第6話
いつの間にか人が滑り台の手すりに立っていた。
少女。黒い長髪が闇のように広がり、羽織っている薄いコートがはためく。大きい目に、薄く赤い唇。すらりとした鼻。顔立ちはきれいだ。
腰に手を当てた彼女は髪を掻き混ぜ、済まなそうに俺達に話しかけた。
「ごめん、彼らが狙ってんの、俺なんだ」
「は?」
空野先生が聞き返そうとして、少女が滑り台から飛び降りるのを見て目を見開いた。
直後、パン、カン、と発砲音と銃弾が滑り台に当たる音がする。
「よっ、と」
彼女は堂々と、俺達の方に歩いてきた。銃弾に当たるとは思わないのかな?
「迷惑かけてごめんね? お礼…………じゃあないし自業自得なんだけど奴ら掃ってくるから、コート預けてもいいかな」
そう言いながら、真っ先に落ち着いて手を伸ばした晶子にコートを渡す。
落ち着き払った態度。銃弾に引かない態度。
なんだか、凄い。
「ありがとう。じゃ」
短く言葉を止めた彼女は、走り出す。
黒服達は、何かを叫びながら一斉に彼女に向けて発砲する。しかし一つも当たらない。少女に避ける様子はないのに。
そう、彼女は真っ直ぐ、一人の男を狙ってかけていた。
「対大勢の時は…………っと」
少女の呟きが、妙に響く。
「大将……というより、指揮官を潰す。これが効果的。だったはず」
飛び上がり、膝で狙っていた男の顔面に蹴りを入れた。
気絶した男に、黒服が混乱を始める。奴らは何かを少女に叫んで、少女が潰した男を抱えて逃げ出した。
少女は首に手をやって、ゴリゴリと回しながらこっちに来る。今度は歴戦の戦士に見えなくもない。
「俺今さ、覚えてろよ、とか何とか言われたのかなぁ?」
「そんな感じでしょうね。はいコート」
「ありがとう! これ、恩人にもらったコートだから傷付けたくなかったんだ」
ぱあっと表情を明るくした少女は晶子に笑いかける。晶子の頬がボッと赤くなった。
「そ…………そう。良かったわね」
「うん!」
元気よく頷いた少女はそうだ、と俺達五人を向く。
「俺の名は始追淳輝。淳て呼んで? 本名は使えないから、偽名なんだ。一応、この町の高校に編入することになって来たんだけど………………」
淳と名乗った彼女は、面倒そうに頭をかく。
「入ったとたん奴らに何か言われながら腕捕まれてさ。振り払ったらギャアギャア言いながら殴り掛かってきて、だから正当防衛のつもりで殴りかえした。ら、大群になって追っかけてきた」
心底、淳に同情した。
「運が悪いわね……普通、この町は喧嘩はご法度なのよ」
同じく同情した晶子が淳に言う。
「あれ? じゃあ何でさっきの奴らは?」
「多分、この町に来たばかりの無法者…………ですね」
首を傾げた微笑ましい淳の姿に、暁が少し頬を緩めながら答える。
「晶子のお父さんが言ってたマフィアとか。あ、こいつが晶子な。中平晶子。ちなみに俺は亮。江崎亮だ。さっき話したコイツは綾瀬暁」
「もしかして、そこの細い人が教師で、君達は生徒、さらに幼なじみとか?」
「幼なじみ、っちゃあ幼なじみだね。この町って幼稚園も小学校も一つしかないから、地元で育ったらたいていの子は知ってる」
俺もフォローを入れつつ、「俺は夜生彰」と名乗った。空野先生も名乗るかな、と見上げると、何故か先生は考え込んでいる。
「先生?」
「おい、始追とやら」
「ハイ?」
「とりあえず、お前は明日朝一で職員室に来い。俺の担任のクラスだ」
「マジ!? やった!」
亮が跳びはねて淳に飛びついた。
「俺ら全員、空野先生が担当のA組なんだよ!」
「へええ!?」
「仲良くしようぜー!」
亮のスキンシップにびっくりしていた淳も慣れたとたんにニッと笑い、やりかえす。
先生に止められて家に帰されるまで、それは続いた。




