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『ジングルベル』

※本作は、過去にSFジャンルで連載していた同名作品のセルフリメイクです。

2045年12月25日、東京。

この日、俺は銀行強盗に撃たれて死んだ。


――雑居ビルが密集するこの街は、夜でもネオンで昼のように明るい。



俺――ゆたかは、今日も残業。


(今日はカップル多いな……あ、クリスマスか)


カップル達は目に余るほどイチャついていた。


(はぁ、モテたい……)


途中、コンビニに寄って、カップ麺と護身用の拳銃の弾を購入。

弾丸はとうとうコンドームと同じ値段かぁ。

高いなぁ。

でもこの街で護身用の拳銃はないと危ないしなぁ。

命を守ると言う意味では同じなのかもしれない、と自分に言い聞かせ

死んだ目をした店員から、この街の必需品を受け取り、家へ帰ってる途中に目の前の銀行で爆発が起きた。


ドォン!!


続けて、激しい銃声が響く。


「……なんだなんだ?」


ビルの影から中を覗いた。

中では警官隊と銀行強盗が撃ち合いをしていた。

人々は爆炎の中逃げ惑ってる……


『銀行員が人質になってる!犯人の人数は!?』


警官隊の無線が飛ぶ。


(なんだ、銀行強盗か。ほっとこ)


とも思ったが、警官隊は次々と倒れていってる。


「よし……助けよう。モテるかも」


不純な動機だったが、一時期は自警団にも入ってたし、修羅場には慣れてる。


俺は倒れてる警官から無線を拝借、イヤホンを耳にはめた。

護身用の拳銃を抜き、息を殺して慎重に進む。


『犯人グループは……ザザ……奥に4人……』


無線は途切れ途切れだ。


(警官の癖に安い無線使いやがって)


奥に進むと広い事務所があり、銀行員たちが壁を向かされて人質になっていた。


「捨て駒が警官を引きつけてるうちにズラかるぞ」

「殺せ。足手まといだ」


強盗たちの会話が聞こえる。

やばいな、殺す気だ。

(敵は3人か……)

早く助けないといけないけど何もいい手が思い浮かばない。

とりあえず最初に思い浮かんだ作戦をやってみる事にした。


(上手く行けよ)


スマホのアラームを3秒後に鳴るようにセットし、奥の廊下へ滑り込ませる。


――鳴った。

大音量のジングルベルの陽気なメロディが流れる。


強盗たちは驚き、一斉に音の方へ銃口を向けた。

その隙に影から飛び出し、拳銃を乱射した。


狙いは甘かったが、1人は即死、1人は重傷。

1人外し、撃ち返してきた。


「うわっ!」

俺は壁に隠れて強盗の銃撃をやりすごした。

――ふと、銃撃が止んだ。

リロードだ。


(今だ!)


俺は壁から飛び出し、強盗に向け全弾ぶち込む。

強盗は身体中穴だらけになり、血を吹き出し倒れた。


緊張から解き放たれ震えが今になって来る……


でも――、

――思った通り上手く行った時って、このあと大体何かあるんだよな。

俺は自分のジンクスを思い出した。


「兄貴! なんだお前は?!」


裏から1人の強盗が現れる。


(やっぱな……4人目だ)


男が銃口を向ける動作が、やけに長く感じた。


「死ねぇ!!」


男が怒り狂って撃ってきた。

胸や腹部に衝撃。まともに銃弾を受けてしまう。


アドレナリンのせいか痛みは感じないが、痛いと言うより苦しい。肺が潰れ、吸ったそばから空気が漏れていく。


俺は必死で踏ん張り、最後の一人に向けて銃口を向け直した。

が――。


カチッ。


……弾切れ。


終わった。


しかし次の瞬間。


パリンッ!


窓ガラスが割れる音がしたかと思ったら、目の前の強盗の頭が弾け飛んだ。


(狙撃……? 誰がやったんだ?)


そんな疑問よりも、自分の怪我の方が深刻だった。


血が止まらない。

呼吸音もヒューヒューとおかしい。

歩く度に靴が血でぐちゅぐちゅと水気を帯びた音を立てている。

でも、まだ爆弾があるかも知れない。

最後の力を振り絞って、呆然とする人質を裏口から逃がした。


……これで、全員だ。

とうとう力尽き、膝をつく。


(ああ……これ、死ぬわ……)


冷たい地面に、暖かい血が広がる。

雪が降っている。

ホワイトクリスマスだ。


(眠い……。雪、ロマンチックだなぁ。……最期に一服しよ)


ジングルベルを聴きながら、震える手でタバコを咥えた。

ライターを擦るが、指が血で滑って火がつかない。

……ちくしょう、最後までツイてないな。


(一服したかったな……)


意識が遠のく中、誰かが近くに立っているのが見えた。

女の子? デカい筒を抱えてる。

綺麗な金髪と青い目がどこか神秘的だった。


(天使? いや、死神かな……)


俺の意識は、そこで完全に闇に落ちた。



――俺は死んだ。


そう思った。


俺は不死身になる事もこの“死神”が今後の人生に深く関わる事も、この時は知る由もなかった。



……。


痛い。

焼けるようだ。

……なのに、凍りつきそうなほど


……寒い。

 

「適合値、基準をクリア。……これよりナノマシンコアを定着させる」


男の声がボヤけて聞こえる。


「寒い……。毛布を……」


朦朧とする意識の中で俺は頼んだ。


男は無機質な声で返した。


「そんなものは、もう必要なくなりますよ」


それが、俺が“人間”として最後に聞いた言葉だった。


 

次に目を覚ました時、どこか無機質な白い天井とベッドの脇で金髪碧眼の美少女が俺を覗いていた。


(あ、外人さんだ。ニコニコしてる)


「あー、キャンユー・スピーク・ジャパニーズ?」


「イエス!気がついたね!私、アンナ! 何本に見える?」


アンナが目の前で指を三本立てる。


「……三本」


「よし、脳までイカれてないね!合格!」


アンナの話をまとめると、ここは警察の秘密研究所だという。


「裕って勇気あるよね。あんな状況で強盗に立ち向かうなんて」


(呼び捨てかい……)


「……自警団やってたからね。モテようと思って」


「バカだね!」


めっちゃ明るい声で言われた。


「私は警官だよ!」


屈託のない笑顔でアンナは言った。


 (警官?こんな“ちんちくりん”が?)


困惑する俺の前に、一人の白衣の男が部屋に入ってきた。


「気がついたかね。裕くん」

「あ!高槻(たかつき)!今目覚めたの!」


高槻と呼ばれた男が、俺の体調を尋ねてくる。


「あれ?そう言えばどこも痛くない」


撃たれた箇所を触っても、傷跡すら残っていなかった。


「致命傷だった君を救うために、ある特殊な手術をしたんだ」

「特殊な手術?」


「どんな傷でも治る超人になったと言えばわかるかな?」

「ウルヴァリンみたいな?」

「そうそう!爪は出ないけどね!」


アンナが茶目っ気たっぷりに笑う。

だが、俺には別の不安があった。


「あ、手術代...分割できます?」

「あー、払わなくていい」


「え?無料?」

「いや、警察の特殊部隊に入隊してもらうよ」


「俺、素人ですよ……?」

「訓練すれば問題ない。もしくはここで実験体として生活してもらうよ」


俺は公式には「死人」扱い。

会社にも死亡届が届いているという。


ふと気になったことを口にする。


「あの……友達や家族には会えますか?」

「君は死んだ人間だと言っただろう? 君の居場所はもう、ここにしかないんだよ」


「え?電話もダメですか?」

「ダメだよ。君は歩く国家機密だからね。入隊するか、実験体になるか、今決めて欲しい」


「んな、めちゃくちゃな……」


(こんなとこで実験体だけは嫌だな)


「どうするね?」

「……わかりました。入隊します」

選択肢はないに等しかった。


「よし。では、今日から寮生活だ。……アンナくん」


「はーい! 裕、こっちだよ!」

アンナに腕を引っ張られ、俺は真っ白な病室を後にした。

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