第六話 王都防衛戦 中編
「うらぁ、かかってこぉい!!」
炎を纏い、フレイは帝国兵達を吹っ飛ばす。
戦闘が始まってから15分が経過した。まだまだ敵の数は多い。
「へへ、まさか自分の故郷と敵対することになるとはなぁ」
フレイは、帝国出身である。
だが、王国にやって来て出会った親友や王女様を見て、王国の味方をしようと思ったのだ。
「まあ、元からあの皇帝は気に食わなかったんだけどな!!」
襲いかかってきた兵士に炎を放つ。
炎は兵士に触れると爆発し、吹っ飛ばした。
「さぁて、まだまだいくぞ」
そう言って駆け出そうとした時、突然向こう側で戦っていた王国兵達が凍りついた。
なんだ・・・?
「ふん、炎使いか・・・」
兵士達が凍りついた方向から、青髪の青年が歩いてきた。
「なんだお前」
「お前達を殺すためにきた者だ」
そう言うと青年は体から魔力を放出した。
「なるほど、あんた、七魔導の一人か」
「ああ、その通りだ」
次の瞬間、先端が鋭く尖った氷がフレイの顔目掛けて飛んできた。
「っ───!!」
フレイは咄嗟にそれを回避した。
「よく避けたな」
「あぶねぇぇ、いきなりはずるいだろ」
どうやら彼は氷の魔導師のようだ。
「そう言えば名乗るのを忘れていた」
そう言うと青髪の青年はフレイに向かって自己紹介を始めた。
「俺の名はヘインズ。帝国七魔導のNo.Ⅵだ」
「俺はフレイ、まあよろしく」
フレイは纏う炎の火力を上げた。
「七魔導相手に手加減なんてしてるとまじで殺されちまうからな」
「ふん、全力で来ても無駄だ」
ヘインズも自分の魔力をさらに高めた。彼の足元にある花や草が凍りついていく。
「お前の炎ごと凍てつかしてやろう」
ヘインズが手を前に向けた。すると、手のひらから魔力の球が放たれた。
それを回避する。球はフレイの後ろにいた兵士達に当たると、その兵士の周りにいた者ごと凍らせた。
「当たるとやばそうだな!」
次々に放たれる球をフレイは回避していく。
「おらァ!」
躱しながら、フレイも炎の球を放つ。
だが、球はヘインズの足元から現れた氷の壁に防がれた。
「ちっ、溶けねーのかよ」
「当たり前だ、その辺の氷魔法と一緒にするな」
氷の壁が砕け、氷の刃となってフレイに襲いかかる。
「ぐっ!!」
咄嗟に炎を放ちガードしたが、溶けなかった氷の刃が体を切り刻んだ。
「ふん、その程度か炎使い」
「へへ、まだ本気出してねぇっつーの」
その時、フレイの体内から先ほどとは比べ物にならない程の魔力が放出された。
「なにっ・・・!?」
その魔力の量にヘインズは驚いた。なぜなら、フレイから放たれる魔力は七魔導にも匹敵する程のものだったからだ。
「へへ、久々に使わせてもらうぜ」
フレイはニヤリと笑い、炎を全身に纏った。
「まさか・・・、禁忌魔法か!?」
「さて、どうだろうな!!」
次の瞬間、フレイは炎をヘインズに向かって放った。
「ぐっ!!」
ヘインズは大きく上に跳びたい、炎を回避した。彼が立っていた場所を炎が焼き尽くす。
「いいだろう、俺も本気を出そう!!」
ヘインズの体内から魔力が放出された。
「禁忌魔法 《氷煉地獄》!!」
次の瞬間、辺り一面が凍りついた。
「っ────!!」
フレイは咄嗟に周囲に炎を放つが、その炎すらも凍りついていく。
これは防ぎきれないと判断し、フレイは大きく跳び上がった。
「無駄だ」
再びフレイの周囲の気温が一気に下がっていく。
空気が凍てつき、フレイの体が凍っていく。
「ぬがあああああ!!」
全力で炎を放出し、氷を溶かす。
しかし、再びフレイの体は凍りついていく。
「無駄だ、凍りつくがいい!」
「いいや、溶かす!!」
フレイはヘインズに炎を放った。
しかし、現れた氷の壁に防がれる。
「ふん、その程度の火力で俺の魔法は破れない」
ヘインズの使う禁忌魔法《氷煉地獄》は、彼の魔力が届く範囲全てを凍らせ続ける魔法である。
さらに、その魔法によって生み出された氷は例え七魔導であっても簡単には溶かすことはできない。
「どうする、諦めて凍りつくか?」
「んなわけねーだろ」
次の瞬間、凍りついていたフレイの足元が一気に吹き飛んだ。
さらに、そこから炎の渦が現れ、ヘインズに襲いかかる。
「くっ!」
咄嗟にヘインズは氷の壁を造り出したが、炎の渦はいとも簡単に壁を破壊した。
「ぐああ!!」
炎に身を焼かれ、ヘインズは大きく体勢を崩した。
そこにフレイが突っ込んでいく。
「くらえ!!」
ヘインズの顔面に炎の拳がめり込んだ。その衝撃で仰け反った彼の腹に強烈な蹴りが繰り出された。
吹っ飛んだヘインズに向ってフレイは炎を放った。
「凍りつけぇ!!」
ヘインズが腕を振るう。それにより発生した冷気が炎を凍りつかせた。
「ちっ、そう簡単には倒せねーか」
「お前こそ、なかなかやるようだ。まさか禁忌魔法を使うとは」
「いや、まだ禁忌魔法は使ってねーけど」
「・・・は?」
ヘインズは目を見開いた。
今までフレイが禁忌魔法を使用していると思っていたのだ。
だが、まだ使っていなかったという。
「馬鹿な、ただの炎が俺の魔法を溶かせるはずがない!!」
「まあ、俺の炎は禁忌魔法の影響を受けてるから、他の魔法と性質が違うんだ」
そう言うと、フレイが放出していた魔力の質が変わった。
「さて、今から見せるのが俺の切り札だ」
魔力は炎となり、フレイの周りを渦巻いていく。近くにいるだけで身を焼かれてしまいそうな熱気が辺りに満ちる。
「覚悟しろよ、氷野郎」
次の瞬間、炎の熱量でヘインズの魔法が一気に溶けていく。
「らああああ!!」
フレイの体から炎が放たれた。
「ぐぅっ!!」
ヘインズは咄嗟に氷の壁を造ったが、一気に溶けていく。
「火焔爪!!」
フレイの指先が燃え上がる。それを勢いよくヘインズに振りおろす。
ヘインズは咄嗟にそれを回避したが、燃え盛る爪で腕を抉られ顔を歪めた。
「まだまだぁ!!」
ヘインズの目の前に炎を纏った拳が迫ってきた。
あまりの熱量に目を開けることができない。
「があああ!!」
殴られた衝撃でヘインズの体が仰け反っていく。
「これで決める!!」
炎の勢いがさらに増した。
この一撃を受ければ恐らくヘインズは戦闘不能になるだろう。
だったら、その前に終わらせる。
ヘインズは周囲に飛散させていた自身の魔力をフレイの周りに集めていく。
「これは・・・」
「終わりだ、《氷殺牢》!!」
次の瞬間、フレイは氷に閉じ込められた。
「この魔法を受けた者はその氷の中で絶命する」
かなりの量の魔力を消費する代わりに、受けた者はこの魔法を破れない。
「なかなか強かったぞ、炎の魔導師」
「いーや、まだ終わってねーけど」
聞こえた声にヘインズは驚いた。おかしい、なぜ声が聞こえた。
フレイはまだ氷の中にいる。だったらどうして・・・。
「残念だけど、お前の自慢の魔法は俺の魔法には効かない」
そう言う声が聞こえた瞬間、フレイを閉じ込めた氷が弾け飛んだ。
「さあー、終わらせようか」
氷の中から飛び出してたフレイがヘインズの目の前まで一気に迫って行く。
「馬鹿な、どうやって・・・」
「簡単なことだ、俺のほうが強いんだよ!!」
フレイは残していた魔力を解放した。
「くらえ、禁忌魔法、《竜殺しの爆炎》!!!」
放たれた魔法は炎の竜巻のようだった。
その魔法に向ってヘインズが放った氷魔法は一瞬で溶けていく。
あまりの熱量に離れた場所で戦闘を行っていた兵士達が悲鳴を上げたのが聞こえた。
「ああああああああ!!!」
炎の竜巻は容赦無くヘインズを飲み込んだ。
次の瞬間、大爆発が起き、周囲の地面が吹き飛んだ。
しばらくして煙の中から姿を現したヘインズは全身に火傷を負っていたが、まだ息はあるようだ。
だが、意識を失ったらしく、その場に倒れ込んだ。
「ふぃー、やったかー」
七魔導を圧倒したフレイに近寄ろうとする帝国兵は一人もいなかった。
「あ、やべ」
久しぶりに禁忌魔法を使ったフレイは、かなりの魔力を消費したためバランスを崩し、尻餅をついた。
「ふう、さすがに疲れたな」
そう言ってフレイは向こうの方で行われている戦いに目を向けた。
とてつもない魔力と魔力がぶつかり合っていた。
「さて、一人は倒したんだ。そっちは任せるぜー、親友」
激戦を繰り広げている親友に向ってフレイは呟いた。
数十本の岩の槍が俺に襲いかかってきていた。
それを躱し、破壊していく。
「ふふ、どれだけ耐えれますかね?」
「しらん!!」
放たれる槍の数に俺は少々押されていた。
砕いても砕いても新たな槍が造られていく。足元にこれだけ素材があれば、魔力が無くならない限りずっと造り続けることができるだろう。
エリーズに近づこうにも槍の数が多すぎて簡単には近寄れない。
「一か八かやってみるか」
俺はそう言うと全身に魔力を纏い直した。
そして、前方に向かって魔力を放ちながら槍に向かって全力で駆け出した。
飛来する槍が俺の体を掠めていく。それを躱しながらエリーズに向けて疾走する。何本か避けれなかった槍が体に刺さるが、魔力を纏っているため深くは刺さらない。
まあ、それでもめちゃくちゃ痛いけどな。
「なっ───!!」
迫りくる槍の嵐を突破し、俺は魔力を手の平に集中させる。
これで決める!
だが、突然地面に片足が地面にめり込んだ。
「うおっ!?」
恐らくエリーズの能力で地面の性質を変えたのだろう。
まるで泥に足を突っ込んだかのような感触だ。
「それでは避けることはできませんね」
エリーズの足元が腕の形に変わり、猛スピードで俺に迫る。
咄嗟に腕を交差して身を守ったが、腕の骨にとてつもない衝撃がはしる。
「ぐっ・・・!」
再びエリーズの足元から腕が出現する。しかし、先程と違い数は5本。
「ちっ!」
5本の岩の腕が容赦無く俺に襲いかかってきた。
それを上に飛んで回避する。
だが、岩の腕は読んでいたかのように飛び上がった俺に向かって伸びてきた。
5発の拳が俺の体を殴りつける。その衝撃で俺はさらに上空に吹っ飛ばされた。
「ぐはっ・・・!」
自由に地面の形を変えることができる魔法。ここまでやばいとは思わなかった。
深紅の魔力を纏っている状態でここまで押されるとは。
空中で体勢を整え、下にいるエリーズに顔を向ける。
彼女の周囲には再び岩の槍が出現していた。
「行きなさい」
彼女がそう言うと一斉に槍が俺目掛けて飛んできた。
俺は全力で魔力を纏い、槍が俺の元に届く前に魔力を後方に放って勢いよく真下に向かって落下した。
「む、そういう避け方もあるんですね」
そう言うとエリーズはさらに魔力を放出した。
「面倒なんで、これで終わらせます」
エリーズが跳躍すると、周囲の地面が砕け、彼女の周りに集まっていく。
砕けた地面は次々と彼女に集まり、どんどん大きな何かを作っていく。
「おいおい、なんだこりゃ」
しばらくして出来上がったのは、巨大な岩の巨人だった。
巨人の中にはエリーズがいる。
『ふふ、どうですか。私のほぼ全魔力を消費して造り出した《大地の巨人》です』
おいおい、デカすぎだろ、これは。
現れた岩の巨人は、王都を取り囲む壁と同じぐらいデカかった。
こいつに殴られれば一撃で昇天するだろう。
突然現れた巨大をみて周囲の王国兵達が立ち尽くしている。
そりゃそうか、こんなのが壁のすぐ近くに現れたら、そんな反応するよな、普通。
多分壁も殴られれば一撃で崩壊する。それだけは阻止しなければ。
『さあ、いきますよ』
エリーズがそう言うと、岩の巨人が歩き始めた。
衝撃で地面が揺れる。
「ちょ、動けるんかい!!」
俺は巨人を止めるため、足を狙った。
『そう来ると思いました』
俺の攻撃が当たる直前、岩の巨人は足を上げた。あ、やっべ。
真上から猛スピードで岩の足が迫ってきた。
やばい、このままでは踏み潰される。
「くっ、死んでたまるか!!」
俺は深紅の魔力を手の平に集中し、腕を上げた。
巨人の足の裏に触れた瞬間に全魔力を解放する。
「《絶・零距離魔導砲》!!」
放たれた魔力が巨人の足を吹き飛ばした。
巨人はバランスを崩し、仰向けに倒れた。
しかし、今ので何人の人が押し潰されて死んだだろうか。
いや、ここは戦場だ。今はやつを倒すことに集中しよう。
俺は巨人の上に向かって跳んだ。
恐らくエリーズを引きずり出すか、気絶させればこの巨人も形を失うだろう。
胸辺りに着地し、腕に魔力を込めた。
次の瞬間、巨人の胸の部分の岩が剣のように形を変え、俺の腕を切り裂いた。
「ぐぁっ・・・!!」
後ろに下がったが、今度は後方から岩の槍が俺目掛けて飛来した。それを手で受け止め、真っ二つにへし折った。
「ちっ・・・」
腕からは血が溢れてくる。結構深く切られたようだ。
その時、巨人がむくりと起き上がった。どうやら砕けた地面を集めて足を再生したようだ。
俺は巨人から飛び降りた。
「・・・これ、どうやって倒そう」
はっきり言って、めちゃくちゃ強い。
硬いし、打撃を加えようとすると形を変えて攻撃してくるし、もうやばいよ、ピンチだよ。
『諦めたらどうですか?』
巨人の中からエリーズの声が響いた。
「いいや、諦めん」
出来るか分からんけど、やってみるか。
俺は深紅の魔力を空中に集めていく。
集まった魔力はサッカーボールのような大きさの塊に形を変えた。
「さあ、いくぞ!!」
俺は全力で浮かんでいる深紅の球を殴った。
その衝撃で球は巨人目掛けて猛スピードで迫っていく。
その球は巨人に命中すると、一気に膨らみ、爆発した。
『なっ・・・!?』
その爆発で巨人の右肩付近が崩壊していく。
「おお、できたか」
今のは手の平から敵の体内に直接魔力を送り込む零距離魔導砲を敵目掛けて飛ばしたものだ。
威力は少々落ちるが、広範囲に渡って爆発を起こす。
まあ、説明下手だから意味が分からないかもしれないけど、許してくれ。
「《広爆魔導砲》ってとこか」
『くっ、でも、すぐに再生させれますよ』
崩壊した巨人の肩が再生していく。足元から岩や砂を肩に送っているのだろう。
「だったら、これでどうだ」
俺は深紅の魔力の球体を10個空中に出現させた。
『え───』
「そーら、いっくぞぉーー」
俺は順番に魔力の球を殴っていった。殴られた球は次々に巨人に向かって飛んでいく。
『え、きゃあっ!!』
巨人は10発の攻撃をくらい、崩壊していく。
「でてきたな」
その巨人の中からエリーズが姿を現した。
「うっ、そんな・・・」
止めをさそうと思ったが、彼女は魔力が尽きたらしく、地面に墜落してきた。
「よっと」
落ちてきた彼女を俺は受け止めた。
「へへ、俺の勝ちだな」
「そ、そんな・・・」
エリーズは信じられないというような表情で俺を見てきた。
とりあえず彼女を地面に降ろす。どうやら起き上がることができないようだ。
「さて、七魔導はあと何人だ?」
俺は横になったエリーズに質問した。しかし、彼女は答えるつもりがないらしく、顔を背けた。
「おいおい、無視かよ」
「・・・」
自分の魔法が通じなかったことがよっぽど悔しいようだ。
「はあ、まあいいや」
俺は彼女を置いておそらくフレイがいるであろう方向に向かって歩き出した。
エリーズの敗北を目撃した敵兵達は、混乱し始めている。王国兵が帝国軍を押し返し始めていた。
もうすぐこの戦いも終わるだろう。