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最強相棒(トカゲ)と極上丼で異世界無双〜世界を滅ぼすバケモノを巨大エビフライとして使ったら、神や魔王が賄い目当てで住み着いた〜  作者: 月神世一


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EP 4

『満月の気配と、忍び寄る影』

(天界・某所)

 薄暗い私室で、専用のノートパソコンのブルーライトに顔を照らされながら、新入りの炎上神ワイズはカプチーノを啜っていた。

「ふふふ……平和ボケしたポポロ村め。今夜は極上のエンターテインメントを提供してやろう」

 ワイズはキーボードを叩き、下界の理をこっそりと書き換える。

「国境付近をうろついているオークとゴブリンの混成部隊……約五百体。あいつらに『ポポロ村に極上の食料と財宝がある』と幻聴を聞かせて、スタンピードを引き起こしてやる。血と悲鳴、無惨に燃える村……これこそがゴッドチューブで最もPV(視聴数)を稼げる『悲劇ざまぁの始まり』というやつだ」

 ワイズは画面に映る村の広場を見下ろし、歪んだ笑みを浮かべる。

「さぁ、泣き叫べ。そして絶望の底で、俺の契約勇者ゼロスに助けを乞うがいい……!」

            * * *

 一方、その頃のポポロ村の広場。

 炎上神が期待するような『悲痛な緊張感』など、そこには微塵も存在しなかった。

 広場の中央には、キャルルが村長権限で手配した巨大な木箱ステージが鎮座し、その横には佐須賀良樹さすが・よしきがDPを消費して展開した『超特大・ルナキン風炊き出しブース』が立ち並んでいた。

「よし! コンロの火力ヨシ! 白飯の炊き加減ヨシ! 薬味の刻みネギと温玉の準備も完璧でござる!」

 良樹はエプロンをきつく締め直し、鉄板の上に分厚い豚バラ肉を敷き詰めた。

 ジュワァァァッ!という豪快な音とともに、豚の脂が溶け出し、そこに特製のニンニク醤油ダレを豪快に回し掛ける。焦げた醤油と強烈なニンニクの香りが、広場どころか村全体を覆い尽くすほどの『飯テロオーラ』となって空に立ち昇った。

「うひょー! ええ匂いやなヨシキ! ライブが始まる前にワテが味見したろか?」

 ロードがヨダレを垂らしながら近づいてくるが、良樹はお玉でピシャリと制した。

「ダメでござる! これは今夜のライブを盛り上げてくれる『ファン(観客)』のための『特盛・豚バラガーリック丼』でござる! フェス飯といえば肉! 肉を食わずして熱狂は生まれないのでござるよ!」

 牛丼屋のワンオペ夜勤で鍛え上げられた良樹のオペレーション能力は、すでに五百人分の丼を5分以内に提供できるレベルに達していた。

 炊き出しブースの隣では、今夜の主役であるリーザが『物販ブース』のセッティングに勤しんでいた。

 えんじ色の芋ジャージ姿のまま、みかん箱の上に手書きの看板を立てている。

【リーザと握手券:銀貨1枚】【チェキ(似顔絵):金貨1枚】【スーパーチャット(投げ銭)は無制限で大歓迎ですの♡】

「ふふふ……今夜のライブで、村の人たちの財布をすっからかんにしてやりますぅ! そして明日はルナミスデパートの最上階で高級焼肉を食べるんですの!」

 純真な人魚姫の顔の裏に、底なしの強欲を燃やすリーザ。

 その物販ブースの最前列には、すでにピンクのジャージを着た見習い女神リリスが、光る魔法を付与した木のペンライトを両手に握りしめ、開演3時間前から正座で待機していた。

「リーザちゃん……ハァハァ……私の全財産(ルチアナ様のクレカ)を捧げる準備はできてますぅ……!」

 オタクの鑑のような限界女神の姿に、良樹は「物販の待機列もできているでござるな。大盛況間違いなしでござる」と満足げに頷いた。

 だが、その平和(?)な光景の中で、一人だけ異質な空気を放っている者がいた。

 村長のキャルルである。

 東の空に、異様に大きく赤い『満月』が完全に姿を現した瞬間から、彼女の様子はおかしかった。

「……ハァ……ハァ……月が……月が綺麗ですね……」

 キャルルのウサギ耳はピンと張り詰め、普段の愛らしい瞳は完全に縦に割れ、血走っていた。

 彼女の足元、タローマン製の鋼鉄入り安全靴からは、内蔵された『雷竜石』がバチバチと紫電を放ち、地面の小石を焦がしている。

「み、みんな……どこか悪いところはありませんか……? 怪我は? 病気は? ……あぁ、健康なんですね……でも、もっと、もっと元気に……完全回復させてあげないと……!」

 月兎族の特性である、満月時の異常なハイテンション。

 そしてキャルル特有の『ヤンデレ気質な回復魔力』が、限界を突破して暴走し始めていた。彼女の身体からは、黄金色の治癒の光と、紫色の破壊の雷が混ざり合った、極めて危険なオーラが漏れ出している。

 彼女は自分の爪を手のひらに食い込ませ、一筋の血を流しながらも、恍惚とした表情で笑っていた。

「だ、大丈夫でござるかキャルル殿!? なんだか顔が怖いでござるよ!?」

 良樹が心配して声をかけると、キャルルはギロッと良樹を睨みつけた。

「大丈夫ですよ、良樹さん……! 私、村長ですから……! この村の皆を、傷一つない完璧な健康体にして……もし誰か一人でも傷つけようとする悪い子がいたら、この安全靴で顎を粉砕してから、もう一度完全回復させて、二度と悪さできない身体に作り変えてあげますから……ウフフフフッ!」

「お、おう……!」

 良樹は思わず鉄板から一歩後ずさった。

(ライブの主催者としてのプレッシャーが凄まじいでござる……! イベント運営というのは、時に人を狂わせるものでござるな。拙者も牛丼屋のワンオペ初日はあんな目で客を睨んでいたかもしれないでござる)

 良樹はキャルルの明らかな異常を、「イベント責任者の重圧(と気合い)」という、あまりにも都合の良い日常フィルターで変換してしまった。

「アホ! ヨシキ、ちゃうわ! あのアンちゃん、月見て完全にキマッてもうとるんや! 近づいたらワテらまで『回復』の名目で顎砕かれるで!」

 ロードが本能的な危機感を覚えて尻尾の毛を逆立てた。

 ――その時である。

 村の境界に張られていた防衛フィールドが、ビーッ!ビーッ!とけたたましい警報音を鳴らし、真っ赤に点滅し始めた。

 ズズズン……! という地鳴りが、村の外縁の森から響いてくる。

 木々がなぎ倒され、もうもうと立ち込める土煙の中から姿を現したのは、筋骨隆々のオークと、刃こぼれした武器を持つゴブリンたちの群れであった。

 その数、およそ五百。炎上神ワイズの幻聴に操られ、涎を垂らしながら『極上の食料』を求めて進軍してきた魔物のスタンピードだ。

「ゲギャァァァッ!! ニク……ウマソウナ、ニクノニオイガ、スルゾォォ!!」

 オークの先陣が、錆びた巨大な斧を振り上げながら、血走った目で広場へと突進してくる。

 普通の村人なら、絶望の悲鳴を上げて逃げ惑う場面である。

「アカン! ヨシキ、敵襲や! 国境の魔物どもが徒党を組んで押し寄せてきよったで! スタンピードや!」

 ロードが臨戦態勢に入り、口の端からプチブレスの火の粉をこぼした。

 さすがの鈍感な配達員も、五百匹の魔物の群れを見れば、世界の危機に気づくはず――。

「おおおっ!! ロード氏、見るでござる!!」

 良樹は目をキラキラと輝かせ、フライ返しを天高く突き上げた。

「開演前だというのに、もう『熱狂的なファンたち』が会場に押し寄せてきたでござる! 見てみろ、皆あの巨大なペンライト(斧や棍棒)を振り回して、奇声コールを上げながらダイブしてくる気満々でござるよ!」

「はぁぁぁ!? ファン!? あれが客に見えるんかお前の目は!!」

「もちろんでござる! あんなに涎を垂らして、腹を空かせているじゃないでござるか! きっとリーザ殿の歌と、拙者の豚バラガーリック丼の匂いに釣られて、隣町から走ってきた『暴走気味の厄介オタクたち』に違いないでござる!」

 良樹の『四重勘違い』エンジンが、最大出力で火を噴いた。

 魔物の咆哮は「熱狂的なコール」に。

 殺意の突進は「ライブ会場への最前管理ダッシュ」に。

 そして、この絶望的なスタンピードは、ルナ・イーツ始まって以来の『特大ケータリング案件』へと完全に変換されたのである。

「よし! ファンを待たせるわけにはいかないでござる! リーザ殿、出番でござるよ! 拙者はこいつらの開いた口に、片っ端から『豚バラ丼』を放り込んで、腹を満たして大人しくさせるでござる!!」

 良樹は鉄板の上でジュージューと音を立てる豚バラ肉を、次々と丼の白飯の上に乗せ始めた。

「新規の太客ネギモが五百人も!? やりますぅ! 私の歌で、全員の財布の底を抜いてやりますの!」

 リーザも恐怖を抱くどころか、みかん箱のステージに飛び乗り、マイク代わりの大根を握りしめた。

 観客席の最前列では、リリスが「五円!五円!」と狂ったようにペンライトの小枝を振り回している。

「……アハッ。みんな……元気がないみたいですね。私が……全部、治してあげますからねぇ……!」

 そして、紫電を纏った安全靴の村長が、首をコキッと鳴らしながら、オークの群れへとゆっくりと歩き出した。

 炎上神ワイズの目論見は、ポポロ村という『絶対勘違いサンクチュアリ』の異常性を前に、粉々に打ち砕かれようとしていた。

 世界を滅ぼす魔物の群れを、ただの「腹ペコな観客」として迎え撃つ、前代未聞の『絶対無敵の炊き出しライブ』が、今まさに開演のベルを鳴らそうとしている。

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