第五話 王都防衛戦 前編
祭りを楽しんで城に戻った俺とアルフィンを門で待っていたのは、レゼンさんとクレアさんだった。
楽しんできたようだな、とレゼンさんに笑顔で肩を叩かた。
俺の一生もここで終わりか・・・。
これから長い長い話し合いが始まりそうだ。
「本当に!!!申し訳ごさいませんでしたっ!!!」
「うふふ、別にいいのよ。アルフィンだって年頃の娘だもの。こんなところにいるより、お祭りを楽しんでくれた方が私は嬉しいもの」
全力で土下座している俺にクレアさんは優しく声を掛けてくれた。
クレアさんまじ女神。
「ふう、全く。まさかこの国の王女である我が娘をお姫様だっこするとはなぁ」
「うぐっ、それも見ていたんですか・・・」
「ふふ、まあな」
見られないように全力で城から出るため、アルフィンをお姫様だっこしたというのに、まさかそれを見られていたとはとんだ失態だ。
「まあ、今回はアルフィンも楽しんできたようだし、仕方なく許してやるとしよう」
「ほ、本当ですか!?ありがとうございます!!」
助かった!!俺は心の中でガッツポーズを決めた。
「生誕祭は明日もある。今日は風呂に入り、部屋に戻って休むといい」
「わかりました。その、レゼンさん、明日も娘さんと一緒に祭りを楽しむというのは・・・」
「もちろん駄目だ。もし一緒に回りたいというのなら、他の仲間も一緒に連れて行くことだ。二人きりでお前が手を出さないという保障はないからな」
「・・・信用無さすぎでしょ」
「当たり前だ」
まあ、フレイとエリナがいても別にいいしな。
とりあえず俺は明日に備えて風呂に入ってから部屋に戻ることにした。
「よっ、生きてるじゃん」
「お前なぁ、普通お疲れさんとか言うとこだろ」
王城の風呂を満喫し、部屋に戻るとフレイも帰ってきていた。
「で、どうだったよ。楽しかったか?」
「めちゃくちゃ楽しかったぞ。フレイとエリナのおかけだ、ありがとう」
「どういたしまして。それで、手は出してねーの?」
「当たり前だろ!!」
まったくこいつは・・・。あ、そうだ。
「あの後、そっちは一緒に回ったのか?」
俺はフレイに聞いてみた。
「おう、こっちも楽しかったぜ。エリナちゃん、意外と大食いなんだよ」
「へえ、フレイは手を出したりしてないだろうな」
「出しかけたけど、ギリギリ耐えた」
本当に出してそうだったので聞いてみると、出してないそうだ。エリナも大切な仲間だ。嫌な目にはあってほしくない。
「まー、明日もあるんだ。今日はもう寝よーぜ」
そう言うとフレイはベッドに寝転がった。
念のため言っておくが、ベッドはきちんと二つある。
「そうだな、寝よう」
俺ももう一つのベッドに寝転がり、布団を被った。
今日は本当に楽しかった。また明日も、それにこれからもあんなふうに一緒に笑っていられるといいなぁ・・・。
そんなことを思いながら、俺は目を閉じた。
次の日、少し遅めに起きた俺は、洗面所で顔を洗い、朝食をいただき、庭を散歩していた。
「うーん、いい天気だ」
今も国境付近では戦いが続いているのだろうか。戦いに行っている兵士達も生誕祭、楽しみたかっただろーなぁ。
そう思うと、少し申し訳なくなった。
「まあ、それは考えないでおこう」
再び庭での散歩を再開したその時、魔力のようなものを少し感じ、俺は顔を上げた。
「なんだ・・・?」
一瞬、王都の外から膨大な魔力を感じた。
王都は巨大な壁で周囲を囲まれている。ここからでは外の様子は確認できない。
とりあえず気になったので、アルフィン達に言いに行くとしよう。
「さーて、そろそろ始めようか」
王都から約5マルクの距離にある草原に、二人の青年と、紫髪の小柄な少女が立っていた。
「開け、《次元の門》」
茶髪の青年がそう言うと、彼らの背後に巨大な穴が空いた。
そこからぞろぞろと帝国軍の兵士達が外に出てくる。
「ふうー、つかれるなぁ」
「さすが、No.Ⅲといったところか」
青髪の青年が茶髪の青年に声を掛けた。
「あはは、一年間の努力の賜物だからねぇ」
「二人共、そろそろ行きましょう」
紫髪の少女がそう言うと、青年二人も会話を止め、背後に現れた大規模な軍勢に向き直った。
「えー、諸君、今日行なうのは帝国がこの国を手中に収めるための最大の作戦だ。祭りとやらで油断している馬鹿な都市で、思う存分暴れるといい」
茶髪の青年の言葉に、帝国軍兵達が声を上げた。
「た、大変です!!!」
クレアとレゼンが娘と仲がいい黒髪の少年について話していると、突然一人の兵士が王の間に駆け込んできた。
「どうした、落ち着いて説明しろ」
「お、王都から約5マルクの距離に、突如帝国軍が出現しました!!その数およそ一万!!」
「なんだと・・・!?」
兵士が口にしたことは、にわかには信じ難いことだった。
そこに、もう一人の兵士がやってきた。
「壁上で見張りをしていた兵士からの連絡です!!帝国軍が王都に向けて進行して来ているとのことです!!」
「馬鹿な、一体どうやってここまでやってきたと言うのだ?」
「確かに、ここに来るまでに違う場所にいる王国軍に見つかる筈ですけど・・・」
魔法を使って一万の軍を移動させてきたのか・・・?
そんなことが可能なのだろうか。
「急いで王都に住む全市民に緊急避難用の地下道へ避難するよう連絡しろ!それから、王国兵全員に戦闘準備をさせ、敵が現れた方向の城壁に集合させろ!!」
「了解しました!!」
レゼンがそう言うと、兵士二人は急いで走っていった、
「くっ、まさか生誕祭中に敵がやって来るとは・・・」
「まるで狙っていたかのようですね」
「ああ。帝国め、簡単にここを攻め落とせると思うなよ・・・!」
俺がアルフィン達と合流した時、王都に兵士の声が響きわたった。
『全市民に連絡します。突如として帝国軍が王都西に出現しました。直ちに緊急避難地下道に避難してください』
『王国軍全兵士に連絡、戦闘準備が済み次第、王都西公園に集合してください』
「なるほど、さっき感じた魔力、帝国軍が何らかの魔法を使って移動してきたのか」
まずいな、今は生誕祭中だ。兵士達も酒を飲んでいるだろうし、まともに戦えるかわからない。
「ユウ、俺達はどうするんだ?」
「俺は戦闘に参加する」
「だよなー、俺も参加するぜ」
平和で賑やかなアルフィンの故郷を帝国にやるわけにはいかない。
「アルフィンとエリナは市民の避難を手伝ってやってくれ」
「う、うん、わかった!」
「もし負傷者がいたら私、治療しますね」
「ああ、頼む、いくぞ、フレイ」
「ガッテン承知だ」
そう言って俺とフレイは外に向かって駆け出した。
昨日俺達がくじ引きや射的をした公園には、王都にいる全兵士が集まっていた。
公園の近くの壁には、外に出るための門の一つがある。
普段は閉じられているが、今は開いている。
そこから王都の外を見ると、向こうからこちらに向かって進軍して来ている帝国軍が見えた。
「さあ、今こそ王国の力を見せる時だ!!」
鎧を装備したレゼンさんが兵士に向かって叫んだ。
なんと、彼は自ら戦場に出て指揮をとるようだ。
「国のため、愛する家族のために、敵を打ち倒せ!!」
『『『おおおおおおおおおおお!!!!』』』
凄い士気だ。これなら心配しなくても大丈夫そうだな。
「む、ユウとフレイか」
「どうも。まさかレゼンさんも戦場に出てくるとは」
「王として当然のことだ」
なんか、すげえカッコイイんだけど。
普段娘のことになると豹変する男とは思えないほどに、今の彼はカッコ良く見えた。
「ユウよ、七魔導を倒したという実力、見せてもらうぞ」
「はは、わかりました」
そう言うとレゼンさんは再び兵士に向き直った。
「全軍、前進せよ!!」
レゼンさんの号令と同時に、兵士達が門の外に出ていった。
そして、しばらくして戦闘が始まった。
「さて、俺達も行くか」
「しゃあ、気合い入れていくぜ!!」
俺とフレイは、勢いよく壁の外に飛び出した。
外では王国軍と帝国軍が激しく激突していた。
帝国軍のほうが数は多いが、王国軍も負けてはいない。
俺とフレイは、それぞれ別の場所を援護するために一旦別れた。
「おっと」
斬りかかってきた兵士を殴りとばす。それを見た帝国兵士達が俺を取り囲んだ。
「貴様、なかなかやるようだな。ここで殺して手柄にさせてもらおう」
「それは無理だな」
俺は魔力を纏い、兵士達に言った。
「お前ら程度にやられるほど弱くねぇよ」
「こ、こいつ、舐めやがって!やれ、討ち取れ!!」
周りの兵士が一斉に襲いかかってきた。
俺は手に魔力を集め、それを周囲に向かって放った。それによって発生した衝撃波が、帝国兵達を吹き飛ばす。
「へっ、そんなもんかよ」
「おお、すごい!」
「あの少年がアルフィン王女を助け出したという子か」
周囲の王国兵達が歓喜の声を上げた。
この調子で兵士達を減らして・・・。
「久しぶりですね」
突然上から魔力を感じ、俺は後ろに跳躍した。
次の瞬間、俺がいた場所に巨大な岩が落ちてきた。
「・・・躱しましたか」
声がしたほうに顔を向けると、地面にめり込んだ岩の上に紫色の髪を腰ほどまで伸ばした小柄な少女が立っていた。
「おっと、確かエリーズ・・・だったっけ?」
「ええ、エリーズ・バレスタインです。あなたはヒイラギユウですね?」
エリーズ・バレスタインは、帝国最高戦力である七魔導のNo.Ⅳの少女だ。それなりに強いはずだが・・・。
「七魔導が来てるとはなぁ、他にも来てんのか?」
「ええ、No.ⅢとNo.Ⅵが来てますよ」
彼女の体から膨大な量の魔力が溢れ出る。
「まさかあなたが王都に来ているとは・・・、少し今回の作戦の成功率が下がってしまいましたね」
「まったく、今日も祭りを楽しもうと思ってたのに、邪魔しに来やがって」
これは全力を出さないとやられるな。俺も全身に魔力を纏わせた。
「あなたはここで排除します」
「やってみやがれ」
エリーズから放出されている魔力が渦を巻き始めた。
「いきますよ、ヒイラギさん」
すると、彼女の周りの地面が形を変えはじめた。
「行きなさい、《地竜》!」
彼女の周りの地面は竜の姿に形を変え、地面から離れ、空を飛んで俺のほうに向かってきた。
「おいおい、どうやって飛んでんだよ!!」
突進を咄嗟に回避し、エリーズのほうに跳躍する。
次の瞬間、俺の真下の地面が巨大な腕に形を変え、俺に襲いかかる。
「ぐぁっ!?」
腹を下から殴られ、俺は上に吹っ飛ばされた。
そこに先ほどの竜が襲いかかってくる。
「ちっ、邪魔だ!!」
下からの突進を躱し、俺は竜の尻尾を掴んだ。
「おらあぁぁぁぁぁぁ!!!」
それを回転してぶん回し、エリーズに向かって投げ飛ばす。
「分解」
彼女がそう言うと、岩の竜は粉々に砕け散った。
「なかなかやりますね」
「そっちこそ、厄介な魔法を使うじゃないか」
「ふふ、そうですか?」
地面に着地した俺にそう言って、彼女は周囲の地面の形を次々に変えていく。砕けた地面や岩などの形も変わっていく。
「これが私の禁忌魔法《大地の錬金術》です」
彼女の周りには岩石でできた槍が数十本浮かんでいた。
「これはやばそうだな」
俺は全身から深紅の魔力を放出した。
「それがベルフレアの禁忌魔法を破った力ですか」
「ああ、なんて名前の力かは知らないけどな」
手のひらに拳をぶつけ、気合いをいれる。手加減はなしだ。全力で潰す。
「さあ、ここからが本気の勝負だぜ」
「ええ、全力で排除します」
その言葉と同時に彼女の周囲に浮かんでいた槍全てが俺目掛けて飛来した。




