↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
1/6

[第1話] 連絡しておけばよかった

会社を辞めてから、もうすぐ1年になる。

去年の12月。

会社を辞めた時は、次の仕事なんてすぐ見つかると思っていた。

少し休んでから、また働けばいい。

そんな風に簡単に考えていた。

けれど、現実は思ったよりうまくいかなかった。

求人サイトを開いても、なかなか自分がやりたいと思える仕事がない。

仕事内容を見て、給料を見て、勤務地を見て。

そして、

「.....なんか違うな」

そう思って、また閉じる。

そんなことを繰り返しているうちに、時間だけが過ぎていった。

気づけば、もう1年近くになる。

正社員の仕事は、まだ決まっていない。

今は派遣や単発のバイトを入れて、その日その日をなんとか過ごしている。

「.....俺、何してんだろ」

スマホの画面を閉じる。

時刻は夜の11時を過ぎていた。

12月も終わりに近づいている。

世間はもう年末だった。

俺にとっては、何も変わらない1年だった。

ーーいや。

変わったことが1つだけある。

SNSで、昔の知り合いと再び繋がった。

中学時代の同級生。

そして、俺が初めて好きになった女。

元カノだった。

相互フォローになっただけ。

メッセージを送ったわけじゃない。

向こうからも来ない。

俺からも送らない。

それだけだった。

別に嫌われているわけじゃないと思う。

たぶん。

ただ、今更何を話せばいいのかわからなかった。

中学を卒業してから、もう10年以上経っている。

今更「久しぶり」なんて送るのも、なんだか気恥ずかしい。

だから、そのままにしていた。

いつでも連絡できる。

そう思っていた。


年末。

地元に帰ってきた中学時代からの親友の慎一と遊んでいた。

昔の話をしていると、自然と中学時代の話になった。

「そういや汀、お前、雪乃と繋がって話したの?」

「.....話してないけど」

「やっとまた繋がることができたんだろ?」

「ああ。でも、相互フォローになっただけ」

「なんで連絡しねえんだよ」

「.....今さら何話すんだよ」

「久しぶり、でいいだろ」

「それが無理なんだよ」

「お前、昔からそういうとこ変わんねえな」

「うるせえよ」

2人で笑った。

その時は、それで終わった。

俺は本当に、いつでも連絡できると思っていた。

明日でもいい。

来週でもいい。

ーーいつでも。


翌日。

今年最後のバイクに乗ることにした。

特に予定があったわけじゃない。

ただ、年末だし、少し走りたかった。

バイクにまたがり、エンジンをかける。

冬の峠道を走る。

何度も走った道だった。

いつもと変わらない。

そう思っていた。

その瞬間までは。

気づいた時には地面に倒れていた。

何が起きたのか分からなかった。

「.....え?」

自分の身体だった。

救急隊員が駆け寄ってきて、必死に何かをしている。

声をかけても、誰も反応しない。

やがて、俺の身体は救急車へ運ばれていった。

「待ってくれ」

俺も、その後を追って救急車の中に乗り込む。

俺の身体の隣に座る。

救急隊員が何度も声をかけている。

サイレンが鳴り、救急車が走り出す。

俺はただ、その光景を見ていた。

病院に着く。

俺の身体が運ばれていく。

俺も、その後を追った。

けれど、病院の中に入ってからのことは、よく覚えていない。

ただ、しばらくして――

「ご臨終です」

その言葉だけが、妙にはっきり聞こえた。

そこで初めて、本当に死んだんだと思った。

それから、どれくらい時間が経ったのか分からない。

気づけば、俺は家にいた。

両親が泣いていた。

家族が俺のために泣いている。

もう、家族と話すこともできない。

もう、この家に帰ってくることもできない。

「.....ごめん」

そう呟いた。

誰にも届かなった。

それから数日が経った。

家の中には、親戚だったり、葬儀屋の人だったり。

みんな俺のために動いている。

俺はその様子を、ただ眺めていた。

自分が死んだという実感は、まだどこか遠かった。

テレビを見ても、スマホを触っても、眠る必要すらない。

時間だけが過ぎていった。


葬式の日が来た。

自分の葬式なんて、見たくない。

棺の中にいる自分を見るなんて、考えただけでも変な気分だった。

だから、家の外から葬儀場へ向かう家族を見送って、そのまま行かないつもりだった。

でもーー

ふと思った。

昔の友達は、来ているのだろうか。

中学を卒業してから、ほとんど会っていないやつもいる。

高校や大学では、そこまで友達が多かったわけじゃない。

卒業してからも連絡を取り合っているやつなんて、ほとんどいなかった。

だから余計に、中学時代の友達がどうしているのか気になった。

みんな、今は何をしているんだろう。

どんな大人になったんだろう。

そう考えると、少しだけ気になった。

それに。

「.....雪乃来ているのかな」

口に出してから、自分でも驚いた。

死んでまで、考えることがそれなのか。

でも、気になった。

だから俺は、葬儀場へ向かった。

葬儀場には、思っていたより多くの人が来ていた。

俺は入り口から、ゆっくりと中へ入っていく。

誰も俺に気づかない。

当然だ。

俺はもう、死んでいる。

受付の前を通り過ぎる。

見覚えのある顔がいくつもあった。

中学時代の同級生も何人かいた。

久しぶりに見る顔ばかりだった。

みんな、俺のために来てくれたらしい。

そう思うと、少しだけ嬉しかった。

そして、その中に慎一もいた。

少し離れたところに座っている。

俯いたまま、何も話していない。

いつもなら、くだらないことを言って笑わせてくるのに。

「慎一……」

声をかける。

当然、返事はない。

俺はそのまま、会場の中を歩いていった。

やがて、読経が始まった。

低い声が、静かな会場に響いている。

みんなが前を向いている。

俺も、その視線の先を見る。

そこには、俺の棺があった。

ゆっくりと近づいていく。

目を閉じている。

顔色が悪い。

生きている時の自分とは、まるで別人みたいだった。

「……これが、俺か」

自分の顔を見ても、まだ実感が湧かなかった。

昨日まで普通に生きていた。

仕事のこと考えて。

バイクに乗って。

慎一とくだらない話をして。

雪乃のことを考えて。

それが全部、もう終わった。

俺は棺から目を逸らした。

ふと、会場の中を見渡した。

雪乃はいるだろうか。

自然と探していた。

でも、なかなか見つからない。

家族。

親戚。

友達。

1人ずつ顔を見ていく。

そしてーー

いた。

雪乃だった。

俯いていた。

肩が小さく震えている。

泣いているのだと分かった。

「……雪乃」

思わず名前を呼んだ。

もちろん、聞こえるはずがない。

俺は少しだけ近づいた。

10年以上ぶりに見る雪乃。

中学の頃とは、少し変わっているがすぐにわかった。

雪乃はずっと泣いていた。

俺は何も言えず、その場に立っていた。

すると――

雪乃が顔を上げた。

ゆっくりと、周りを見渡す。

そして。

俺を見た。

目が合った。

雪乃は、俺を見つめていた。

その頬を、一筋の涙が流れていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。