ep 37
【デュフラン到着、そして復讐】
デュフランでの護衛任務を無事に完了させたリューネ、ラビィ、ドラゴの三人は、依頼主のワカバから改めて深い感謝の言葉を受け、確かな達成感を胸にグルンストラ国(首都アルトゥン)への帰路についていた。道中は順調で、以前通った湖畔なども、今度は心穏やかに通り過ぎることができた。アイアンランクとして、初めての本格的な依頼を成功させた自信が、三人の足取りを軽くしていた。
しかし、アルトゥンの街がもう間近に見えてきた、その時だった。
ザワリ、と空気が震えた。まるで濃密な殺意が実体を持ったかのように、凄まじいプレッシャーが三人を襲う!
「な……!?」
「この感じ……まさか!」
「……来たか」
前方の街道を塞ぐように、巨大な影が立っていた。燃えるような憎悪を宿した四つの赤い瞳。二つの頭を持つ、黒い魔獣――オルトロス! 以前遭遇した時よりも、その体には生々しい傷跡が増え、特に片方の前足は不自然に引きずっている。だが、その傷が逆に、その身に纏うオーラを、復讐心に燃える狂気じみたものへと変えていた。復讐鬼と化したオルトロスが、自分たちを傷つけ、屈辱を与えた獲物を、執念で追いかけてきたのだ!
逃げ場はない。そして、逃げる気もなかった。
「……やるしかない!」リューネは覚悟を決め、剣と盾を構えた。
「うん!」ラビィも弓を引き絞る。
「今度こそ、やっつけてやるダゴ!」ドラゴも両手斧を握りしめた。
「ラビィ! 遠距離から、前回と同じく足を狙って動きを封じて! ドラゴは私と一緒に前衛! あの巨体を押さえ込み、隙を作る!」リューネが瞬時に指示を出す。
「了解!」
「任せるダゴ!」
三人は、それぞれの役割を確認し、復讐鬼へと立ち向かう!
「まずは、私が行く!」
リューネは盾を前面に構え、オルトロスに向かって一直線に突進した! 以前のように、まずは自分が攻撃を引き受ける!
「グルオオオォォッ!」
オルトロスは、リューネの突進を意に介さず、その巨大な体躯を活かして押し潰そうと、二つの頭から同時に噛みつきかかってきた!
「くっ……!」
リューネは盾で牙を受け止めるが、凄まじい衝撃に腕が痺れ、押し返されそうになる。だが、歯を食いしばり、耐え忍んだ。
「ドラゴ! 今だ!」
リューネが叫ぶ! その声に応じ、ドラゴが側面から両手斧を叩きつけた!
「うおおおお!」
ガギンッ!と硬い鱗に斧が弾かれる音がしたが、その衝撃は確実にオルトロスにダメージを与えた。
「ガルッ!?」
オルトロスはよろめき、リューネから一瞬だけ距離を取った。
「ラビィ! チャンスよ!」
その隙を見逃さず、リューネが叫ぶ!
ヒュン! ラビィが放った矢が、正確にオルトロスの傷ついた前足に突き刺さった!
「グギャアア!?」
オルトロスは激痛に咆哮し、さらに動きが鈍る!
「よし! この調子よ!」
リューネは好機と見て、再びオルトロスに突進する!
しかし、傷を負い、怒り狂った魔獣は、より危険だ。オルトロスは、リューネを無視し、遠距離からチクチクと攻撃してくるラビィに狙いを定めた! 二つの頭から、黒い霧のようなブレスが放たれる!
「ラビィ! 危ない!」
リューネは咄嗟にラビィの前に飛び出し、盾を構えた! 黒い霧が盾に当たり、ジュウゥ…と嫌な音を立てる。盾がわずかに腐食している!
(なんて力……! でも、防いだ!)
「ドラゴ!」
リューネがオルトロスの攻撃を防いだ、その一瞬!
「任せるダゴォ!」
ドラゴが再び両手斧を叩きつけた! 今度は無防備な脇腹だ!
「グオッ!?」
オルトロスは苦痛の表情を浮かべ、体勢を崩す。
「今よ! ドラゴ! もう一度、足を!」
リューネの指示に、ドラゴは狙いを定め、先ほどラビィの矢が刺さった、傷だらけの足に両手斧を振り下ろした!
「うおおおお!! これでどうだゴ!」
ゴシャッ!と骨が砕けるような鈍い音が響き、オルトロスはたまらず悲鳴を上げた!
「グオオオオオオオオッ!!」
完全に片足が破壊され、巨体が大きく傾く!
「ラビィ! とどめよ!」
リューネが最後の指示を出す!
ラビィは、最大の集中力で弓を引き絞り、狙いを定めた。狙うは、敵の急所――その燃えるような赤い瞳!
「これで……終わりっ!」
放たれた矢は、吸い込まれるようにオルトロスの一つの頭の目に深々と突き刺さった!
「ギャアアアアアアアッ!!」
視力を奪われたオルトロスは、狂ったように暴れ回る!
「今だ! ドラゴ! リューネ!」
ラビィの叫びに応え、リューネとドラゴが最後の攻撃を仕掛けた!
「はあああああっ!」
「これで終わりダゴォォォ!!」
リューネの剣が、ドラゴの斧が、同時にオルトロスの巨体に深々と突き刺さった! 心臓部を捉えた確かな手応え!
「グ……オ……オ……ォ…………」
オルトロスは、最後の力を振り絞るように天に向かって咆哮すると、やがてその巨体を震わせ……ついに、どしん、という地響きを立てて、動かなくなった。
「…………」
「…………」
「…………」
辺りには、魔獣の巨体と、三人の荒い息遣いだけが残された。
激しい戦いの末、リューネ、ラビィ、ドラゴの三人は、ついに復讐鬼オルトロスを打ち倒したのだ。
「やった……! やったね……!」
リューネは、震える足で立ち上がり、剣を杖代わりにしながら、息を切らせて言った。
「もう……大丈夫……」
ラビィも、弓を下ろし、安堵の表情を浮かべた。
「やったダゴ! オレたち、勝ったダゴ!」
ドラゴは、両手斧を高々と掲げ、勝利の雄叫びを上げた!
三人は、互いのボロボロになった姿を見て、顔を見合わせ、そして笑い合った。疲労困憊だったが、強大な敵を打ち破った達成感と、仲間との揺るぎない絆が、彼らの心を熱く満たしていた。
こうして、リューネたち「戦乙女・ローズ」は、復讐鬼オルトロスをも打ち倒し、ガーディアンとして、また一つ大きな成長を遂げたのだった。




