逃走編 2
牙の下に入るなんてカッコイイ感じに言ってみたけど、全然違う。そんなのちっちゃい子供にできる訳がなかろう。
ただ、穴に落ちただけ。
木の根の下にあった小動物の穴。ちょうど良くあってくれた事に感謝しかない。スッポリ入ってしまえば黒チーター(仮)もあきらめる…はず。
足から入ったが、全身入りきる?いや、この穴ちょっと曲がってる?モゾモゾと穴に潜るモグラのように、めっちゃ焦りながら穴の中に入る。
上から、グルグルと黒チーター(仮)の唸り声が聞こえてきて、余計に焦る。
土の湿った感触と土のにおいが、今の危機的状況を鮮明にみせつける。
自分の心臓のバクバクという音が、今生きている事を教えてくれる。
土の中でも音は拾える。草を柔らかく踏む音。私の入った穴の上に…いる。それは確信。
ガリと爪が木の根を割く。黒チーター(仮)の肉球が静かに私のいる穴の上に乗った。
呼吸を意識して細く長くする。緊張に上がる呼吸は、自分が意識するよりも大きくうるさい。
殴られたくないなら、自分の存在を消せ。
兄さんと私が、小さい頃に覚えた護身術。…これがこんなところで使う日が来ようとは思ってもみなかったが。
黒チーター(仮)の爪が、ガリガリと木の根を裂く。…うっわ。やばい。木の根がなくなったら、穴が丸出し。…そしたら、私喰われる?
ちょっと思考が止まって、手を無意識に強くにぎる。にぎったら固い物が手の中に。
私をつらぬいていたナイフ。
そうだよね。ここまでされて反撃しないでいるなんて私らしくない。泥だらけの顔に笑みを浮かべる。頭の上から聞こえてくる音は、カウントダウン。
ほら、おいで。私の爪がお前をつらぬいてあげる。やられっぱなしなんて私じゃない。やられたら、やり返さなければ。
喰おうとするなら、喰ってあげる。
ククッと息をするように笑いがもれて、ナイフを持った腕が上に上がる。穴に入る時にはあれだけ硬く感じた土が柔らかく私の腕の形になっていく。
幼い子供は、さぞ美味そうなのだろう。黒チーター(仮)はあきらめる事なくひたすらに木の根を割く。
でも、残念。私は、喰える物じゃない。
まちかまえる。
獲物を捕らえるための爪が、入った瞬間に、私は、笑みを浮かべながら、その足を、切り裂いた。




