十二話、名前や過去
俺らは服屋から出て、ずっと歩いていた。目の前の美少女が機嫌よく俺を先導する。
目の前に建物が現れた。俺はそれを見て、洒落ているなと思った。
「ここです!」
目の前の美少女の機嫌が一層良くなる。
「なにが?」
いきなりここですって言われても困る。俺は聞き返した。すると美少女はむっとした目になり、
「食べ物屋ですよ。雰囲気的にわかりませんか?」
異世界人だからわかりません。と答えようと思ったが、そんなこといきなり言われて信じるか? と聞かれたら俺だって信じまい。とりあえずやめておいた。
「ソウダネーココハスゴクタベモノヤッポイネー」
棒読みで答えた。
「そうですよ。じゃぁ、入ります?」
まぁ、入るだろう。ほかならぬ美少女@俺の奴隷の薦めだ。入らないわけにもいくまい。俺たちは、食べ物屋に入った。
さて、食べ物屋。名前はミルド食堂と言うらしい。に入った。
「じゃぁ、とりあえず食べ物でも頼みますか」
俺は言った。
「そうですね。食べ物を待っている間とかは、意外と話がはかどりそうですし……」
そういいながら、メニューをみる。普通に定食でいいな。鳥の丸焼き定食……丸焼きは苦手だ。焼き肉定食は似たものを昨日食ったしな……焼き魚定食はほかと比べてお値段がかなり高い。俺はそんな感じでうんうんと唸っていた。それを目の前の美少女がみると、
「早く決めてください。いくら何でも遅すぎます」
5分くらいかけて決めない? まだ一分ちょっとだよ?
「もう少し悩ませてくれ……」
まぁ、バカ正直に言うのもはばかられてる。適当に逃げの一手を打っておこう。
「そうですか……」
嫌々ながらも納得したようだ。
さすがにそれ以上待たせると、不機嫌まっしぐらになってしまうので、その後一分くらいで、干物定食にする事に決めた。
「遅いです……」
早い方なんだけどな。まぁ、このまま飯を決める話題で、会話のイニシアチブを向こうに握られることもあるまい。俺は話を転換することにした。
「それで、とりあえず……なにからはなそうか……」
シリアスっぽく俺が話せばイニシアチブは握れるだろう!
「そういえば、ご主人様、私の名前って知ってましたっけ?」
「……………………」
知らなくね? おれそういえばこの目の前の美少女@俺の奴隷の名前を知らなくね!?
「………………ソラです」
「ソラか……いい名前だな」
本心からそう思った。ソラ…………いい名前じゃないか。
「まぁ、本題に入ろう。俺は勇者だ」
「……………………………」
静寂。一瞬で極寒の北極に連れ去られたような静けさと冷たさ。俺が言葉を発した瞬間、それが俺の周りを包んだ。
「頭……大丈夫ですか?」
いや、事実だし……
「なにを見せれば信じてもらえる?」
「王様からもらっているはずの勇者の証<イロアスペリオリズモス>ですね。歴代の勇者を載せている歴史書や、勇者の自伝には、確実に勇者の証について記されていました。ご主人様が勇者なら、それを持っているはずです」
言葉に詰まった。もらってないや、そんなもん。貰う前に殺しちまったし。どうしようか。困った。
「…………本当に勇者なんですか?」
正直に言おうか、俺は迷った。まぁ、いつかは知らせないといけないことだ。今言っても何ら問題はあるまい。
「俺が王様を殺した」
「…………………………」
静寂第二号。いや、本当だよ。さらなる冷たさが俺を包んで蝕もうとしてくるけど、俺は潔白だ! 王様殺しって、罪になりますね。潔白じゃないですね。すいません。
「本当だ。勇者の証を貰う前に王様を殺したから、俺は勇者であるが、勇者の証を持っていない」
「……………………本当?」
「本当だ」
おれって正直ものだな。ここまで正直に全てを明かせるなんて。なんていい人なんだ。王様殺しだけど。
「まぁ、仮に、仮にですよ? ご主人様が王様を殺したと仮定しましょう。本当に仮にです。何でそんなことを?」
まぁ、当然の疑問だな。誰だって考える。
「世界を…………壊したいんだ」
「は!?」
「俺は、俺を勇者として召還したこの世界が憎い。俺を魔王討伐の手先としか見ていないこの世界が憎い。元の世界での幸せを奪ったこの世界が憎い。だから壊す。あーゆーおっけい?」
「…………………………」
ソラは絶句していた。
「おい、大丈夫か?」
「本当に…………頭大丈夫ですか?」
「あぁ、なにも問題はない。一週間くらい旅の準備を整えたら、この街も壊すつもりだ」
「この聖職者の街、イエレアスを壊すんですか?」
この街、イエレアスって言うんだ。初めて知ったな。
「勿論だ。そのためにはどんな障害もはねねのけてみせる。魔法使いだろうが、騎士だろうが、軍隊だろうが、国そのものだろうが、魔王だろうが、何だって俺の敵だ。この世界の全てのものを俺は敵として受け入れる」
「私は?」
すんなりと、空いた心に入ってくるように、ソラは言った。
「敵さ、だがよ、旅は道連れ世は情けって言うだろ? 一緒に旅をする人が一人は欲しいんだ。俺がおまえ以外の全てを壊すまでは、俺はおまえを壊さずに、味方となる」
「そうですか…………」
沈痛な雰囲気が広がる。先に口を開き、言葉を発したのはソラだった。
「私、彼氏がいたんですよ」
なぜそんな話につながるのか俺は疑問を一瞬持った。
「奴隷に売られる……一週間前くらいですかね。彼氏に結婚しようって言われたんですよね。私はこれでも、村長の娘だったんで、勝手な結婚をする事はできなかったんです」
俺はなぜだかわからないが、うなずいた。いや、頷かなければいけないと思った。生き方を、肯定しなければ…………
「駆け落ちをしよう……そう彼との間に約束をしたんですけどね、何処から情報が漏れたのか、もしくは、ただの運命のいたずらだったのかはわかりません……ですけどね、」
次にでてくる言葉が、怖くなった。なぜだろうか……
「駆け落ちの前日…………村の財政を救うとかで、奴隷に売られちゃったんですよ…………」
唇を噛みしめるように、彼女は言った。一筋の涙が、俺の頬を通過した。ソラの目にも、水が……溜まっている。
「なんでっ、ご主人様が泣くんですかっ……?」
「俺は……おまえと同じ……、いや、すごく似ているんだよ……」
一瞬困惑した顔になるソラを無視し、俺は続きの言葉を紡ぐ。
「話すよ、召還前夜を……」




