011 ゲーム喫茶でウエイトレス
商店街のATMでお金を下ろす。現金5万2千円也。
これがわたしに振り込まれる月の恩給。めちゃくちゃ有難い!
でも、生活するにはちょっと心許ない額かも。
月に支払う住宅ローンが3万6千円でしょ、さらにガス、電気、水道の光熱費が1万円ほど。
そんであとは携帯代が2千5百円。差っ引くと4千円弱が食費とかその他雑費に当てれる額。
ちょっとやない、かなり切ない。
なのでルリさまに頼んで多少なりの生活費を入れてもらうコトにしたんやが、これがまた厄介やった。
彼女、お金が振り込まれるや否や、すぐにムダ遣いをしちゃう癖があった。
洋服やクツとかだけならまだ「オサレさんやねぇ」で話が終わる。
ところがそれに加えてアニメグッズや推し活とやらにお布施しまくっている。
糺してみれば既に今月も「あいます?」 とやらのイベントか何かに大枚を投じてしまったらしい。
手元にはもう8千円ほどしか残って無かった。
「ちなみに! ルリさまは月にナンボもらってんの!」
「ナンボ? 何ソレ、今度は何語よ? え、お金? えーと30……んー、忘れた」
「……ヤバ、この人。ってコトはつまりたった1日で30万溶かしてる? その推し活に? それ転移しすぎやろっ!」
「ばっ、バカにしてんじゃないわよっ! わ、わたしだってそれじゃダメだって思ったから、だから、だからっ! バイトしてたんだからねっ!」
あー。
――で、あのゲーム喫茶に通い続けてるワケね。
あと学校に行かなくなった、もとい、行けなくなった理由も垣間見えた。
「わかった。そこで一緒にバイトしよう」
「い、一緒って?」
「ルリさまと、わたし。週に何回か」
「えええ……?! い、イヤよ。なんかハラ立つし」
「何があなたを腹立たせるんや?」
どこでどんな風に、立腹する要素があるとゆーんや?
「わたしとじゃイヤってわけ?」
「はぁ? そんなの一切合切、ひとことも言ってないでしょーが! どこに耳つけてんの? 足にでもついてんのかなぁ? とほほ、正気疑うわー」
歌い踊るようにクルクル回転しながらセリフを吐く。
たかが言い返しにどんだけの労力をかけて増幅を図ってるんや?
「じゃ決定ね」
「はああ?」
店に挨拶に行くぞと強引に決めた。
◆◆
店内は昼すぎでもあって、学生さんをはじめ外回り中のOLさんらしき人たちでにぎわっていた。
ちょうど店長っぽい女性が一人でおおわらわになってたので、ルリさまが慣れた感じで手伝いはじめ、わたしも彼女に倣って見よう見まねで給仕の応援を始めた。
「悪いわね。魔法学校の子?」
「――あ、あの。わたし暗闇姫ハナヲと言います。履歴書を持ってきました」
「あぁ。暗闇姫さん、久々のシフトじゃない。その節は大変だったわね。もしかして入院でもしてた? お見舞い行けなくてごめんね」
「へ? い、いや……」
ルリさまがジト目で、
「この子、黒姫師匠では無いの。同姓同名の、ただの一般人」
「えええっ、そーなの? まるで本人そっくりじゃないの!」
「改めまして、暗闇姫ハナヲです。何でも頑張ります」
照れてたら背中をツンツンされた。
白と黒を配色したツートンのミニスカワンピに白くておっきなエプロン。
サイコーに可愛い制服のルリさまが「うーん」と咳払いした。
制服に着替えろとのコトらしい。
うえいとれす、かぁ。かわいーし、嬉しかー。
「似合ってるかな?」
「別にぃ。黒姫さまはバッチリ似合ってたけどね!」
「……」
「あっ! べっ、別に。あなたが似合ってないとか言ってないでしょ!」
――こんな感じで週3日、ゲーム喫茶『黒い三連星』でウエイトレスをすることになった。
やったー。




