十三話、過去や現在
過去。
「俺はおまえが好きだっ!!!!!」
精一杯の告白。目の前にいる彼女はどう受け止めるのか、俺はそれでかなり悩んだ。いままで、告白するかしないかでかなりの悶々とした日々を過ごしていた。数秒。俺が感じるにはあまりにも長い時間だが、現実として現れるのはたかだか数秒という時間だけだった。
「はい……」
俺は一瞬頭の中が真っ白になった。が、すぐさまそれを肯定として受け取るのを頭の中が拒否し、疑問なのかと勘ぐるようになった。どれだけ矮小な男なのだろうか、俺は。ただ何もすることもなく、無言の時は数秒として現れ……
「こちらからも言わせてください。付き合いましょう。○○君♪」
今度は先ほどよりもながく、俺は思考の狭間に取り込まれていたと思う。何がこれほど頭の中を働かせるのか。俺にはわかった。ただ単に、うれしいのだ。先ほどの矮小な自分も、うれしかったのの裏返しなのだろうとようやく気づく。うれしさと幸福が俺の頭の中を支配した。
「ありがとう……」
俺は一筋の水を頬に伝わらせながら言った。
「泣くことはないじゃないですか」
彼女は笑いながら言う。俺の心はそれだけで満たされた。こうして俺と朱里は、彼氏彼女の関係となった……
次の日はもう会えぬ関係になったんだ。すべての過去を彼女の元に置き去りにして。
現在。異世界。
「こんな幸福の直ぐ後に転成だ。神様のお召しだとしても、これほど酷いことはないだろう」
俺は言った。俺は天意的に、彼女は人為的に、最愛の人との別れを余儀なくされたのだった。悲しさ。無気力感。それが俺を包んだ。目の前のソラにもそれが伝わったのだろう。絶望の目は、黒き輝きを持っていた。
「天意によって転移……プッ」
おい、俺は今こいつを殺していいよな? 黒き目に絶望は俺をおちょくる前触れかよ。唐突なソラの発言に、俺の怒りは頂点に達しそうだった。
「あぁ……すいません。つい」
「ついじゃねぇよ!」
俺は思わず突っ込んでいた。どんだけ人間味がないのだろうか。確かに過去の栄光にだけ浸っていた俺も悪いと思うよ。悪いけどさ……
「まぁ、それでこの異世界を壊したいと……わかりました」
俺の崇高なる目的がわかったのだ、俺はそう考えた。
「私も、それに荷担しましょう」
「は!?」
飲食店内に、俺の声が響いた。
「おまえ……戦闘できるのか?」
「あっ……」
あっじゃねぇよ、どうやって世界を壊すんだよ。
「まぁ、世界を壊す人のサポートくらいならできますよ」
「まぁ、それもそうか」
事実、俺は一人旅が悲しいからという理由でソラを買ったわけだしな。旅のサポートをしてもらうのは当然だと考えた。そして……
「《真贋判定<アリスィアブセマ>》」
そうは考えたが、俺は彼女に全幅の信頼を置いているわけではなかった。そして、本当にこの少女には、先ほどのような過去があるのか? と疑問に思った。
「え?」
ソラは訳が分からないような顔をする。
[真です]
本当……か。人の心を見透かしているみたいで嫌になるな。殺す相手じゃなく、今から旅する相手というのが、何とも気が引ける要因になっている。本当……か。
「ちょっと、おまえの言葉が本当かを試したんだよ」
「そうですか、まぁ、疑われるのは当然ですしね、それくらい許しますよ」
「一応、立場が上なのは俺だぞ?」
「そうですねー」
気だるそうに彼女は言う。
「はぁ……」
俺はため息をついた。本当にこんな奴と一緒でこの先が大丈夫なのかが不安になったからだ。
「まぁ、おまえがはじめからバカ正直に、自分の過去をはなしてくれたのは感謝しているよ、ありがとう」
俺の感謝の言葉に彼女は、
「どういたしまして」
と、照れくさそうに答えるのだった。