17泊目
――――――これで最後だ、ようやく乾きが癒えた。だがまだ足りない、もっと、もっと、もっと、もっと寄越せ、ダンジョンの魔物を増やそう、村を襲おう、王国を襲う、世界を襲う、我を封印したあいつに復讐しよう、我が子を連れ戻さなくては、さあ下僕ども行くが良い。そうだな、手始めに村を襲え、そして村人の血を持ってくるがいい、クハハハ!
――――――ん? ここに入る者の気配だと? 丁度いい! 今朝の人間共は逃げてしまったからな、お前らで乾きを癒そう、だがまだ我も完璧では無い、ダンジョンの魔物を使うとするか。
村を通過してから数分後、俺達は『死者の祭壇』の入り口に立っていた。森の中にあるそれは洞窟への入り口に鉄の扉が付いている様な感じだ、俺は後ろを振り返る。すこし高い位置にあるダンジョンの入り口からは村が一望出来た。いつの間にか朝霧が晴れていたのか、それなりに大きな村だ。
「ダンジョン周辺の村は栄えるのが常だが......」
「......後で滅菌、放っておくと大変なことになる」
「それは王国にやってもらうよ」
「滅菌というと......燃やすのか?」
「はい、このまま放置すれば王国全土に病気が蔓延しますから」
スミカ殿がそう言うと鉄の扉に手を掛けた。
「三百人以上は犠牲になってますね多分」
「ぱっと見だがな、それくらいだろう」
ケインズが村に向かって片膝を付いて祈った。聖王国での祈りの姿勢か。すると重い錆び付いた何かが動く音がして振り返るとスミカ殿が『死者の祭壇』のに通じる扉を開けていた。
開けた扉の奥から風に乗って錆と小便のような臭いが鼻をついて俺は腕で鼻を覆った。隣に居たサーシャは顔をしかめていた。
「うっ......」
「......鼻が効かない、お師匠」
「物凄い臭いですね......」
スミカ殿はそのまま扉を閉じた。
「ん? 入るのではないか?」
「入ろうと思いましたがあの臭いの中では仮眠なんて出来ないでしょう? ここで少し休憩します」
「ああ、そうか。確かにそう言っていたな」
流石にあの臭いの中で寝ることは俺は無理だ。ケインズの方を見ると首を横に振っていた。
「では私達はあそこの木の下で休ませてもらう」
「はい、そうして下さい。私達は辺りを警戒しているので」
「すまない、恩に着る」
「これも仕事ですから」
スミカ殿は身を翻して森の奥に入っていった。少し雰囲気が違うような......?
「スミカ殿、どこか雰囲気が違いますね」
「そうだな、宿での雰囲気とはだいぶ違う」
そう言いながら俺とケインズは一本の木の下に座るとサーシャが歩み寄ってきた。
「......相当怒ってる。お師匠が本気で怒るの珍しい」
「そうなのか?」
コクリとサーシャが頷くと森の奥から破裂音に似た音が聞こえ、次に木々が倒れる音がした。
「な、なんだ!?」
「敵襲ですか?!」
俺とケインズが腰に下げてあった剣に手を掛けて立ち上がろうとした瞬間、サーシャが手で制してきた。なんだ?
「......行かない方がいい、お師匠の怒りが収まるまで行かない方が良い」
「何故だ?」
「......お師匠にとって怒りは苦痛、らしい」
「苦痛だと?」
「......お師匠はドラゴンだから、ドラゴンにとって怒りは身を焦がすほどの喜び、らしい。でもお師匠はそれを嫌ってる、だから苦痛」
スミカ殿はやはりドラゴンなのか、確かに人に化ける事ができるドラゴンも居ると聞いた事があるがそれは全部伝承、昔話やおとぎ話、根も葉もない噂話のような物だ。
いや、本当は遙か昔から我々人間や魔族やその他の種族に混じって生活していたのかもしれない、我々が気づかなかっただけで身近なところにドラゴンが居るのかもしれな......待て、だとしたら何故ドラゴンは『頭が悪い』、『災害を起こす』、『厄災』なんて言われているのだ?
一見は人と大差ない、強いて言うなら羽と角があるぐらいだがそんな物はこの世界にはゴロゴロいる。俺は冷や汗が顔を伝うのを感じた。
「......やめた方がいい」
「ッツ!」
「......それ以上考えない方がいい、お師匠はお師匠、もう寝る『スリープ』」
「ちょっとま......て、く...れ」
一瞬にして凄まじい眠気が襲い俺は意識が飛んだ。
飛ぶ一瞬に見たがケインズは既に寝息を立てていた。




