「地下基地が豪華すぎる。削れ」
逮捕された田中たちを救出したのは、地下に潜む倹約同盟だった。
だが彼らの秘密基地は、節約勇者から見ると――無駄だらけだった。
牢に入れられた夜中、突然牢屋の壁が崩れた。
田中が帳面から目を上げる。
パタリと閉じた。
穴の向こうに、松明を持った集団が立っていた。
先頭の男が片膝をつき、声を震わせて田中の前にひざまづく。
「予言にあった節約の勇者殿!! ついに現れてくれたのですね!! 救出に来ました!!!」
田中が男を一秒見た。
「待て......いくらかかった?」
男が止まる。
「......はあ?」
「この救出作戦。いくらかかったと聞いている」
「あ......魔道爆破剤が五本で、一本三千G――」
「合計いくらだ」
「......一万五千G、です」
田中が帳面を出した。
「馬鹿か。高い。次回は石でやれ」
「石で牢屋の壁は壊れません!!」
「試したのか?」
「......試していません」
「以上だ。行くぞ」
田中が立ち上がり、穴をくぐった。
その後をエリュシアとネネが続く。
エリュシアは崩れた壁を一度見た。
(救出されました)
(助かりました)
(ですが第一声が「いくらかかった」でした)
(牢屋を出たあとでも変わりません)
(田中さんの優先順位は変わりません)
(よかったです)
(よくはないのですが)
ネネは壁の破片を一つ拾った。
「この石、再利用できるのではないか」
「できる」
「持っていくか」
「重い。置いていけ」
「むう」
「費用対効果だ」
「なるほどのう」
ネネが田中の言葉をまた帳面に書き込んだ。
それを見た救出者たちがざわついた。
「異世界の魔王が石材再利用を検討している......?」
「しかも自然に......?」
田中は振り返らない。
グラが胸ポケットから顔を出し、崩れた壁の破片を見た。
「グゥ」
「食うな、腹をこわす」
「グゥ!?」
「石は食い物じゃない。食費削減にもならん」
「グ......」
救出者の一人が小声で言う。
「このパーティ、壁を食費で判断している......?」
エリュシアは聞こえなかったふりをした。恥ずかしすぎて顔が赤くなっていた。
******
通路を進みながら、男が説明してくれた。
自分たちは倹約同盟。
この世界の「消費強制」に反発した者たちが作った秘密組織だという。
「予言の節約の勇者が来た」という情報は、地下ネットワーク経由で入っていたらしい。
「名前は何という」
田中が聞いた。
「ロンドという者です!! この組織のリーダーを務めています!!」
田中が少し黙る。
「......コーディーだ」
「......は?」
「お前はコーディーだ。以上だ」
男が固まった。
エリュシアが男に耳打ちする。
「田中さんは初対面の方に、決まった名前をつける慣習がございます」
「決まった......名前?」
「田中さんの世界にある”ゲームのキャラクター”です。正義感が強く、理不尽に立ち向かう人物の名前だと思います。おそらく......」
「おそらく、なんですか」
「田中さんに理由を聞いたことがないので、おそらくです」
コーディーは困惑しながらも先を歩いた。
「では、私の本名は......」
「削れ」
「えぇ!?名前を!?」
「長い説明はいらん」
「まだ説明していません!!」
「ならいい。以上だ」
コーディーは何かを言いかけたが、やめた。
この人に言い返すと、説明の方が長くなる気がしたからだ。
******
地下基地に案内された。
そこはとてつもなく広かった。
そして広すぎた。
石造りの大扉の向こうに広間があり、天井には魔法シャンデリアが六本。
壁面には革命の歴史を描いた大型壁画が二枚。
中央に長テーブルが二本、革張りの椅子が二十脚。
隅の魔道暖炉が三台、全部稼働中だった。
さらに奥には「革命記念陶器セット」と書かれた棚まである。
田中は一周見渡した。そしてクソデカため息をつくと――
「全部削れ!!」 と大声で叫んだ。
コーディーが即座に反論する。
「革命の士気のためです!! 豪華な拠点が組織の結束を高めます!!」
「士気に内装は関係ない」
「あります!!」
「戦う前に座り心地を確認するのか」
「......しません」
「ならまず椅子は減らせ」
「ですが会議が――」
「立ってやれ。眠くならん。合理的だ」
コーディーが詰まった。
ベータがすでに隅の椅子に座っていた。
「ここに来れば合流できると計算した」
「正しかった」
「椅子は多い」
「むかつく」
「記録する」
トルネコもテーブルの端で帳面を広げていた。
「田中はん、先にトンズラして申し訳ありまへん!!組織の内情を探っておきましたわ!しかしこの基地、革命組織にしてはえらい金かかってますなぁ!!」
「わかるのか」
「ワテは根っからの商人でっせ!!」
「なら手伝え」
「任せなはれな!!削減見積もり、出しますで!!」
コーディーが青ざめる。
「な、なぜ救出した側が、いきなり監査されているのですか」
「無駄があるからだ」
「革命に費用対効果を求めないでください!!!」
「求めなければ負ける。以上だ」
広間が田中の言葉でピシャリと静かになった。
エリュシアはその空気を見て、内心で少しだけ笑った。
(田中さんはいつでも同じです)
(世界が変わっても、最初の一言が「削れ」です)
(よかったです)
(......よかったです?)
ネネが壁画を見ていた。
「......この絵は、いくらかかる」
「壁画師を呼んで――」
コーディーが止まる。
「......一枚で八千Gです」
「削れるな」とネネがニヤリとしながら言った。
コーディーが田中を見る。
田中は帳面に壁画、暖炉、椅子、シャンデリアの項目を書き並べた。
「まず、ここだけでかなり削れる」
「革命の象徴が......」
「象徴より維持費だ」
田中は、帳面に一本線を引いた。
「基地の固定費が見えたな、節約完了」
「まだ何も完了していません!!」
コーディーが叫んだ。
ネネは真面目に頷いた。
「いや、見えた時点で半分は終わっている」
「魔王様まで!?」
コーディーは混乱しつつ思った。
(二人から言われた)
(なぜ魔王まで削れと言うのか)
(何がどうなっているんだ)
グラが胸ポケットから顔を出す。
「グゥ」
田中が言った。
「暖炉三台もいらん。グラを膝に置けば暖かい」
「グゥ!?」
「光熱費も人件費ゼロだ」
「グゥ......」
ネネが真面目に頷く。
「グラ暖房か」
「さすがにそれは採用しないでください!!」
エリュシアが即座に止めた。
ベータが小さく呟く。
「グラ暖房」
「コストゼロ」
「本人の同意なし」
「むかつく」
「でも合理的」
「記録する」
「記録するな、覚えろ」
田中が言った。
「グゥ......」
グラがさらに小さくなった。
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※おじさん解説!
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ファイナルファイト、というゲームがある。
カプコンが1989年にアーケードで出したベルトスクロールアクションだ。
元プロレスラーにして現役市長のハガーが、ギャング団に誘拐された娘を救うために戦場に飛び込む話で、昭和の父親像を体現したキャラクターだ。
コーディー・トラバースはその相棒の青年格闘家。
「正義のために戦う」が口癖で、のちに冤罪で投獄される展開になる。
牢屋から救出した革命家にこの名前をつけた田中の選球眼がどこまで意識的なのかは、本人に聞いてもたぶん「常識だろうが」で終わる。
あと、秘密基地はロマンだ。
だがロマンはだいたい固定費が高い。
常識だろうが。
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※神界業務日報 第百二回
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本日、田中さんがレジスタンスに救出されました。
救出費用:一万五千G。
田中さんのコメント:「高い。次は石でいい」
救出後の第一声が「いくらかかった」でした。
救出されている最中でした。
新世界のリーダーは「コーディー」と命名されました。
地下基地は豪華でした。
田中さんは「削れ」と言いました。
ネネ様も「削れるな」と言いました。
魔王が節約用語を使いこなしています。
神界書類に記載する用語がありません。
追記。
グラさんを暖房扱いしようとしました。
止めました。
以上です。
エリュシア
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※魔王の家計簿 第百二回
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救出された。
費用:一万五千G。
田中は「高い。次は石でいい」と言った。
正しい。
基地の壁画は八千G。
無駄だ。
削れと言った。
田中と同じことを言った。
コーディーが驚いていた。
なぜ驚くのかわからない。
常識だろうが。
追記。
グラ暖房は少し良いと思った。
エリュシアに止められた。
ネネ




