20 亀裂より来るもの
世界の亀裂が裂け広がり、潮の匂いが濃くなった。
その口から、ぬらりと黒い影が溢れ出す。
尾鰭を揺らし、水に濡れた鱗を煌めかせる魚人の戦士たち。
筋肉質の腕には鋭い槍。瞬き一つしない瞳が、冷たくこちらを見据えていた。
「出たな……!」
ドライアドが吼えると同時に、斧を振り上げて駆け出した。
振り下ろされる刃が一閃、二閃――潮水ごと魚人を切り伏せる。
振り返れば斧の弧が残光のように光り、濁った海の臭気を吹き散らす。
「は、速い……!」
ゼフィルは息を呑み、ただ目で追うしかなかった。
「一人で……あれだけの数を……」
カイの声は震えていた。
だが、亀裂からは次々と魚人が溢れ出す。三、五、十。
ドライアドは斧を構え直し、獣のような咆哮を上げながら突き進む。
槍を弾き、頭蓋を砕き、胴を叩き斬る。
その度に潮の飛沫が雨と混じって弧を描いた。
だが、いかに精霊といえども数は減らない。
切っても切っても現れる影。呼吸が荒くなり、額から雫が流れ落ちる。
「ドライアドが……押されてる……」
「嘘だろ……」
学者二人は足を一歩も動かせない。
知識はあっても、槍を受け止める腕も、斧を振るう脚力もない。
そのとき。
「っ……!」
カイがゼフィルの袖を掴んだ。
その顔が苦痛に歪み、膝から崩れ落ちる。
「カイ!? どうした!」
「……めまい……いや、これは……」
強烈な酩酊感に襲われ、立っていられなくなったカイは、ゼフィルの腕の中に倒れ込む。
その瞬間、魚人たちの冷たい瞳が、一斉に二人を射抜いた。




