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チートスキル『早着替え』で異世界無双~脱衣も着衣もお手の物~  作者: 戸部家 尊


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第11話 潜入は裸城のように 中


第11話 潜入は裸城のように 中


 翌日の夜、諭吉は制服姿で下宿を出た。必要な荷物は既に『クローゼット』に収納済みだ。ここから領主の館まで歩いて三〇分。制服を選んだのは、誰かに見つかった時に怪しく思われないためだ。もちろんこのまま忍び込むつもりはない。専用の着替えも『クローゼット』に入れてある。


 途中で何度か巡回の衛兵に出くわしたが、制服のお陰で誰何の声を受けず、無事に辿り着けた。

 館の近くにある藪の中で、淡い月明かりを頼りに折りたたんだ紙を広げる。ローズマリー校長から預かった、館の見取り図だ。


 領主の館は町の最北端、グレンミラー湖のほとりにある。うずたかい丘の上に立てられた石造りの三階建て。よく言えば質実剛健、悪く言えばなんの飾りっ気もない、砦のような無骨さを誇っている。


 館の周囲は二重の塀に覆われ、その間を常に衛兵が巡回している。壁と壁の間を行き来するのは大きな扉のみ。また塀の上にも石弩が据え付けられており、弓兵と合わせれば空からの敵にも矢の雨を浴びせるだろう。


 館の裏にあるグレンミラー湖は直径数百メートルの大きな湖である。風もなく透き通った水面は、鏡のように夜の雲と月明かりを反射している。泳ぐか船で行けば、すんなりと館まで近づけそうだが、ここはカリオスの巣窟である。


 サメのような巨大な肉食魚であり、人も食べる。夜行性のため昼間は湖の底深くにいるが、夜になれば湖面近くまで登ってきて獲物を探し求める。小舟ごと人を襲った例もあるという。


 侵入が難しいとなれば魔法の出番であろうが、結界が館の周囲に張ってあり、魔法を使うとすぐに見つかる。

 八方手詰まりだ。頼みの綱は結界にも感知されない『スキル』だけだが、『早着替え』で、どうしろというのか。


 明らかにミスマッチである。もっと相応しい『スキル』があるだろう。『動物に変身する』とか『誰にも気づかれなくなる』とか。そういう奴にやらせればいいものを。


 愚痴をこぼしたくなるが、歯を食いしばってぐっとこらえる。

「がんばろうね、ユキチ!」

 トムに聞かれたらまた泣き出すのは目に見えていた。


 あの後、下宿へ戻るなり「自分も付いていく」と言いだした。危険だからと何度も諭したのだが頑として聞かなかった。


「元はと言えば僕のせいじゃないか。僕のせいでユキチが危ない目に遭うのに、自分だけ何もしないで見ているなんてイヤだよ」


 別にトムのせいだとは思っていない。あの時、教師に正直に報告する選択だってあったのだ。それを賢しげに小細工を弄して、職員室に侵入し、未遂とはいえテストを盗み出すように指示したのは間違いなく諭吉である。自業自得だ。自分のうかつさを悔やみこそすれ、トムを恨むつもりは毛頭無い。ローズマリー校長からも成功の暁には例の一件は不問に処す、とのお墨付きもいただいている。


 何より『鍵』が絡むとあっては、諭吉はやるしかないのだ。一応、報告もしてあるので問題はないだろう。


「こう見えても僕、腕には自信あるんだ。ウチのおじいちゃんが猟師でね。昔よく弓の使い方教えてもらったんだ」


 と、子供の遊び道具のような弓を掲げる。正直、頼りない。強引に縛り上げて置いていこうかとも思ったが、同居人との関係を悪化させたくもない。結局諭吉が折れた。


 今も諭吉の隣で弓を抱きながら身を潜めている。服装こそ制服だが、背中には矢筒を背負っている。よくこれで職質されなかったものだ。


「これからどうするの?」

「まあ、見てろ」

 と、諭吉は指を鳴らした。その瞬間、二人の服装が変わった。


「え、え?」

 トムが目を丸くする。弓と矢筒はそのままで、『早着替え』で着せた服装は、赤い帽子にシャツに上着、下は赤いタイツ。以前、下宿先の古着屋に買い取られた道化の服装である。諭吉も同じような服装だが、色は黄色だ。


「こんなのすぐに見つかっちゃうよ!」

「だからいいんだよ」

 諭吉は『クローゼット』から白い布を取り出す。


「これを俺の口に巻いてくれ。猿ぐつわみたいに口に噛ませる感じで」

「どうして?」

「説明は後だ。思い切りきつくやってくれ。簡単にはほどけないように。俺が終わったらお前にもやるからな」


 トムは首を傾げていたが、それでも諭吉の言うとおり布で口を塞いでくれた。続けてトムの口も塞ぐ。


「あ、うん……くっ」

 頼むから色っぽい声出さないでくれ。

 声が出せないので心の中で突っ込む。


 トムの口にも布を巻いた。あとはこれだな、ともう一度指を鳴らす。トムの目の周りを黒い布が覆った。トムがうなり声を上げる。急に視界を塞がれて困惑しているようだ。


 手で静かにするように合図をすると、館の方を見る。塀の外を数名の衛兵が動き回っている。門にも屈強そうな門番が立っている。


 あれがいいかな、と目を向けた先には二人の衛兵が巡回している。兜に、胸鎧、手甲すね当て。手には槍を持っている。首に提げた笛は、仲間に異変を告げるためのものだ。衛兵たちは談笑をしながら姿塀の角の向こう側に消えようとしている。


 かがり火の明かりからも離れ、黒い影だけがぼんやりと浮かんでいる。諭吉は自身の顔にも黒い布を巻く。瞬きするが、やはり何も見えない。これでいい。


 『交換(エクスチェンジ)』、と心の中で唱えながら諭吉は指を鳴らした。次の瞬間、諭吉とトムは、衛兵の格好に変わっていた。


 これも『早着替え』の応用だ。自分と他人の衣服を取り替えたのだ。能力そのものは『早着替え』なのだが、用途に応じて呼び方を変えている。たとえ直接相手を見なくとも諭吉からの距離、そしてだいたいの位置と服装さえ把握していれば、『早着替え』は可能である。


 自身の姿が変わると同時に諭吉は、トムの手を引いて藪から飛び出し、大声で叫んだ。


「おい、貴様ら何者だ! ここで何をしている! ここをバザル(・・・)と知っての狼藉か」


 諭吉はわざと別の土地の名前を口にする。バザルはこの町の隣にある教会領である。土地を巡っての対立もあり、上から下まで仲が悪い。声を掛けられた男たちは、赤と黄色の道化姿をしていた。


「答えろ! さもなくば賊と見なす!」

 くぐもった声が聞こえた。おそらく「自分たちは、イースティルム領主の館の衛兵だ」と主張しているのだろう。


 けれど口の中に噛まされた白い布がジャマでうまく喋れないようだ。おまけに目を黒い布で覆われて目もよく見えていない。突然の事態に混乱しているのが傍目にもよくわかった。


 諭吉は首に提げた笛を鳴らした。

「賊だ! 賊が出たぞ! 捕まえろ!」

 呼びかけと、笛の音を聞きつけてたくさんの足音が近付いてくる。


「盗賊はここだ! 捕まえて拷問に掛けてやれ!」

 諭吉の宣告に、道化姿の男たちが目に見えて狼狽する。


「逃がすな! 追いかけて捕まえろ!」

 これがトドメになった。道化姿の男たちは混乱した様子で、藪の方へと逃げていく。


 諭吉の言葉でパニックになり、正常な判断力を失ったようだ。


 予想以上にうまく行ってくれたことに感謝しながら門の方に向かう。トムも後ろから付いてくる。金属の擦れる音が一際大きく鳴り響く。


「ち、ちょっと待ってよ! これじゃあ……」


 振り返ると、諭吉は自分の迂闊さに気づいた。トムの鎧はぶかぶかで、明らかにサイズが合っていない。確かに『交換』した衛兵のうち一人は、太っちょと言っていい男だった。


「悪い。うっかりしていた」

 このまま進んでは、すぐにほかの衛兵に気づかれてしまう。


「『裾直し(アルター)』」

 諭吉は指を鳴らした。その途端、トムの身につけていた鎧が生き物のように蠢き、体に合わせて収縮した。


「どうだ、きつくないか」

「え、あ、うん」度肝を抜かれたらしく、呆けた様子でうなずいた。


「『早着替え』ってそんなこともできるんだ……」

「『着替え』だからな。寸法合わせるのは基本だろ。あ、言っておくけど、それ脱いだら元のサイズに戻るから。うかつに外すんじゃないぞ」


「もうなんでもありだね」

「なんでもあり、じゃねえよ」トムのつぶやきに諭吉は即座に反論した。


「なんでも出来ないから自分の出来ること色々工夫してやっているんだよ。気楽に言うな」


 実際、『交換(エクスチェンジ)』も『裾直し(アルター)』も創意工夫のたまものである。与えられた能力をカスだハズレだと諦めていたら、諭吉の人生はとっくに終わっていただろう。


「ゴメン」

「ああ、いや。謝るのは俺の方だ。スマン、言い過ぎた」

 深呼吸して苛立ちを静める。


「前に同じ事を言った奴がいてな。その時にケンカになったんだ。その時の事思い出して、つい言葉が荒くなった。悪かった」

 諭吉は頭を下げる。それはいいけど、と言いながらトムがおずおずと切り出す。


「その人とはどうなったの? もしかして諭吉の大切な人?」

「死んだよ」諭吉はこともなげに言った。

「とっくの昔にな」


 門の前に来た。諭吉は息を切らせながら門番に呼びかける。

「大変だ。盗賊が出た!」

「俺は領主様に報告する。お前たちはここを固めて動くな。この隙に賊の仲間が入り込むかも知れないからな」


 早口で言い捨てて門を開けて中に入る。あまり長々話しているとボロが出る。「こんな奴いたかな」と諭吉の素性を怪しむ者も出て来るだろう。そうさせないためにもスピードで乗り切る。


 門番は明らかに動揺していたが、「誰だ」とは聞いては来なかった。

 次の門も同じ方法で通り抜けられた。

 あとは庭を通れば館まで一直線である。

 

「すごいよ、ユキチ。こんな方法があるなんて」

 後ろを走りながらトムが興奮した声音で告げる。


「でも、どうして口だけは縛らせたの? 『早着替え』なら口も塞げるんじゃあ」

「『スキル』だとその辺りの微調整が難しいんだ。手でやった方が早い」


 いくら不審者の格好をさせたところで、喋られたらあっという間に目論見は潰えてしまう。そうさせないためにも、特別念入りに口を塞いでおく必要があった。


「よくこんな方法思いつくよね」

「先人に倣った」

 名探偵のお孫さんの漫画は外伝・スピンオフ含めて全部持っている。



??「呼んだ?」

???「にゃあ」

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