21 叱咤
斧が槍を弾き飛ばす音が、雨音に混じって響き渡る。
ドライアドはまだ立っていた。だがその肩は上下し、呼吸は荒い。
振り抜いた斧を地に叩きつけ、血と潮の飛沫が弧を描いた。
「くそ……数が減らん!」
迫る魚人をまた一人、また一人と斬り伏せる。
だが斧を振るうたびに息は重くなり、膝がわずかに揺れる。
ゼフィルはその様子をただ見つめていた。
腕の中で、カイがぐったりと沈んでいる。
「カイ! ……返事をしろ!」
呼びかけても反応はない。かすかな息はあるが、瞼は開かない。
背後から迫る槍を目にし、ゼフィルはカイを抱え込むようにして転がった。
喉が焼ける。胸が締めつけられる。
「龍の子!」
斧を振るいながら、ドライアドが怒鳴った。
「戦え! いつまで学者の真似事をしているつもりだ!」
「俺には……無理だ!」
ゼフィルの叫びは雨に呑まれた。
「俺は剣を握ったこともない! 戦士じゃない!」
「無理じゃない!」
ドライアドは血を吐くように声を張り上げる。
「お前の血は龍神のものだ! やれ! やってみろ!」
ゼフィルは混乱し、ただ声を荒げた。
「……っ! うわぁあああああああ!!!」
その瞬間、亀裂から新たな波が溢れ出した。
魚人の軍勢が、黒い潮のように押し寄せる。
叫びが雨空を突き抜ける中――