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甘い。どうしようもなく。
血があふれる傷口に舌をはわせて、甘く痺れる味を堪能する。血が滴る輪郭に指を滑らせる。…もったいない。あぁ、もっと大きな口であれば。流れた血をすべて飲み干せたのに。
血の香りに。血の味に。血の色に。私は、酔ったのだ。まるで酒を浴びたかのように。
恍惚と笑いながら血を舐めとる私に、あの子が、怯えている事にも気づかずに。
「何をしているの!」
シスターの声が響く。かすかに震えている。…私のやっている事が、異常な事だからだろう。…血をすするという人にはあり得ない行為。誰もやらない。やろうとすら思わない行為。…でも…私にはやらなくては、生きていけない行為。
わかるのだ。食事をしなければ人は生きていけない。私は、血をすすらなければ生きていけない。
「その子を離しなさい!」
シスターの金切り声がする。子供たちはシスターの後ろから呆然とこちらをみている。
離したくない。
手の中の食べ物を奪われたくない。打算的で、でも切実な私の浅ましい思いは、あの子の拒絶により、明確に失われた。
「いや!」
あの子の、全力とも言える力で私は突き飛ばされた。あの子よりも圧倒的に小さな私は、どうする事も出来ずに床に頭を打ちつけた。打ちつけた拍子に、光が目の裏から出てきたように見えた。
その光が、消えたと同時に、知らない記憶が頭の中に浮かんできた。早送りのビデオのように。
鮮明に、色鮮やかに、はっきりと。
私じゃない。けれども、私の記憶が。
私は、一度死んだのだ。確信した。飛行機という空を飛ぶ機械に乗り、墜落し燃やされ死んだ。
そして、死ぬまで私は、平和で、暖かく、普通の人間として生きていた。この孤児院の子供たちのように。笑って泣いて甘えて怒って。幸せに生きていた。生きられる事に疑問も持たず。
だから、今、自分のしていた血をすする行為に、とてつもない嫌悪が浮かび上がる。両手が血で濡れている。なぜ?答えは明白で簡単だった。それでも、私の中に疑問が湧き上がる。
私は、何になったのだ?




