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親が勇者転生したので俺は現実世界で金を100倍にして悠々自適に暮らします  作者: 古着屋バカンス
第一章 億万長者になっちゃった!
48/162

【48】異世界での戦闘はなるべくしない方向で


か細い声を他の頼りに、木立を掻き分け浜辺へ出ると─


「女の子が……!」


足枷をつけた金髪の女の子が、四つん這いになっていた。


年の頃は、18かそこらか。

苦しそうな表情で、肩で息をしながら、その姿勢のままジリジリと進んでいる。

足枷には黒い皮で編んだ縄がついていて、その先は太い木の棒に括り付けられていた。


周辺に人影はない。


彼女は俺の姿に気づくと、掠れた声を出した。


「たすけ…て」


俺は砂浜に足を踏み出し、駆け寄った。


よく見ると、木の棒は地面に突き刺す杭の形になっている。

埋められてた杭を自分で掘り出して、どこからか逃げてきたんだろうと言う事がひと目で解った。

彼女の手も爪も土で汚れている


「水…水を…」

「しっかり!いまあげるから!」


俺は鞄の中に入れておいた、ペットボトルに汲んでおいた水を渡した。


彼女は勢いよくゴクゴクと飲み干すと、砂浜にバッタリ横たわった。


「大丈夫か?!」

「あり…が………」

「っと、こんな所にいちゃ駄目だ…!」


彼女を抱き上げて木陰に運び、ペットボトルで海水を汲んできて、頭にトプトプとかけてやる。


「ふわぁ…」


想像通り、この世界の海は結構冷たくて、意識が正常になってきたようだ。


「こんな所にいやがったか!」


背後で、若い男の声がした。


振り向くと、二人の男が棒を持ってこっちを睨んでいる。


「オメェみてえな呪われた女でも、逃げられると俺っちが親方に殴られるんだよ!」

「おい!そこの男、その女をこっちに寄越せ!」


武器を持っている様子を見て、俺は一瞬怯んだが、立ち上がって彼らを見ると、なにやら違和感を感じた。


彼らは小さくて、痩せこけているのだ。

身なりも貧しく、声を張り上げてはいるけど潤いがない。

あきらかに栄養が足りていないのが解る。

年もおそらく、14か15か…


「おい!や、やるのかお前〜!」


─こいつら、俺を恐れてる…?


殴られたらたまったもんじゃないけど、俺はなるたけ場慣れしてるようなふりをして、出来得る限り大人っぽく、落ち着いた低い声で話した。


「お前ら、金に困ってるのか?」


二人の少年は、ピクッと反応はしたが、俺に向けて棒を構えた。


─ここで怯んではいけない。


大人の勘が、俺にそう告げる。


俺は勝負に出る気持ちで、銭袋から金貨を4枚出した。


「これをやろう。二人とも、この金で親方の所から逃げろ。」


少年たちの目は金貨に釘付けだ。

俺は惜しげもなく、彼らの足元に4枚の金貨を投げた。

二人はバッと拾いあげ、ワナワナしながら手の中の金貨を凝視していた。


「ああ、俺からもっと奪おうと思っても無駄だぞ。他の金貨は全部、ホテルの金庫に置いてきてるからな。」


─実際はホテルじゃなくて、恵比寿の金庫なんだけどな。


少年たちは、この思いがけない大収穫に、どうしていいのか戸惑っているように見えた。

金貨と俺の顔を交互に見ている。


恐らく、手に持つの自体初めての体験だろう。額に汗をかき、ドキドキしているのが伝わってくる。


もはや少女のことは眼中にないようだ。


「おおかた拾われたか攫われてきて売れ残ったか─親方に食わせてもらってるとはいえ、ひどい暮らしをさせられてるんだろ。戻ったところで、その金貨をかすめとられるのが関の山だな。」


親方とやらのことは知らないが、憶測で悪い奴と決めさせてもらった。

こんな子供たちに、たいした飯もやらずに下働きをさせてるなんて、碌でもない奴に違いない。


少年たちは、下を向いて手の中の金貨をジッと見つめている。表情は見えない─


「その金があれば、別の土地で生活を立て直せるぞ。新しい人生を掴め。」


─うわっ、しれっとカッコいい事言えた、俺!あいつらに刺さってくれてるといいけど…



少年たちは、かすかに震えていた。


そして何も言わずに、棒を捨て、すごい速さで走り出した。市場通りへと向かって。



「もう大丈夫。あの子たち、戻ってこないわ。」


振り向くと、金髪の少女が微笑んでいた。


「市場から、隣の大きい街に続く道があるの。きっとそっちに逃げたんだと思う。大きな街なら身を潜められるから…。」

「仲間を連れて、戻ってくるかな。」

「仲間の元へは戻らないでしょう。お金、大事だろうからね。あれだけの金額があれば、大きな街から馬車に乗って、別の国へ行っちゃうでしょうね。」


馬車で他の国に行くことができるのか。


金貨2枚は20万円だけど、この国の物価だと200万円くらいの価値がある。

親方とやらに見つからないで、逃げおおせられるといいな。



「ともかく、ここから離れましょう。あいつらが戻らないのを変に思って、別の追手が来たらいけないわ。」

「そうだね。俺についてきてくれ。安全な所へ─」


下を見ると、少女の足元の足枷と、その先についてる皮の鎖と木の棒が目に入った。


「─まずはそれをなんとかしよう。」



俺は、少女を抱き上げると、市場通りへと急いだ。

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