表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/23

19 境界の亀裂

 赤色灯をともすと、黒い箱の前に座ったカイは大きく深呼吸し、震える手で蓋を開いた。

 獣耳がわずかに下がる。


「カイ……種は」


 ゼフィルの問いかけに、カイはゆっくりとこちらを振り返った。

 両手で抱えた瓶。そのガラスを突き破るように、五寸ほどの緑の茎と若葉が伸びていた。


「そんなに大きく……」

「僕は……植物学者の名折れだ。

 枯らすことも、傷つけることさえ出来ず、この事態を招いてしまった……」


 黒い瞳から涙が零れ、瓶を持つ指先を濡らす。

 ゼフィルは慌てて彼のそばに跪いた。


「違う! お前のせいじゃない!

 こんな規格外の植物、誰が手を出してもダメだった。

 ドライアドでさえ処理できなかった種だ。

 俺にだって何もできない。お前は、ただ巻き込まれただけだ!」


「……ゼフィル」


「頼む、泣くな。俺は今日もハンカチを持っていない」

「ははっ……なんだよそれ」


 袖で涙を拭い、カイは少しだけ笑った。


「ここを出よう。この狭い部屋で襲われたらひとたまりもない」

「そうだな」


 二人は足早に巨大温室を出た。


 外は冷たい雨。空一面に重い雲が広がり、容赦なく打ち付けてくる。

 そして、目に映った光景に息を呑んだ。


 ――世界の亀裂。


 地面でも空でも関係なく、至る所にひびのような割れ目が走り、そこから強い潮の匂いが漂っていた。時折、水が溢れ出しては、足元を濡らす。


「これが……境界の歪み?」

「そうだ」


 振り返れば、いつの間にか背後にドライアドが立っていた。

 焦茶の長い髪は雨に打たれ、緑の衣は戦闘で汚れていたが、彼女の眼差しは鋭く、神々しさを欠いてはいなかった。


「来るぞ!」


 その声に、ゼフィルとカイは反射的に身構えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ