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【完結御礼】思い出したら世界が終わる――過去の記憶を失くした転生魔法姫は、それを知らない  作者: 香坂くらの


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008 リアル世界の現実

今までにない不可思議な展開になってしまってます。

暗闇姫ハナヲの別次元物語。開始。


 放課後の校舎は、昼間よりもずっと静かで――少しだけ、ウソが剥がれたみたいに見えた。


「……こっちだにゃ」


 前を歩くマカロンは、いつもの軽さのまま、誰も使っていない奥の廊下へと進んでいく。

 窓の外は夕焼け。なのに、とどく光がやけに遠い。


「なあマカロン。ほんまにこんなとこ入ってええん?」

「ダメって言われたことはないにゃ。言われる前に入ってるから」

「それ、アウト寄りの理屈やで」


 軽口を叩きながらも、足は止まらない。

 止まれない、の方が正しいかもしれない。


 ――止まったら、考えてしまうから。


 ルリのこと。

 サラのこと。

 そして。「選ばなあかん」っていう話。


 選ぶ。「なんやのそれ」って。


 やがてマカロンが立ち止まる。

 そこは――ただの壁にしか見えなかった。


「ここだにゃ」

「いや……、どう見ても壁やけど」

「見た目に騙されるのは、だいたいニブイ証拠にゃ」

「ニブイか、地味に刺すなあ……」


 マカロンが前足で、壁を軽く叩く。


 ――コン、と音がした。


 次の瞬間。

 壁が溶けた。個体が液体に変化したみたいに。


「……え?」


 水か油か、とにかく揺らぎ流れ去る。

 その向こう側に、別の【空間】があんぐりと待ち構えていた。


「ここ観測室。ここで裏側を見るにゃ」


 当たり前に説明してからマカロンはさっさと中へ入ってった。


 わたしも続く。


 中は暗かった。

 いや。暗いというより――


 何かが足りない。

 そんな感じだった。


「……ここ、何もないやん」

「よく見るにゃ」


 言われたんで目を凝らす。

 最初は何もなかったはずの空間に、じわじわと輪郭が浮かび上がる。


 これは――街か!


 見慣れたはずの、学校の周辺――のはずやけども。


「……あれ?」


 強い違和感が先に来た。


 電柱が木で、妙に低い。

 電線がごちゃごちゃに絡まっている。

 道を走っているのは――見たことのない、丸っこい車。


「……なんやこれ。レトロってゆーか……」


 店の看板も、読みにくい古い字体で書かれている。

 木造の平屋が立ち並び、トタン屋根が夕焼けを鈍く反射していた。


 遠くの方で、子どもたちが駆けていく。

 つぎはぎの、その服装も、どこか時代がかった――


「昭和……?」

「いい線いってるにゃ」


 マカロンが軽く言う。


「ここに見えてるのは、現実の重なりにゃ」

「重なり? 現実の?」

「記憶とか、感情とか、そういうものが混ざってる状態」


 眺めてると、予告なく。

 ――景色が、ずれた。


 ガタリ、と。


 音がした気がした。

 建物の一部が歪む。


 トタン屋根がひしゃげ、壁が剥がれ――

 次の瞬間。

 それが別の形に組み替わる。


「……っ、え?」


 さっきまで木造だったはずの家が潰れ、コンクリートの高層団地になり代わっていた。

 看板の文字も、少し新しい字体になる。

 通りを走る車も、さっきより角ばっている。


「……今、変わった?」

「変わってるにゃ」


 さらっと答える。

 いやいや、さらっと流していい変化じゃないよ?


「なんで時代進んでんの!?」

「進んでるわけじゃないにゃ。揺れてるだけ」

「揺れてるだけで昭和が更新されてくん!?」


 マカロンは、くるりと尻尾を振る。


「ここは、()()()()()()()()()()()()()()()()()

「ごめん。それってムズかしいって」

「簡単に言うと、つまりは安定してないにゃ」


 確かにそう言われると、その言葉の通りやった。

 街がまたさらにグニャリと歪む。


 今度は、さらに新しい風景に変わる。


 アスファルトが綺麗に整備され、建物の高さが増していく。

 ガラス張りの店舗。

 明るい看板。

 さっきより、ずっと見慣れた景色。


「……ちょい待ち。これって今の街やん」

「近づいてきてるにゃ」

「何に?」

「本来の形に」


 けれども。

 その本来も長くは続かんかった。


 ビシリと。

 何かにヒビが入る音がした。


 それとともに、ビルの外壁が裂けて。

 ガラスが崩れ落ちて。

 道路が波打ちだした。


 そして――

 いつの間にか消える。


 まるでそこに、最初からなんもなかったみたいに。


「……っ」


 息が詰まった。


 やが、次の瞬間には。


 また別の時代が重なろうとする。


 古い家屋。

 少し新しい街並み。

 今に近い景色。


 それらがぐちゃぐちゃに混ざり合いながら、


 ――崩れては戻る。溶けては混ざる。

 ――戻っては崩れる。流れては固まる。


「……なんやこれ」


 笑えんし、言葉も出なくなる。

 さっきまでの、内心面白がってた気持ちが完全に失せ切った。


「だから。これが現実の世界だにゃ」


 いつも通りの調子で言ってのけるマカロン。

 彼にとっては興味も無くなったかのように感情を示さないただの日常風景。


「壊れてる最中の、現実」


 その言葉と同時に、またひとつ、街が形を失った。


 落とした視線の先で、崩壊と構築を繰り返す街。

 その頻度が、少しずつ上がっている気がした。


「……もっと、壊れるにゃ」

「もっと?」


「……そして、戻らなくなるんにゃ」

「戻らなく……なるん?」


 つよく頷くマカロン。「分かってくれたか」と満足した様子。


「うむ。そういうことにゃ」


 シャーッ。と威嚇しだすマカロンの合図で、風景が大きく変化する。


「――っ!」


 息が止まる。

 崩れてしまった街が。

 再構築しなくなった。完全に停止した。


 まさしく真っ暗闇。


 これは。未来……なん、か?


「これはボクの頭の中でシュミュレーションしたもの。放置した場合の可能性のひとつにゃ」

「ひとつ、って……他にもあるんかいな……」

「だいたい似たようなもんにゃ。どっちにしろ救いはないにゃ」


 頭が追いつかん。


 それでも。

 ひとつだけ、はっきりした。


「……止めなあかん。そんなの」


 口に出していた。

 自分でも驚くくらい、自然に。


「せやないと、これになるんやろ」

「そうだにゃ」


 マカロンはクルリと振り返る。

 その目は、いつもの飄々としたものに戻っていた。


「だから修行にゃ」

「修行、ねぇ。急に雑やなあ」


 もう一度崩れかけた街を見る。

 これは「現実」やとゆう。


 夢でも幻でもないと。


 ――やったら。


「逃げてる場合とちゃうか」


 小さく呟く。

 それを聞いたマカロンがククと笑う。


「やれやれ。ようやくスタートラインにゃ」


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