第5話
|俺(彰)は公園で砂場にしゃがみこんで、未だ冷めない興奮とおぞけを言葉にしていた。隣に晶子、暁もいる。
しばらく経って、空野先生が走って現れた。
「彰、暁、晶子! 大丈夫か!?」
「亮!?」
何故か、先生の背中から亮が現れた。
「空野先生に背負ってもらったんだぜ」
にっと笑った亮はそれで、と表情を引き締めた。
「変なものを見たんだって?」
確かに、変なものではあった。でも俺達が騒いでいるのは変なものだからじゃなくて、
「塔のなかに人間がいる、とでも思っているのか?」
空野先生がそばの自動販売機でコーヒーを買いながら、俺の考えを一発で当てた。
「安心しろ。あの谷は死んでも底には着かん。よって有り得んからな」
まるで試したことがあるような口振りだ。対抗するように、暁が彼を睨んだ。
「じゃあ、僕が見た着物の袖や、こいつらが見た手はどう説明するんですか!?」
暁の実家は寺だ。そのせいなのだろうか、暁にはよく幽霊が見える。暁は着物が幽霊の見せる何かだと考えているんだろう。寺の長老である祖父には反抗するけど、その反面、その場に居る幽霊を放ってはおかない。
空野先生は暁をじっと見て、居心地が悪そうに目を夕焼けの方向に逸らした。
「……あの塔だが、文献には江戸時代に囚人らによって建てられたと記されている。塔の使用目的は、その囚人らの収監場所だ。建てられた当時は谷でも何でもなかったが、数年後大地震であの一帯のみが地盤沈下のように凹んだ。塔だけは崩れずに落ちたが……」
「じゃあ、収監されていた囚人達は」
「全員お陀仏だ」
暁が泣きそうな顔をして黙り込む。それを見て気遣わしげな様子を見せた先生は、彼の頭に手を乗せた。
「安心しろ。仏は皆、綾瀬、お前の祖先が送った」
「じゃあ大丈夫ですね」
コロッと暁が笑みを見せる。呆れた空野先生は表情を改め、だが、と口を開いた。
「死体は塔の中に放置されたまま、火葬されることも埋葬されることもなく、在る」
暁の笑みが凍り付くように、俺の背筋に何かが這い上った。
そのとき、
「…………何だ?」
気付く。公園の周りに黒い服の男達が立っている。皆一様に、黒光りする何か……形はまさに銃のようなそれを俺達に向けている。
小さく声を上げてしまったけど、幸い誰も気付かなかった。
男の一人が俺達に何かを呼び掛ける。でも、言語が分からない。俺達四人で、唯一分かりそうな空野先生を見ると、苦り切った顔をしていた。
「……せめて英語話せ。訳が分からん」
「分からないの!?」
「当たり前だ俺は日本人だ!」
「先生アンタ教師よね!?」
「それぐらい習えってか!? ふざけるな!! 何故外国語教師でもない俺が、教員採用に必要な英語以外の言語を習わねばならん!?」
ちょっと逆ギレ気味の先生に押される。まぁ、今まで元気が無くて黙ってた晶子が元気になったからいいか。
「……それで?」
亮が呆れたように聞く。
「どうすんだよ、この状況?」
空野先生がむう、と口を尖らせた。
「あまり心臓によろしくない方法ならあるが……失敗したら全員お陀仏だぞ?」
「「「「是非それは回避する方向で」」」」
四人でハモった。
先生がまた頭を悩ませたそのとき。
「あー………………ごめんなさい」
いつの間にか人が滑り台の手すり腰かけていた。




