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異世界最強の節約勇者 〜神も魔王も全員、俺の財布の敵〜  作者: 勇者ヨシ君
第2章:仲間が増えるたびに、なぜか黒字になった

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「使えるな、ゾルグ」

 魔王四天王・第四席次――ゾルグ二世の三号が来た。


 朝、王都の大通りに鎧姿の男が立っていた。使命感だけで立っていた。目の下にクマがある。どこかで見た顔の作りであった。


「我こそは魔王様の腹心——」


「おい、予算は」と田中。


「え」


「奪還計画の予算だ。いくらある」


「よ、よ、よ……」


「ない顔だ。使えない。帰れ」


 三号が泣きながら帰った。


******


 昼、四号が来た。


「我こそは——!」


「計画書は」


「も、持っています!!」


 田中が計画書を受け取った。一行読んだ。


「予算欄が空だ」


「これから計算する予定で——」


論外アウトだ。帰れ」


 四号が泣きながら帰った。


******


 夕方、五号が来た。


 田中の顔を見た。


 逃げた。


 田中が見送った。


「……噂が広まってるな」


 エリュシアが内心で呟いた。


 (五号が逃げました)

 (逃げた方が賢いかもしれません)

 (記録します)


******


 翌朝。


 王都の入口に、重厚な鎧をまとった大柄な男が立っていた。


 鎧は立派だった。装飾が入っている。四天王の紋章が刻まれている。使命感だけで立っている顔をしていた。目の下にクマがある。服のどこかに土がついている。


 田中が前を歩いていた。グラが肩の上にいた。


 男が前に出た。


「待て、勇者! 我こそは——魔王ネクロス・ヘカテ・ネクロンザビア・エターナル・ヴァルディアス・クリムゾン・ネフェルナーク・アビス・ヴァルガリア・デス・イモータル・ネクロニア・ザ・エンドの腹心にして四天王第四席、ゾルグ・バルカ・ディ・フォルス・マグナ——」


「また二世が来た」とネネ。


「魔王様、二世ではありません!!本物です!!」


 グラが「グゥゥゥ!!」と鳴いた。


 田中の肩の上で羽を広げて、男を睨んでいた。

手乗りサイズなので威圧感は皆無だったが、目が本気だった。


「……翼竜(ワイバーン)に睨まれた」とゾルグが少し引いた。


「鑑定眼がある」と田中。


「翼竜に!?」


「使えるな、グラ」


 グラが「グゥ」と嬉しそうに鳴いて羽を閉じた。


******


 ネネがゾルグを見た。


 一秒だけ、何か言いかけて、黙った。


 (……来たのか)

 (来たのか、ゾルグ)

 (……馬鹿め)


 何も言わなかった。


 ゾルグがネネを見た。


「ネネ様……! ご無事でしたか!! 今すぐ魔王城へ——」


「……うるさい」


「しかし——!」


「今は田中に用がある」


 ゾルグが止まった。


 (……田中に用、と言った)

 (魔王様が)

 (俺の奪還よりも、田中への用が先だと言った)


 何かが、少し、ゾルグから抜けた。


******


 田中がゾルグを見た。


「おいお前、奪還計画を持ってきたか」


「持ってきました!!」


 ゾルグが書類を取り出した。分厚かった。何枚もあった。表紙に「第百十七次魔王奪還計画書・最終決定版」と書いてある。


 田中が一枚目を受け取った。


 二秒読んだ。


「予算欄」


「あります!! 今回は用意しました!!」


 田中が予算欄を見た。


「三〇〇〇Gか」


「全財産です!!」


「足りない」


「え」


「王都までの移動費・滞在費・人員の食費・装備の維持費を全部足すと最低でも八〇〇〇Gかかる。三〇〇〇では半分も動けない」


 ゾルグが止まった。


「……八〇〇〇」


「計算したか」


「……していなかった」


「だろうな」


 ゾルグが俯いた。


「また……また計算を間違えた」


「間違えたんじゃない。そもそも計算していなかった。」

「そこに正座しろ」


「……はい」ゾルグは素直に従った。


(四天王が、それでいいんですか)

(魔王も当たり前のように見てますけど)

(あなたの部下ですよ、あなたの!!)とエリュシアは思った。


「違う。計算しなかったのは、計算するより先に動いた証拠だ」


 ゾルグが顔を上げた。


 田中が書類を返した。


「百十七回、書類を作った」


「……はい」


「百十七回、全部動いた」


「……全部失敗しました」


「そうだな」


 田中が少し間を置いた。


「お前、今回の計画を立てるのに何日かかった」


「……三日です」


「何のために三日かけた」


 ゾルグが答えた。即答だった。


「魔王様を取り戻すためです」


 田中が頷いた。


 グラが「グゥ」と小さく鳴いた。


「計算を先にやれ。それだけだ」と田中。


「……はい」


「次に来る時は予算から始めろ。報連相(ほうれんそう)は基本だ」


「……報連相」


報告(ほう)連絡(れん)相談(そう)だ。昭和の職場の常識だ」


「……昭和、とは」


「気にするな」


 田中が歩き始めた。


「使えるな」


 それだけ言って、前を向いた。


 ゾルグが止まった。


 (使えるな)


 (今、何と言った)


 (使えるな、と言ったか)


 (二世たちは「使えない」と言われていた)

 (田中に会うたびに「使えない」と思われていた)

 (今日も言われると思っていた)


 (なぜ「使えるな」と言ったのだ)


 (なぜ涙が出るんだ)


 (なぜだ)


 (敵なのに)


 (なぜだ)


 ゾルグが鎧の袖で目をぬぐった。


 誰も見ていなかった。


 ネネだけが、少し離れた場所から、後ろ姿を見ていた。


 (……ゾルグ)

 (お前は本当に、馬鹿だな)

 (……ありがとう)


 声には出なかった。


 フィルナがゾルグの横にそっと来た。


「ゾルグさ~ん……!」


「……なんでもない」


「泣いてるよぉ?」


「泣いていない。目に塵が入っただけだ」


「両目に同時に入ったの?」


「……うるさい」


 フィルナが少しだけ笑った。


「よかったねぇ~、ゾルグさん」


 ゾルグが何も言わなかった。


 (よかった、の意味がわからない)

 (奪還は失敗した)

 (計画書も突き返された)

 (何もよくない)


 (……なのに)


 (なぜか、少しだけ、そんな気もする)


******


**その頃、神界では――**


 ウルダが書類を見ていた。


「……第四席ゾルグ、単独で王都に移動。奪還計画第十七次、実施」


「結果を申し上げますと」と部下。「計画書を受け取ってもらえず、予算の再計算を指示されて帰路についています」


「……報連相(ほうれんそう)、とはなんですか」


「田中剛が正座させたゾルグに言った言葉です。昭和の職場用語らしく……」


 ウルダが目を閉じた。


「(四天王をせ、正座ですか)……寛大に見守ります」


「寛大です」


 部下が記録した。「本日の主神寛大:通常の一回。やや疲れているご様子」


**※おじさん解説!**


 報連相(ほうれんそう)とは報告(ほうこく)連絡(れんらく)相談(そうだん)の略だ。

 昭和の職場では基本中の基本とされていた。(現代でもだ)

 何かある前に言え。動く前に確認しろ。一人で抱えるな。

 これを守るだけで七割の失敗は防げる。


 守らないと三〇〇〇Gで動いて八〇〇〇G必要な現場に出ることになる。

 ゾルグがそれだ。


 これも常識だろうが。


******


**ゾルグ奪還日誌 第百十七回**


 決意:今度こそ魔王様を取り戻す。予算も用意した。


 実施:勇者に予算の計算が足りないと指摘された。

    三〇〇〇Gでは八〇〇〇G必要な計画は動かせないとのことだった。

    正しかった。


 結果:計画書を持ち帰った。予算の再計算が宿題になった。


 反省:報告・連絡・相談が先だそうだ。次回は計算から始める。


 追記:「使えるな」と言われた。

    二世たちは全員「使えない」と言われていた。

    違いが何なのかは、まだわからない。

    でも何かが違う気がして、理由もわからないまま泣いた。

    記録しておく。


**神界業務日報 第24回**


 本日の特記事項。


 第四席ゾルグが王都に来ました。記録します。


 翼竜グラが威嚇しました。田中様が「鑑定眼がある」と言いました。記録します。


 「使えるな」という評価が出ました。


 二世への「使えない」との差について、私も少し考えました。


 理由は書けます。でも書きません。


 以上です。


**魔王の家計簿 第24回**


 本日の収支:変動なし。


 ゾルグが来た。

 馬鹿だと思った。

 ありがとうとも思った。

 どちらも言わなかった。


 田中が「使えるな」と言った。

 ゾルグが泣いた。

 フィルナが「よかったね」と言った。


 我も、少しだけそう思った。

 どの項目に書けばよいかわからない。

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