。
「アラン。」
私はベッドに近づいて、ベッドの下に居るアランへ手を差し伸べる。私の手をアランが掴むと外に出すために思いっきり引っ張った。
「おのれ。娘の部屋に何の用だ。」
王様は叫びながら、ベッドから這い出る途中のアランに向かって近づいていった。
王様の手がアランに届く前に、彼はベッドの下から完全に出た。私たちはすぐに王様から離れた。
「娘から手を離せ。」
私たちは襲ってくる王様をかわして、部屋の扉へと走った。
部屋を抜けると、ピエールが目の前に立っているままだ。私はピエールに近づき、彼の目を見た。
「計画は失敗させない。いいわね。」
私はピエールにそれだけ言うと、左右に伸びる廊下を左へ走り出した。背後からは王様の叫び声が聞こえてきた。
部屋から出ることによって、私とアランが一緒に居ることが誰かに見られる確率は格段に上がった。
私たちを見る兵士のだれもが私たちを捕まえようとする。しかし、私たちの経路選択に付いて来られる者など存在しなかった。
「どこに向かっているの。」
私の後ろを走るアランが聞いてくる。
「安全な場所よ。黙って付いてきて。」
私はそれだけ言うと、私たちを発見した兵士たちの相手をすることに専念した。まるで迷路のような城内を幾つもの廊下と部屋を移動して兵士たちを振り切った。
私たちは兵士を避けて城内を移動しつつもある部屋に向かっていた。その部屋は、私の部屋からそう遠くない場所にある。しかし、その部屋は滅多なことが無いかぎり人が出入りしない。だって、お母さんの部屋。つまり女王の部屋だもの。
私たちは入り口の扉前に着く。私は扉を開けようとノブに手を触れた。しかし、回しても開かない。
「やっぱり。締まっているよね。」
私は扉にしっかりと鍵がかかっていることが確認出来た。今や主の居ない部屋なのだ。誰も居ない部屋の鍵を開けたままにする必要は無い。
「ねえ、どうするの。」
隣からアランの頼りない声が聞こえてくる。
私は辺りを見回して、他の者が居ないか確認した。
「大丈夫。付いてきて。」
私はそう言うと、女王の部屋を離れて隣の部屋の扉を開けた。
「こっちは開いているんだ。」
そんなことを言っているアランをさっさと部屋の中に入れた。私は廊下に誰も居ないことを確認すると扉を閉めた。
「ここって、図書室なの。」
アランが部屋の中をぐるぐると回っている。
「そうよ。ここは小さいけど図書室になってるわ。」
私は部屋の中心へ向かって歩きながら言った。周りには本棚があり、沢山の本が収納されている。
「ここからどうするの。」
アランは扉を閉めてきた私に聞いてくる。この部屋には鍵が無い。故に、長く滞在するには適さないだろう。しかし、隠れるためにこの部屋に入ったわけではない。
「この部屋から隣の部屋に行くわ。ちょっと待ってて。」
私はアランにそう言うと、女王の部屋側にある二つの本棚のうち右側の本棚へ向かう。そして、しゃがみ込んで本棚の一番下の段を見た。そこには計十冊の小さな本が並んでいる。
私が小さいときはお母さんと一緒の部屋だった。けど、今の部屋に移ってからはお母さんの部屋へ入るときいちいち扉をノックしなければならなくなってしまった。それが夜中であればお母さんが気が付かずに済んでしまうことも有り得る。
お母さんは、私と何時でも会えるようにピエールに頼んで隣の図書室から女王の部屋へ入れるようにしてくれたのだそうだ。ピエールの話では、このことは王様に内緒で行われたらしくお母さんもそれを望んでいたらしい。
お母さんの部屋への扉の開け方は単純で、小さな私でもすぐに理解出来たことを覚えている。図書室は必ず開いているため、これで何時でも会えるようになった。
お母さんが亡くなってからは一度も使っていない。しかし、何度も繰り返した行動のためか本棚を見ると方法を思い出した。
「たしか、こうするはず。」
私は本の背文字のタイトルに含まれた数字が小さい順に左から並べ替えていった。
私は最後に残った小さな本を本棚に押し込んだ。すると、左側の本棚から何か鈍い音がする。私は立ち上がり、音のした本棚に手を触れた。
「な、何をやったの。」
「いいから、黙ってこっちに来て。」
こちらに近づいてくるアランを確認すると、本棚に触れる手に力を込めた。すると、ゆっくりと本棚が扉のように奥へ移動していく。扉の奥は真っ暗だ。
「行くわよ。」
私は本棚の向こうに足を踏み入れた。アランも私の後に続いた。
私は本棚を閉めると、手探りで部屋の明かりを点けた。
ここが女王の部屋だ。




