三十六話、悪魔戦其の弐
考えろ……考えるんだ……考えなければ……
八方塞がりの穴を見つけるんだ。穴……悪魔について考える。悪魔? 弱点。悪魔の対義語……神。俺が神の力を使えるか? 答えは否だ。どうする? どうする? 悪魔についての文献を頭の中で読み漁る。探せ。捜せ。求めろ。答えを。悪魔? プライド? プライドが高い!
いける! が、どうやってプライドを傷つかせる? わからない。考えろ。考えるんだ。傷つかせろ……少しでもプライドを……
行け! 逝け! 走れ! 疾走しろ!
俺は悪魔の方に走る。が、悪魔は何の気なしに興味を向けない。これだ。このプライドの高さにこそ穴はあるはずだ。考えろ。考えるんだ。俺は剣を振りあげる。やっとこちらに興味を向けた悪魔が気だるそうに防ぐ準備を始める。振り降ろす。防がれる。弾かれる。まだまだ! 振り降ろす。悪魔は少し驚いたようだが、すぐに興味をなくし、簡単に防ぎ、後ろに俺を吹き飛ばす。吹き飛ばされている最中に魔力を練る。このタイミングしかない! 俺は直感的にそう思った。悪魔が最大に優越感に溺れる場所。そう、敵を倒したときだ。そして……それは今だ!
ためた魔力を術として昇華。完全なる神の加護を受けているわけではないが、大気中にある神の加護を受けたものを気を使って最大限に寄せ集める。それを使い……
「《神の炎<デオスフロガ>》!!」
魔法を放つ。神の力と俺の勇者補正。大気の自然。全てを調和させながら融合する。そして、狙いは……黒の魔導書! 速攻で使われる魔法さえなければ、ある程度の対処は容易になる。そう判断した俺は、魔導書に魔法をぶつける。
轟々と、炎をたてながら、魔導書は燃えていく。そして、それをみた悪魔は、この世のものとは思えぬ形相で、俺をにらみつけてくる。
「お前……やったな?」
そして、それが子供のような無邪気な笑みに変わり……駆けた。
俊足の瞬速。速い。疾風。数々の速き言葉を言い尽くすほどの速さ。それが俺に迫りくる。が、俺は軽く横に避ける。
「!!!????」
悪魔がなにが起こったかがわからないような感じで、素直に疑問符を表現する。素直、その言葉が表すように、激昂した悪魔は悪い方に単純だった。直線的な攻撃。いくら速くても避けるのは難しいことではない。が、怒りに狂い、それさえもわからないのか、単純な攻撃を悪魔は幾度となく俺に繰り返してくる。
「単純だな……」
近くにいたものに聞こえるか聞こえないかの小さな声で、俺の口から呟きが漏れた。それと同時に、悪魔はさらに怒り、空を向く。そんな暇があるのかよ、と心の中で俺はつっこむが、悪魔が何か言っていることに気づく。
「悪魔神よ……なぜあなたは私をお見捨てになった……?」
神頼みか。心の中で一瞥し、神頼み中の悪魔を無視し、魔法の詠唱を開始する。
「《身体強化<ディナトソマ>》」
落ち着いた声色で、俺はソラに強化呪文をかける。強化が失われ、隅でうずくまっていたソラは、水を得た魚のように目を煌めかせた。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
まだ悠長に神頼みをしている悪魔に、ソラは剣を振りかぶる。
俺も緋色の剣を、しっかりと握り、走る。
二つの剣が、一つの体に収束する。なぜ自分が負けたのかがわからない。そんな顔の悪魔は、最後まで自分のプライドの高さを知ることはなく、地面に倒れた。