十一話、服とか
まぁ、金は後一万五千ギル以上あるし、問題ないだろう、と思った俺は、奴隷と一緒に微妙に高そうな飯屋を探した。だが、高そうな店はなかった。普通に考え、王族や貴族はお抱えのコックが居るんだろうな~と、納得した。
「どこで話す?」
俺は観念して聞いた。いや、三十分くらい歩くのに疲れた。段々と奴隷少女が不機嫌になってくるのが手に取るように分かったので、仕方なしに聞いた。
「私はこの街を回ったことはありません……ですが、普通の人がご飯を食べながら話せるようなところなら三十分回っている間に五間ほど見つけました」
すげーな。うん。
「よし! そこで一番雰囲気がよさそうなところに行こう!」
どこに失言があったのだろうか、この発言をした直後、少女は途端に不機嫌になった。
「常識的に考えて、奴隷屋の奴隷っぽい服で入れる食べ物屋さんがあったら、私が聞きたいですね」
「服屋に行くか……」
俺が観念したようにつぶやくと、少女はとたんに機嫌が良くなり、
「はい、わかりました!」
と、スキップしながら言ってきた。俺の財布大丈夫かな……
服屋についた。少女は嬉々として入っていく。
「お前はこないのですか?」
「俺は服屋は苦手だからいいよ。ついでに俺のも買っておいてくれ。ネタで買ってきたらおしおきするわ。てか、お前って言うな」
「わかりました。鬼畜くんって呼びますね」
「もっとだめだ。ご主人様と言え」
目の前の少女がえーみたいな顔をする。
「名前で呼んじゃダメですか?」
「ダメだ。名前は下の世界に封印すると、昨日の夜に決めたんだ」
目の前の少女がこの人頭大丈夫か? みたいな目をする。当然だろう。
「俺の事情は後で話す。ご主人様が嫌なら勇者様とでも呼べ。あのエルフも俺のことは勇者って呼んでいたしな」
「どっちでも変わらなくないですか?」
俺は諦めた。いいじゃん。奴隷にご主人様って言わせて何が悪い。
「ほらよ」
だが、これ以上の説得は無意味だと俺は思い、とりあえず銀貨を2枚渡した。
「銀貨二枚あれば二人分でそれなりのいいもんが買えるだろ。お前が150ギルくらい使っていいぞ。俺の分は50ギル位で、全身分三日分くらい頼むわ」
名前のことは諦めたのか、目の前の少女は満面の笑顔で、
「はい、わかりましたっ」
そう言って、服屋に入っていった。そして俺は、
「服屋って苦手なんだよな」
ひとりつぶやいた。
数十分。いや、一時間弱が経った。手持ち無沙汰になって待ち続けていた俺も、そろそろ待ちきれなくなった頃だった。
「どうですか? ご主人様」
美少女が服屋から出てきた。全体的にピンクでまとめられた服は、可憐なお嬢様を彷彿した。
「可愛いな」
俺は正直に答えた。
「うーん。女の子を褒めるならもう少し答え方があると思いますよ?」
ダメ出しされた。
「可憐なお嬢様みたいだ」
正直に答えたパート2。
「ありがとうございます」
お気に召したのか顔が綻んだ。
「俺のは?」
簡潔に俺は聞いた。いや、複雑に聞くのも難しいけどね。
「これです」
そう言うと、目の前の美少女は俺に持っている服を投げてきた。やまなりの軌道を描いた服は、俺の手元に入る。それを俺は見て、
「結構いいな」
一人呟いた。それが目の前の美少女にも伝わったのか、
「ありがとうございます」
感謝された。
「いや、お世辞じゃないんだから、お礼を言うのは俺の方だ。ありがとな」
そう俺は付けたした。
「いえいえ」
照れくさそうに目の前の美少女は言う。
「では、話せるところに行きましょうか」
そう美少女が言うと、俺たちは歩きだした。