001 わたし、ローンで家を買ったん?
電車を降りた。
見知らぬ街のはずやが、どことなく安心感を覚えた。
わたし、何でこの駅で降りたんやろ?
「アレ?」
どことなく憶えている……気のする古そうな商店街。
地方の一都市、半世紀前にはきっと賑わっていただろう街並み。
うーん。この感覚、過去の記憶?
プラモ屋、ペットショップ、金物屋……。何だか、どうも店の質が偏ってる気がする。
振り返ってもう一度、周囲を眺める。
踏切とさっき降りた駅。
「人っ子一人、いない……」
アーケードの天井下に大きな時計が掲げられている。
……15時、か。
セーラー服の集団が通りかかった。まるで出番を待ってたかのような登場。でも人の気配を感じなかったわたしには助け船のように思えた。
「あのう……」
勇気を振り絞るわたし。
何故だか分かんないが、妙に緊張するし、目が合わせられない。
すると。
彼女らは何を思ったのか、突然横一列に並び、わたしに向かって敬礼した。
「あ、あのう……」
こ、コワイ。何なん、この人たち?
今の今まで談笑してたのに、身を固くして敬礼を止めない。埒が明かない。
「あの、わたし。何処の誰で、目的地は何処なんでしょうか?」
我ながらアセな質問だ。だって名前すら思い出せないんだもの、仕方がない。
そんなのに答えるヤツぁ、いるワケないっ。と思いきや。
「キミ、黒姫さまでしょ?」
「――え? わたしのコト、知ってるの?」
「知ってるも何も、この地区の魔法使だし、同じ学校だし」
「キミほどの有名人だったら全校生徒が知ってるよ」
はぁ……? 有名人なんや、わたし。
「わたしたちからすると、キミは後輩だけど階級は上なんだよね」
あー?
そゆコト?
「目的地って家だよね。この道をまーすぐ行ってえ。たばこ屋の角を右、かな」
「そのまま坂をちょっと上ったら、ふたつ目の信号を右ね」
……ウソ。メチャ詳しい。
「アリガト、ございます」
「その代わり寮を抜け出してた事、見逃してね」
「わ、分かりました」
お礼もそこそこに彼女たちと別れ、とりあえずは教えてもらった場所を目指す。
他にアテがないもので。
商店街が途切れて田舎道になり、お地蔵さんやら鳥居やらを横目に眺めてやり過ごしてると、急勾配の階段に差し掛かった。
ふうふうはぁはぁと息を乱して登り切ると、神社の境内が広がり、そこの端っこに細い山間の径路があった。まだ歩くのかと閉口しながら分け入ると、旧式の一軒家があった。
門柱がセメントのブロック、タイル張りの壁、やたら艶感のある屋根瓦。
ああ。実に昭和チックや。
ドアには張り紙があり、売約済と書いてある。
わたしはなんの躊躇も無く、その家に入った。なんのことはない、鍵がかかっていなかったせいだ。もっとも、かかってる、かかってないの確認なんて、しようともせんかったんやが。
玄関入ってすぐに二階に続く階段。右は壁、左手にキッチン、つか台所があった。
台所の真ん中に食卓テーブルが鎮座している。
そこに書類がぽつんとあった。
こう書いてあった。
暗闇姫ハナヲさん、今日からこの家はあなたのものです。
そして長期ローン返済計画表が添えられてあった。
「35年変動金利」
なぬ?