4泊目
「あうー......すみません。私とても失礼な事を」
「ふふふ、いいよ。私も宿屋って一言も言わなかったし」
私はとぼとぼとスミカさんの後を付いて歩いていた。あーもう、史上最大の大失敗です。命の恩人のお店を卑猥なものだと思って言ってしまいました。
最悪です、もう地面に埋まりたい気分です。下を向いて歩いて居るとぼふっと柔らかい物にぶつかった。顔を上げるとスミカさんの顔が近くに見えた。やっぱり少し背が高いなーいいなー。と思っていると両頬を両手で挟まれた。
「ふみゅ!」
「いつまで気にしてるの? 私が良いって言ったらそこでおしまい、分かった?」
「ふあい」
「ならこの話はおしまい」
返事をするとニッコリとスミカさんが笑って私の右手を掴むと手のひらにジャラリと音がする革袋を載せた。ズシッと重みがる革袋を持っている手が震えてきた。あ、あれ? こここここれって!?。
「これはティファちゃんの取り分ね」
「え!?」
「ティファちゃんがあの二人を引き付けてくれたおかげで捕まえられたんだから、当然の報酬でしょ?」
「いやいやいやいやいや! 多いです! 怖いですよ! こんな大金持ったことないですもん!!」
何枚入ってるのコレ!? 十枚? 二十枚は確実だよ!
「そう? 私が通りかからなかったら奴隷にされてたかも知れないし―――あ、忘れてた」
そう言ってスミカさんが私の右腕に付けられていた銀色の腕輪を両手の人差し指と中指で挟むとあっさり外してしまった。すると、今まで全身を包んでいた怠さや倦怠感が消えた。
「かわいい子にこんなもの付けるなんて、どういう考えてしてるんだろう......」
「ふぇ!?」
か、かわいいなんて両親以外に面と向かって言われたことないよ! 私が道端の雑草ならスミカさんは空の雲だよ! そのくらい綺麗な人にかわいいって言われた! かわいいって言われた!!
「ん? 顔赤いけど大丈夫?」
「だ、だいひょぶです!」
「そ、そう? 宿屋までもう少しだから」
「ひゃい!」
呂律が回っていない私を見てスミカさんが笑っていた。本当、綺麗に笑う人だなー。うう、顔が熱い......私って普通の女の子だと思ってたけどまさか同性の方が好き? え、何その新事実! 十五年しか生きてないけど衝撃的なんですが!?
落ち着け私! 今のは突然言われたから緊張しちゃっただけ! 同性を好きになるなんて絶対にない! よーし落ち着いてきたぞ。
あ、そうだ金貨でも数えようかな。両手で持っていた革袋を開いて中身を見た瞬間、私は袋を閉じた。
え? 取り分って言って全部渡してきた?! だって五十枚って書いてある紙が見えたもん、怖い! 大金が怖い!
「あ、あの! スミカさん!」
「何ー? 後少しだよー」
「そうじゃなくて! 私に全額渡してますけど?!」
「......」
「顔を反らさないでください! 返します! 怖いですよ!」
「着いた、ここだよ」
「無かった事にしてる! 見なかった事にしてるよこの人!」
「ヨカッタネーカセゲテー」
「ちょっとぉ! だったらせめて預かってくださいよ、私一人で持てる金額じゃないです!」
「あれ? 出稼ぎに来たんじゃないの?」
「いえ、私は―――」
『ぬわあああああああ! 止めるのじゃサーシャ! 死ぬ! 死んでしまう!』
『......お母さんの料理を粗末にした罪は重い』
宿の中から叫び声とサーシャちゃんらしき声が聴こえてきた。
『......ロングソードが一本、ロングソードが二本、ロングソード三本』
『ちょ! やめて! 尖った物が怖くなるの!』
スミカさんがの入り口扉を開くとそこには縄でぐるぐる巻きにされて天井から吊るされた金髪の少女が居た。その真下にはいくつものロングソードが先端を吊るされた少女に向けて立っていた。
パタンとし静かに扉が閉められた。
「あの......スミカさん、なんか拷問みたいになってましたけど?」
「......」
「あ、あの?」
「ちょっと、待ってて?」
「はい!」
今までのスミカさんとはまるで違う低く、冷たい声にビシッと私は背筋を伸ばす。
スミカさんが宿の中に入っていった。ふぅ、凄く怖かったよぉ。胸を撫で下ろすと背中に背負った荷物の位置がずれた。
「よっと」
軽く背負い直すと小さな看板が目に止まった。
「ん? んん? 『りゅうふうてい』? でいいのかな?」
古くも新しくもない外観で、大きなガラス窓側を設けてある正面入口、見上げると二階建てなのがわかる。
『竜風亭』と書かれた看板を掲げていたのは街かどにある宿屋さんでした。




