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異世界最強の節約勇者 〜神も魔王も全員、俺の財布の敵〜  作者: 勇者ヨシ君
第2章:仲間が増えるたびに、なぜか黒字になった

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「チート相殺、本格的に」

 もはや、石投げが日課になっていた。


 朝、田中が宿の外に出る。フィオがすでに石を拾っている。目が合う。二人とも何も言わない。始まる。


 それがさらに五日続いた。


 アルスがぴょんぴょん跳ねながらついてきた。腹筋しながら走っている。腹筋しながら走ると腹筋にならない気がするが、田中が「複合訓練だ」と言ったので毎朝やっている。


「師匠!!今日もですか!!」


「そうだ」


「昨日も一昨日も石でしたが!!」


「石はタダだ」


「(なぜか反論できない)(やります)」


 エリュシアが後ろを歩きながら内心で呟いた。


 (腹筋しながらぴょんぴょんついてくる勇者見習いがいます)

 (七日目です)

 (もう驚きません)


******


 王都外れの広場に、最近人が集まるようになっていた。


 理由は単純だった。毎朝二人の勇者が石を投げ合っているからだ。


 その広場の入口に、いつの間にか木の看板が立っていた。


『本日の石投げ観戦 入場料2G ポップコーン付き』


 ショウが軒先で腕を組んで立っていた。ポップコーンを山盛りにした木箱が横にある。その隣に木の実を潰したジュースの瓶が並んでいる。


「いらっしゃいませ〜! 本日も石投げ観戦、やってまっせ〜! 二Gで入れまして、ポップコーンにジュースもありまっせ〜! お値打ちでっせ〜!!」


 野次馬が列をなしていた。


 フィルナが目を輝かせて飛びついた。


「全部ください!!! ポップコーンもジュースも!!」


「毎度おおきに〜!!」


「ネネちゃんも!! 一緒に見ようよ!!」


 ネネがポップコーンを手に取った。一粒食べた。


「……悪くない」


「ネネちゃんも買ってっ!!」


「……我にも一つもらう」


「毎度おおきに〜!! 魔王様、最前列の特等席おますよ〜!!」


「特等席とやらはいくらだ」


「三Gでっけど、魔王様なら二Gでよろしおます!!」


「……では払う」


「毎度おおきに〜〜〜!!!」


 エリュシアが目の前の光景を見ていた。


 (……いつの間に有料になっています)

 (その看板はいつ作ったんですか)

 (なぜ魔王が最前列にいるんですか)

 (あとなんで田中の試合をみるためにお金を払うんですか)

 (いろいろと、おかしいです)


 グレインが腕を組んで少し離れた場所に立った。


「……俺は払わん」


「ええんですよ〜、グレイン様は警備員ということで!」


「警備員にしないでくれ」


「無料で見れまっせ!!」


「……まあ、いい」


 (「まあ、いい」と言いました)

 (警備員を承諾しました)

 (いつの間に)


******


 広場の中央。


 田中が石を一つ持った。フィオが石を一つ持った。


「今日こそ決着をつける」とフィオ。

「無理だ」と田中。

「なぜわかる」

「五日試した。チートが打ち消し合ってる」

「……知っていたのか」

「三日前から知ってた」

「なぜ続けた」

「練習になる。それと——」


 田中が観客席を一瞥した。


「——収益が出る」


 フィオが振り向いた。入場料の看板が見えた。ポップコーンが見えた。最前列でネネがジュースを飲んでいた。


「……いつの間に」


「昨日話をつけた。七対三でこっちが七だ」


「……お前は何をしに来ているんだ」


「節約だ。常識だろうが」


 フィオが少しだけ黙った。


「……俺にも分け前をよこせ」


「六対二対二だ」


「それは俺が二か」


「そうだ」


「……」


「不満か」


「……いや。まあ、いい」


 (いまフィオさんも納得しました)

 (石投げに収益が発生しました)

 (タダの石で)

 (記録します)


******


 石が飛んだ。二つ同時に。空中でぶつかって両方落ちた。


「おおっ」と観客がどよめいた。


「またぶつかりましたな〜!」とショウが実況した。「チート相殺でっせ〜! どちらも引かず! 本日も膠着(こうちゃく)でんな〜!!」


「解説まで始まった」とグレインが腕組みのまま言った。


 田中が落ちた石を拾って、フィオに向かった。


「武器を変えろ」


「何にだ」


「銀玉鉄砲だ」


 フィオが止まった。


「なんだそれは」


「昭和の玩具だ。プラスチック製の銃に銀色の玉を込めて撃つ。威力は石より下がるが一発が安い。量産できる」


「……威力が下がっていいのか」


「チートで相殺されるんだろうが。威力は関係ない。弾代が安ければ利益が上がる」


 フィオが数秒考えた。


「……一発いくらだ」


「量産すれば一発0.1G以下だ」


 フィオがエリュシアを見た。エリュシアが小さく頷いた。


「……概ね正しい計算です」


「じゃあかんしゃく玉はどうだ」とフィオ。


「知ってるのか」


「知らん。名前だけ聞いたことがある」


「地面に叩きつけると爆発する玉だ。昭和のお祭りの定番だ」


「爆発するのか。一発いくらだ」


「材料費で一個0.2Gだ」


 フィオの目が少し光った。


「……量産できるか」


「昭和工廠でやる。折半だ」


「六対四でこっちが六だ」


「五対五だ」


「……わかった」


 観客がざわついた。


「何の話をしてるんだ、あの二人」「石投げの最中に商談してる」「しかも両方真顔だ」


 ショウが実況する。


「観戦中に新商品の開発が始まりましたで〜! さすが節約勇者! 石投げも経費削減でんな〜!!」


 ネネがポップコーンを一粒食べた。


「……面白いな」


「ほんとだよね〜!!」とフィルナ。


******


 しばらくして、田中がもう一度石を置いた。


 ゆっくり腕を上げた。


 スローパンチの構えだった。


 広場の外周が一瞬で凍りついた。


「……あの腕だ」と誰かが言った。


「逃げろ!!」


 野次馬の三分の一が後退した。ショウが木箱ごと二歩下がった。アルスが腹筋しながら横に飛び退いた。


 グレインは動かなかった。


 ネネもポップコーンを持ったまま動かなかった。


 フィルナが「うわあ〜!!」と言いながら前に乗り出した。


 フィオだけが、その場に立ったまま石を持っていた。


 逃げなかった。


 田中の腕がゆっくり前に出た。


 フィオが石を投げた。チートが相殺した。拳の威力が消えた。


 静寂。


「……」と田中。


「……」とフィオ。


 五秒の沈黙の後、観客がどよめいた。


「飛ばなかったぞ!!」「あの腕が通じなかった!!」「あいつ一人だけ逃げなかった!!」


「チート相殺でんな〜!!」とショウが実況した。「本日最大の見せ場でっせ〜!! 追加でジュース一Gでおますよ〜!!」


「もらう!!」とフィルナ。


「我にも」とネネ。


「毎度おおきに〜〜〜!!!」


 (商売が続いています)

 (スローパンチが通じませんでした)

 (ジュースが売れています)

 (全部記録します)


 田中が腕を下ろした。


「確認が取れた」


「当然だ」とフィオ。「同じチートだ」


「よし。今日はここまでだ」


「……そうだな」


「かんしゃく玉の件、明日ショウを交えて話す」


「わかった」


 二人が同時に背を向けた。


 (……また同じ方向を向いて歩いています)

 (毎回そうなんです)

 (二人とも、本当に気づいていないのでしょうか)


******


「師匠!!!」


 アルスがぴょんぴょんしながら追いついてきた。まだ腹筋している。


「なぜまだ石を投げているのですか!! 師匠はもっと強い技を——!!」

「経費削減だ」

「石が経費削減に!!」

「石はタダだ。チートより安い」

「チートはタダじゃないんですか!!」

「魔力を使う。魔力は疲労になる。疲労は薬代になる。石はタダだ。かんしゃく玉は0.2Gだ」

「かんしゃく玉!!? なんですか!!!」

「昭和の爆発する玉だ。今から量産する」

「爆発!!!?」


 アルスが転んだ。腹筋しながら走っていたので転んだ。


「それも訓練だ」と田中が振り向かずに言った。


「(なぜか納得しています)(やります)」


******


 昼過ぎ、ショウが田中のところへ来た。


「田中さん、本日の収益の報告でんな」


「言え」


「入場料・ポップコーン・ジュース合わせて、本日の総売上:七八G。田中さんの取り分:四六・八Gでんな」


 田中が少し止まった。


「石一個で四六・八Gか」


「そうでんな〜。石投げ、やりますな〜!!」


「明日から三Gにしろ」


「強気でんな〜!! いけると思いますわ!!なんならもっと売り物増やしましょか」


 エリュシアが内心で呟いた。


 (石が収益を生んでいます)

 (タダの石が)

 (四六・八Gです)

 (……田中さん、本当に何者ですか)


******


 夕方、広場が静かになってから、フィオがまだ石を拾っていた。


 ネネがポップコーンの残りを持って岩の上に座っていた。グラが頭の上で眠っている。


「……今日の売上、どのくらいだった」


「四六・八G。田中の取り分だ。俺の取り分は別だ」とフィオ。


「石一個でか」


「石はタダだ。経費がない分、全部利益になる」


 ネネが少し黙った。


「……田中と同じことを言うな」


「俺が先に気づいた」


「そうか」


 フィオが石を一つ選んだ。重さを確かめた。


「……魔王が何の用だ」


「用はない。ただ見ていた」


「暇なのか」


「暇ではない。ただ」


 ネネがポップコーンを一粒食べた。


「……お前の顔が、昨日より少し違う気がした」


 フィオが手を止めた。


「何が違う」


「さあ。わからん。ただ、少し違う」


 フィオが石を袋に入れた。


「……余計なことを言うな」


「そうか」


 ネネがグラを一度だけ触って立ち上がった。


 (……十六か)

 (怖れられて孤独だった千年を知っている我が言えることではないが)

 (あの顔は、孤独の顔だ)


 何も言わなかった。


 グラが「グゥ」と鳴いた。


挿絵(By みてみん)


******


**その頃、神界では――**


 ウルダの執務室に報告書が届いた。


「王都・石投げ観戦ビジネス関連。本日の田中剛収益:四六・八G。内訳:入場料・ポップコーン・ジュース——」


 ウルダが書類を持ったまま止まった。


「……ポップコーン」


「はい」


「ジュース」


「はい」


「石投げで」


「はい。タダの石でございます」


 ウルダが目を閉じた。


 十秒。


「……寛大です」


「寛大です」


「……本当に」


「本当にです」


 部下の神官が小声で隣に言った。「今日、三回仰いました」





**※おじさん解説!**


 銀玉鉄砲というのは昭和の子どもの定番おもちゃだ。

 プラスチック製の銃に、銀色の小さな金属玉を込めて撃つ。

 一発が安い。量産できる。的当てゲームに最高だ。

 かんしゃく玉は地面に叩きつけると「パン」と爆発する玉だ。

 お祭りの屋台で売っていた。一袋で何十発も入っていて安かった。

 どちらも材料費は安い。コスパが高い。子供同士で投げ合ったり、車や自転車が通るところに火薬を置くという危険な遊びが流行っていた。良い子は真似したらダメだ。

 というか、現代では売っている店が減った、もとい絶滅しているが、そういう時代があった。

 これも常識だろうが。


******


**神界業務日報 第23回**


 本日の特記事項。


 石投げに入場料が設定されました。記録します。


 ポップコーンとジュースが販売されました。記録します。


 スローパンチが通じませんでした。記録します。


 かんしゃく玉の量産計画が始まりました。記録します。


 本日の石投げ収益:四六・八G。記録します。


 特記事項:石がタダでなくなりました。いや、石はタダです。経費がタダです。利益が四六・八Gです。


 以上です。


******


**アルス修行日誌 第3回**


 今日も石の投げ合いでした。


 経費削減だそうです。


 かんしゃく玉というものが爆発するそうです。

 量産するそうです。

 師匠とフィオさんが真顔で商談していました。

 石投げの最中でした。


 腹筋しながら転びました。

 「それも訓練だ」と言われました。

 なぜか納得しています。


 明日も筋トレしながらついていきます。

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