012 魔法学校に願書をもらいに行った
7月のある日、サラさんに伴われて魔法学校の入学願書の用紙を受け取りに行った。
すでに地元の中学には通っていたので、そこの制服を身にまとった。
半袖で涼しいはずの夏服だけども梅雨明け後の日差しは強烈で、ムシムシした暑気に当てられ、アイスのようにデロデロに溶けてしまいそうやった。
待望の冷房バスが来た時にはオアシスに辿り着いたみたいな幸せな気分になった。
魔法学校は管区ごとに一校あり、サラさんに紹介されたのは関西新校と呼ばれていて、いわゆる人材を広く募るために新設された実験校のひとつやった。
赤紫鈴を有する魔法使見習いはもちろんのコト、生まれながら魔法の素養を秘めた者、努力して能力を体得した一般人、中には特殊技能を身につけたいOLなどもいて、様々なタイプの人間に寛容な門戸を開いているんやった。
それもこれも実情は魔法使希望者が減っているせいだと、道すがらにサラさんがこぼしていた。
「命がけの仕事だもんね、魔法使いは」
「な……! 薄々気付いてたけど、やっぱ命をかけるほどの職業なん?」
「うーん、そうねえ。通常は魔法という特殊能力を活かして町の便利屋さんみたいな事をしたり、時には警察とかのお手伝いもあるかな。だけどもいざとなれば、……あ、着いたわよ。降りましょ」
話を途中で打ち切ったサラさんは、学校名を冠した停留所にあった校門の守衛に学生証を提示した。
願書を貰いに来たと言ってわたしを指すと、守衛は矯めつ眇めつし教務棟の方を指し示した。
「あぁ紹介訪問でしたね。学年主任にアポ取りされたと確かに伺っています。どうぞお入りください」
木造四階建ての小ぢんまりした校舎は林の中に建てられ、新築の清々とした雰囲気を漂わせていた。ただ魔法学校らしく、洋館風に寄せた外観は、いかにも日本人が「これぞ魔法学校なり」と気負った感が否めず、なんだか可笑しかった。
「この校舎、学年主任がデザインしたのよ。ユニークでしょ」
「はあ。なるほど。でもちょっと小さくない? 魔法学校って案外生徒少ないの?」
「これは学年教務員用の建物。一年生を担当する先生たちの、いわゆるただの専用職員室よ」
そ、それはすごい。
「――は? 学年主任は本日ご登校の予定はございませんが?」
通された応接室で、応対した女子小学生ににべもなく告げられた。
サラさんが顔に朱を注ぐ。
「かんなぎリン。調子に乗ってんじゃないわよ。ウソついてないで、さっさと学年主任を呼びなさい」
「生徒会長。お言葉ですが、居ないものは居ないです」
「……この子、どなた?」
「申し遅れました。初めまして。わたし、魔法学校初等科に在籍の【かんなぎリン】と申します。学年主任の秘書を仰せつかっております」
「と自称する、ただの一生徒よ」
「な。失敬な。生徒会長と言えども学年主任をバカにするとただでは置きませんよ?」
「別に学年主任はバカにしてない。あなたの自己紹介を正してるのよ」
えーと……かんなぎリンちゃん?
年の頃9歳か10歳くらい?
髪を三つ編みにし、サラさんと同じセーラータイプの制服を着ている。
目がキュルンとしてて多彩な表情をする。
こんな小っちゃい子なのに、割と口達者に年長者を相手にしてる。
もうそれだけで感心しちゃうし圧倒されちゃう。
「……であなた、魔法使の証である赤紫鈴は持ってるんですか? あ、ちなみにわたしは持ってますよ、へへん。見てくださいな、もう8級なんですよ!」
「それって何級まであるの?」
「8級よ」
フーン。いっちゃん下の級か。
「うっさいですねー! それでも魔法使の証には違いないでしょう、プンプン」
「……自分でプンプンとか言っちゃうんだ?」
「黙れこの……んーと……ちょっとプリティだからって調子乗ってんじゃないですよ、このガール!」
長いな。それと、ややメンドーな子やな。
「もうどうでもいいから早く学年主任連れて来るか、願書の用紙を渡してよ?」
ムーッと膨れて部屋の片隅に設置された電話の受話器を持ち上げた。
ジーコジーコとダイヤルを回す。あー昭和だぁ、黒電話ってやつだぁ。
「――あ、もしもし。わたしです、かんなぎリンです。先生きょう何かお約束されてましたか? はい、はい……あ、忘れてた? はー、でもお昼ご飯食べたから眠い? あー? はー? 何とか誤魔化して追い返せ……分かりました。挨拶は無しで、上手く伝えておきます、お任せください。……え? あ、いや、新発明品のお試しですか? えーと、えーと、えーと。わ、わたしは大丈夫です。はい。はい。では失礼します」
一礼し受話器をチンと置く。
「……あなた方、間違ってましたよ。お約束は明日ですね。でも先生の心遣いで本日願書は渡して差し上げます。感謝なさってください」
サラさんのこめかみにアオスジが立った。
「丸聞こえなのよ、全部」
学年主任の秘書ってゆってたよね、この子……。




