梅見坂奇譚第六章〜いつもの公園で 終章
梅見坂奇譚第六部〜いつもの公園で 終章
1
「最近、お年寄りの見物人が増えましたね?」
「いいのよ気にしないで。私たちは私たちの稽古をやる、それだけ」
朝の公園には健康志向の老人達が、それぞれにランニングやウォーキングを楽しんでいる。
そのお年寄り達の中から、『中国拳法を教えて欲しい』という要望が高まっていた。
「先生、来ましたよ、あの狒々(ひひ)爺いです!」
カナがそっと伺うようにしてメイメイの後ろを見た。
「やあ、おはよう。あんた、メイメイさん、この前の話考えてくれたかね?」
メイメイが振り向くと、ジャージ姿の老人が立っていた。
鶴のように痩せているが背が高い。頭頂部は禿げているのだが、残った白髪を長く伸ばして後ろで束ねている。脂ぎった顔に皺が深い。
「あんたのファンがもう二十人近くも集まっているのだがね」
「おはようございます、会長さん。そのお話なら既にお断りしたはずですが?」
町内会長、長岡立身(たつみ)は地元の名士である。十年前に財界の一線を退いて、今は悠々自適の生活だ。交友関係は広く有力者も多い。
「まあ、そう固いこと言わんと。儂の顔も立ててくれんかね、集まったメンバーの中には元代議士や企業の社長も居るのじゃよ」
「健康増進の為と仰っておられましたわね」
「その通りじゃ、儂ら年寄りは先が短いでな、少しでも元気で長生きしたいのじゃよ」
「私の国では、健康は自分の外にあるわけではないと考えます」
「それはどういう事じゃな?」
「健康は増進したり手に入れたりできるものじゃないと云う事です」
「そんな事は無いじゃろ、現にテレビなどでは健康になる為のサプリメントやトレーニングの方法が毎日のように流れておるでは無いか、その中で中国拳法・・太極拳と云うのかな?それが良いと言っておったぞ」
「健康は一人一人に生まれつき備わった量のあるものです。それを一生のうちにバランス良く使い切ると云うのが我々の考え方です。これは、ここ黒田藩の御典医であり儒学者でもある貝原益軒先生も『養生訓』の中で言っておられる事ですわ」
「そんな昔の医者に何がわかる」
「昔の人は経験に根差したことを言っています、今日のようにテレビで得た情報に振り回されたりしておりませんわ」
「では、我々年寄りは、自然に死ぬのを待つしかないと言うのか?」
「そうは言っておりません、何もしなければ余計に健康は損なわれます。その場で腐って死ぬだけですから」
「ならば、どうすれば良いと言うのじゃ?」
「面倒臭がらずに、日常生活の中で自分でできることは自分でやる事です。人のために何かをやってあげれればなお良い、そうすれば健康を維持するだけの運動量は自ずと確保する事が出来ます」
「では、どうしても承諾できんと・・・」
「残念ですが」
「そうか・・・気が変わったら連絡してくれ」
「ご期待に添えるとは思いません」
「むう・・・」
長岡は、また来ると言って帰って行った。
「もう来なくていいわよ!あいつ先生が美人だから来るんですよ。いやらしい」カナは憤然として言った。
「それは無いと思うけど・・・でも、私たちのやっている事は健康体操じゃ無いのよ、目的が違うからとても一緒にはやれないわ」
「私も嫌です、あんなやつと一緒にやりたく無い!」
「心配しないでもやらないわよ・・・さ、もう少し稽古しましょう」
「はい!」
2
「生意気な小娘め!」
長岡は憮然としてコーヒーショップのテーブルについた。
「どうした、また断られたのか?」
隣の席のでっぷりと太った男が笑いながら言った。歳は長岡と同じくらいだろうか。
「ご期待に添えるとは思いません、とぬかしおった」
「気の強い女ですな、ま、そこが会長のお気に入りなのでしょうが」
向かいの席の男が言う、若作りではあるが還暦は過ぎているだろう。
「なんとかあの女に一泡吹かせてやりたいもんじゃ!」
「それは穏やかではありませんな」
「浜地君、君は武道界には顔が聞くと言っておったね、誰か適当な者はおらんか?」
「そりゃ、おらぬ事もありませんがね、女相手に大人気ない真似もねぇ・・・そうだ、香川君あんた太極拳の家庭教師を雇っているそうじゃないか」
「そうなんですよ、健康の為にね」向かいの席の男が言った。
「何、香川君、君は既に太極拳をやっていながら我々の仲間に入ろうとしたのか?」
「はあ、習っているのは中国人の男なんですが、そこはそれ、同じ習うなら美人の方がねぇ」
「君も好きだねぇ・・・そうだ、その男をメイメイとやらにけしかけてみたらどうだ。負ければ職を失うぞって言えば、死に物狂いでやるのではないか?」
「そりゃいい考えだ、いいこと言うねぇ浜地君・・・で、どうだ香川君」長岡が言った。
「そうですねぇ、私もそろそろ飽きて来てはいるんですよ、その男に・・・勝てば良し、負ければクビにできますな、では、やりますか」
「うん、頼むぞ香川君、あの小娘の慌てた顔が目に浮かぶわい、ワハハハハハ・・・」
3
「勝てば、ボーナスを弾むぞ」
香川は陳範徳に言った。
「負ければクビあるか?」
陳は癖のある日本語で訊いた。
「まあ、そう言う事になるかな・・・」
「それは困ったあるね、ワタシ国に家族居るあるよ」
「だったら、頑張るしかないな」
「う〜ん、ワタシの太極拳実戦向きではないね。ワタシのは簡化太極拳いうて1956年に国家体育運動委員会が制定した健康体操ね」
「じゃあ、人と戦ったことはないのか?」
「無いあるよ、ワタシ手荒な事好きじゃないね」
「まあ、兎に角後は自分で考えろ。勝てばボーナス負ければクビだ」
「あ〜、勝てば天国負ければ地獄、負けて元々おっかさん!」
「なんだそれは?」
「ワタシの母親と嫁さん鬼あるね、いま中国帰ったら殺されるね!」
「俺の知った事か!じゃあな、任せたぞ」
香川は陳を置いてさっさと喫茶店を出て行ってしまった。
「ああ、困ったある困ったある、しかし、相手は女、頑張れば勝てるかも・・・いやいや、勝てる訳ないね、包丁持った男一撃だもんね・・・諦めて中国帰るあるか?イヤイヤそれも恐ろしいある、前門の虎、後門の狼とはこの事ね・・ああ困ったある困ったある」
陳は、頭を抱えてテーブルに突っ伏してしまった。
「もしもし、どうかされましたか?」
男の声に陳はそっと顔を上げた。丸眼鏡にボサボサの頭、どう見ても薹(とう)の立った苦学生だ。
「あ、あなた、ワタシの話聞いてくれるあるか?」
男は一瞬困った顔をしたが、「べ、別に良いですよ用事も無いし」と言った。
陳は誰でも良かったのだ、こんな頼りなさそうな男でも、自分の苦境を誰かに喋りたかった。
で、それから一時間、陳は中国の家族の事、自分の数奇な運命の事、今の苦境の事などをたっぷりと大袈裟に、この見知らぬ男に話したのであった。
「では結局あなたは、その女拳法使いに勝たなければ、今の職をクビになるという事なのですね?」男は疲れた表情で陳にそう訊いた。
「そ、そうなのですよ、ワタシの雇い主薄情な人、こんな事なら日本来なければよかったある」
「そうですか、いくらなんでもそれは酷いですね。同じ日本人として許せないなぁ」
「でしょう、でしょう、あなた、何かいい考えないあるか?」
「う〜ん、今の話を聞く限り、その拳法家の女性は僕の知っている人に違いないと思うんですよね」
「えっ!あなたその人知ってるあるか?」
「十中八九間違いありません」
「あ〜、ここで逢ったが百年目、捨てる神あれば、拾う神あり、ね!」
「ちょっと変ですよ、その日本語」
「そんな事どうでもよろし、あなた、その人にワタシを合わせてくれるよろし」
「逢ってどうするんですか?」
「負けてくれるようお願いするある、土下座でもなんでもするあるね!」
「ヒェ〜決死の覚悟ですね」
「当たり前ある、命あっての物種ね!」
「分かりました、逢ってくれるかどうか分かりませんが一応頼んでみます」
「あ〜ありがとう、あなた命の恩人ある、恩に着るね!」
「また、そんな大袈裟な」
「大袈裟でないよ、ワタシにとっては生きるか死ぬかの問題ね、あなた分かってるあるか!」
「わ、分かりました分かりました、兎に角結果がわかったら連絡しますから」
「あ、ありがとございます、ところであなたの名前なにあるか?」
「は、秦太一です」
「ワタシ陳範徳、きっと連絡待ってるよ!」
「はい、分かりました・・・」
結局秦は、陳のコーヒー代まで払って店を出たのだった。
4
その日、僕の部屋にはメイメイさんと陳さんが居た。
陳さんは、メイメイさんに自分の窮状を訴えようとしたが、目の前に手のひらを翳された。
「だいたいの事は秦先生から聞いて居ます、私は自分より弱い人に負ける訳にはいきません」
「やっぱり・・・」陳さんは、ガクリと肩を落とした。
「しかし、あなたの雇い主は許せません。何とか一矢報いる方法を考えましょう」
「でも、今の仕事クビになったら、ワタシ路頭に迷うあるね」
「大丈夫、秦先生は小説家なのよ。きっといい方法を考えて下さるわ」
僕はいきなり振られて慌てた、「メ、メイメイさん、そ、そんな事僕には・・・」
「先生、陳さんを連れて来たのは貴方なのですよ。頑張って頂かねば責任が果たせないのではありませんか?」
「そ、それはそうですが・・・」
その時、ドアが二度ノックされた。
バタンとドアが開いて織姫が飛び込んで来た。「あっ、やっぱりメイメイさんだ!」
「お、織姫・・・」
「玄関に女性用の靴があったからピンときたのね、メイメイさんが来てるって!」
「こんにちは織姫さん、お久しぶりね」
「こんにちは、その節は大変勉強になりました、あの時のお返しはいつか必ず・・・」
織姫は上目使いにメイメイさんを睨んだ。
「お、おい、今日はその話は・・・」
「分かってる、冗談よ先生。心配しなくて良いわ、それより何の話してたの?」
僕は簡単に陳さんの窮状とメイメイさんの提案を説明した。
「わぁ、面白そう私も混ぜて!」
「遊びじゃないんだぞ、陳さんの将来がかかってるんだ」
「だからぁ、先生がとっておきの作戦を考えてくれれば良い訳じゃない?私、先生のためなら何でもするわよ」
「き、君までそんな・・・」
「秦さん、お願いある・・・ワタシ助けると思って」陳さんは僕に手を合わせた。
「そんな無茶な・・・でも、う〜ん、あぁ仕様がないなぁ、少し考えてみますので時間を下さい」
僕は、この三人に抗っても無駄なことを悟った。
「いいわよ、良い考えが浮かぶまで私達三人でダベってるから、何か浮かんだら教えてね」
織姫は無責任に言うと、勝手に僕の冷蔵庫からビールを出して来た。
「先生の考えが纏まるまで飲んでいましょう!」
「素敵な考えね!」メイメイさんまで楽しんでる。
「ワタシ、ビール大好きある!」
三人は意気投合したみたいだ。僕を無視して拳法談義で盛り上がっている。僕は、不貞腐れて畳に肘枕で寝転んだ。でも、小説家の悲しい性で、いつの間にかストーリーを考え始めている自分に気がついて嫌になった。
一時間後、僕は一つのシナリオを三人に提案した。それは概ね採用されたのだが、織姫が口を挟んだ。
「それじゃ、少し迫力が足りないわね。福ちゃんと敦くん、それに槇草さんにも手伝ってもらいましょう!」
結局そう云う事になった。
5
日曜の朝の公園は、いつも通り爺婆で賑わっていた。
僕はそっと木の陰に隠れて、様子を伺っている。
メイメイさんとカナちゃんもいつも通り公園の片隅で稽古を始めた。
「そう、そこはもっと腰を落として・・・良いわ・・・そうよ」
カナちゃんはゆっくりと躰を動かした。
「はい!そこで蹴り・・・もっと激しく!」
緩急のついた稽古は見ている者の目にも美しく見える。
「おい、あんた、メイメイさん!」
白髪を後ろで束ねた、ジャージ姿の老人が声を掛けて来た。あれが長岡に違いない。
「あら、会長さんおはようございます」
稽古の手を止めてメイメイさんが振り返る。
「この前の話、考え直してくれたかね?」
「そのお話なら、何度もお断りした筈ですが?」
「そうかい、それは残念だ・・・ところで、今日は頼みがあって来たのじゃが?」
「何ですの?あのお話以外ならお聞きしますわ」
「そりゃ良かった、実は一人稽古の相手をしてもらいたい男がおるのじゃが」
「相手?」
「儂の友人の家庭教師をして居る陳と云う太極拳の達人がいるのじゃが、その男が是非あんたと試合って見たいと言っておる」
「なぜ私がその人と戦わなくてはならないのですか?」
「その男が、あんたより強ければそ奴に乗り換えようと思ってな」
「それは困りましたね。私は誰にも負けませんもの」
長岡がニヤリと笑った。
「そんな事はやってみな分からんじゃろう、それとも負けるのが怖いのか?」
「仕方ありませんわね。ではこちらからも条件を一つ」
「何じゃ?」
「私が勝てば二度と私の前に現れないと約束していただけますか?」
「これはまた嫌われたものじゃな。良かろう、約束しようじゃないか」
長岡が振り返って右手を高く掲げると、滑り台の向こうから男が三人姿を現した。
浜地と香川だろう、それにカンフー衣を着た陳さんである。
「あの男じゃ!」長岡が陳さんを指差した。
陳さんはゆっくりメイメイさんの前に進み出て包拳の礼をとる。
「アチャー!」いきなり陳さんが蹴りを繰り出した。
メイメイさんは辛うじて躱したが、石に躓(つまず)いて転んだ・・・ふりをした。
「先生!」カナちゃんが慌てて駆け寄ろうとするが陳さんの方が速かった。
ジャンプした陳さんが、次々とメイメイさんを攻撃する。
メイメイさんはゴロゴロと地べたを転がった。
「ほ、陳の奴やるじゃないか」
「これはひょっとしてひょっとするぞ・・・」
二人の男が囁きあっている。
その時、背後から人影が現れた。
「待て待て待て、お前達誰に断ってここで拳法の稽古などやっている!」
陳さんの動きが止まった。
長岡が振り返ると、サングラスをかけた黒服の男が立っていた。
はて、誰だろう?どこかで見た気がするのだが・・・
「何だお前は、ここは公共の公園だ、誰の許可が要るか!」長岡が大喝した。
「何だと爺い偉そうに!長く生きてりゃ偉いってもんじゃないんだ。ここはうちの親分のシマなんだよ、文句があるなら事務所に来な!」
「ど、どこの組の者だ。儂もその筋の人間なら何人か知っておるが・・・」長岡が言った。
「るせぇ、そんなこた関係無いんだよ!」黒服が凄む。
「あんた、何グズグズしてんだよ。そんな爺い達、どうせ老い先短いんだ、とっとと引導を渡しちゃどうなんだい!」黒服の後ろから人影が湧いた。
「あ、姉さん!」
いつ来たのか女が立っている。サングラスにマスクを着けていて顔は見えないがあれは織姫だ。
女の啖呵に爺さん達は縮み上がった。側から見ればとんだ茶番なのだが渦中にいれば恐ろしい。
「だ、だ、誰か助けてくれ。メ、メイメイさんあんた強いんだろ?」最初の元気はどこへやら、長岡は色を失って要る。
「ワタシに任せるある!」陳がズイと前に出た。
「ち、陳・・・お前」男が縋るような目で陳を見た。
「ワタシのご主人様に手を出す、許さないある!」
ならば、あれが香川か?
「何だって?・・・おい、お前たち出てきな!」
女が声をかけると、ジャングルジムの陰からチンピラが二人出て来た。
サングラスが似合わない。福君と敦君だ。
「姉さん、御用ですかい?」
「お前達、コイツをやっちまいな!」
「ヘイ!」
いきなり乱闘が始まった。チンピラ二人は陳に襲いかかり、女はメイメイに襲いかかった。
チンピラ二人は、あっという間に陳に叩きのめされ、黒服の男が陳と戦っている。
女二人の戦いは圧巻だった。老人達の目の前で死闘が繰り広げられている。
これが芝居だとは誰も思うまい。老人達は、益々怯えた。
木の陰から一部始終を見ていた僕は、笑いが込み上げて来てしょうがなかった。
福君と敦君のチンピラは迫力不足だが、演技指導の時間が無かったのでこれは仕方がない。
織姫はここぞとばかりメイメイさんに本気で戦いを挑んでいる。
カナちゃんが、それを見てオロオロしているのもリアル感を増している。
みんながサングラスというのもどうかと思うが・・・。
陳さんは良くやっている、簡化太極拳も無駄では無かったようだ。
「おはんら、なんばしよっとな!」頭上から大音声が降ってきた。
誰だあれは?僕は滑り台の上に立った髭面の男に、目が釘づけになってしまった。
「ここは、天下の公園ばい、市民が憩う場所でこげんか乱闘は許せん、おいが成敗しちくるっ!」
男がギラリと白刃を抜いて滑り台から飛び降りた。
「あわわわわわわ・・・」
長岡が腰を抜かしてへたり込んだ。浜地と香川も手を取り合って震えている。
遠くからサイレンの音も聞こえて来た。
「マズイ、逃げろ!!」黒服の男が叫んだので、皆一斉に逃げ出した。
髭面の男も、それを追って走って行った。
後に残った老人達は、まだ固まって震えている。長岡などは失禁しているかも知れない。
「ご主人様、大丈夫あるか?」
「ち、陳、いや陳さん。お、俺が悪かった、あんたがこんなに律儀な奴だったとは・・・」香川が陳さんに言った。
「ご主人守るのはワタシの役目、当たり前の事ね」
「そ、そうか、ボーナスは弾む、クビにもせん、どうか今まで通り俺に太極拳を教えてくれ」
「モチのロンよ、ありがたい事あるね」
たくさんの老人達がこの様子を遠巻きにしていたが、その中から小柄な老人が進み出た。
「儂らにも太極拳を教えてくれんか?」
「え、あなたは?」陳さんが言った。
「儂はこの公園に運動に来ておる唯の年寄りじゃよ。陳さんとやら、儂はあんたの技を見て感動してしもうた、死ぬ前にどうしてもあんたから太極拳を学びたくなったのじゃよ・・・な皆の衆」
見物人の中から、儂も俺もと声が上がる。その声は二、三十人にも及んだ。
「ほれ、こんなに賛同者がおる、日を決めてここで教えてくれんかのう?」
「よ、よ、喜んで。ワタシ日本来て良かったある、こんなに嬉しい事初めてあるね!」
僕はすっかり混乱していた。こんな事僕のシナリオには無かった筈なのに・・・
6
「福と敦に聞いて、儂らも飛び入りで参加させてもろうた」
妙心館の板張りで、無門先生は磊落に笑った。
「久し振りに芝居ばしもした、高校の謝恩会以来じゃなかろか?」
髭面の男、熊さんもとっても愉快そうだ。
「先生に極道小説は無理ね、シナリオ通りならこんなに上手くいかなかったわ!」
織姫は好き勝手なことを言っている。
「でも、あのサイレンは?」
「あれは、たまたま、偶然じゃよ」
「そ、そうだったのですか・・・」
「でも、僕らの出番少なかったなぁ」敦君がつまらなそうに言った。
「お前達、あれ以上喋ってたらボロが出ていたぞ」
「槇草さんの黒服は似合ってましたよ、サングラスも」福君が言った。
あの時のホテルのフロントマンは、この道場の師範代だったのだ。
「いつも仕事で着ているからな」
「織姫さん、あなたあの時本気だったでしょう?」
「やだ、バレました?」
「腕を上げたわね」
「陳さんは、新しい仕事も増えてホクホク顔でした」僕が言った。「週に一度、あの公園で稽古するそうですよ」
「嫌だなぁ、先生、場所変えましょう・・・」
カナちゃんが本当に嫌そうな顔をした。




