逃亡編 10
喰ってやるとは決めたものの私一人では荷が重いかもしれない。私、忘れてしまうが幼子。
とりあえず黒チーター改め、黒髪の男の子を起こそう。では、さっそくと手をワキワキさせる。倫理観?毛皮剥がされて殺されそうなこの場合に倫理観など挟む余地は無い。
ふと思う。あれ?くすぐったら笑う。笑ったら声が漏れる。漏れたら居場所がバレる。バレたら殺されて毛皮を剥がされる。私、逃げる。…私は逃げられるが、後味は最悪。
うーむ。酔って寝ている人の起こし方…酔った時の対処方法なんて知らない。…だが、話し声が聞こえてきている間にどうにかしたい。考えこむ時間は無い。
私は、手を振り上げて、往復ビンタを繰り出した。
ちっちゃい紅葉が、男の子の顔につく。一往復…ニ往復した所で目を開いた男の子の口をふさぐ。
「目が覚めた?とりあえず状況を説明する。」
小声でささやく。男の子の口がモゴモゴするが、構っていられる余裕は無いのだ。
「あなたを殺しに男たちがきている。」
口をふさいでいても、息を飲む音がした。
「ねぇ、あなた、生きたいの?死にたいの?どっち?」
とりあえず聞いておかなくてはと思っていた。毛皮を利用するために密猟されたのは、たぶんこの男の子の親族だろう。逃げてきたのならば生きたいはずだが、疲れ果てている可能性もある。
「とりあえず、私は、ムカついたからあいつら喰うけど、あなたはどうする?」
ここで、あきらめた顔をしたら、私はあいつらを喰って終わりにする。
でも。
見開いていた金色の瞳を憎悪に燃やした顔を見て、私はニヤリと笑う。
「憎い?」
かすかに頷く。いい目だな。怒りと憎しみに彩られた瞳は、ギラギラと輝いていて美しい。
説明が足りないはずなのに、私の話に聞き入ってくれている。端的に、重要な部分のみを話す。
「あなたの大切な人を殺した奴は、別の人。こいつらは、あなたを殺して毛皮を剥ごうとしている。」
「許せるのか?」
首を傾けてにっこり笑顔で問いかける。男の子の口から手を外す。
「…許せるはずがない。」
喉の奥で唸るように低く重い声で答えた。
「協力するよ。…なぁ、殺しにきたっていう事は、殺されても文句は言えないよな。」
私は、にこにこ笑顔で、当然の事をいう。殺しにきたなら、反撃は許される。正当防衛というやつだ。
「まず、あいつらを引き離そう。」
男の子は瞳をすがめて、コクリとうなずく。
私は笑顔で了承した。楽しい、楽しい、正当防衛の始まりだ。




