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正しい吸血鬼のなり方  作者: 冬月 葉
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6/89

6

 その日は唐突にやってきた。冬の寒さが厳しい日で、子供たちは、室内に閉じ込められ鬱々としていた。

 男の子たちは、外に出られない事にイライラしていて、何か原因なのかも分からぬまま、ケンカをしだした。口での罵り合いは、あっという間に暴力に変わり、周りの子供たちは悲鳴をあげて逃げ始めた。…あの子以外は。


 ケンカを止めようとして、あの子は間に入った。


 そして。片方の男の子に全力で突き飛ばされた。


 うるさい、邪魔するなと。


 勢いよく、石の棚の角に、頭を打ちつけられた。


 ガッと鈍く、柔らかい物が潰れた音がした。


 一瞬で子供たちが静止した。音も立てずにジッとあの子が倒れるが所を見ていた。…私も同様に。


 あの子の頭から、血が飛び散ってドサリと人形のように倒れた瞬間に、誰かの悲鳴が響いた。


 布を引き裂くような悲鳴をあげて子供たちは逃げ始めた。ケンカをしていた男の子たちも、蒼白になり、あの子の怪我を介抱することなく、逃げた。  

 部屋には私一人。


 口の中に、唾液がたまる。喉が乾く。  


 部屋には私一人。


 かぐわしいにおい。甘く、たえられないにおい。

 空腹はもはや痛みになり、絶えず私を苦しめた。


 飢餓を埋められる物が、今、ここに。


 一歩。一歩。夢を見せられたようにふらつく足で進む。


 子供たちはすぐにシスターを呼ぶ。助けてと。私は、ここを立ち去らなけば、ならない。あの子を助けなければならない。…それなのに。足が。歩みが。止められない。  


 流れ出た血は、赤く床を染める。人には、忌むべき色。回避すべき色。なのに、どうして、こんなにも私を誘う色なのか。手が震えている。…触れたいと脳がいう。喰えと身体が欲する。すすれと本能が叫ぶ。

 私にその欲望を止めるすべは、どこにもなかった。

 血だまりに膝をつき、あの子の肩を抱き寄せ、ぐったりとした身体に近づく。血が滴る顔を壊れ物のように優しく傾ける。そして。傷口に唇をは這わせた。

 唇が血で染まる。血のにおいが鼻を満たす。 


 私は、確かに、どうしようもなく、幸せを感じていた。

 

 


 

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