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私の孤児院には、優しく甘くお人好しですぐに死んでしまいそうな子がいた。その子は、いつだって他人を優先させた。お腹を空かせた子がいれば自分の分をあげる。ケンカをしていれば間に入って殴られる。そして笑うのだ。大丈夫だと。
私には、さっぱり理解出来なかった。
人は食べ物が無ければ死ぬし、殴られれば痛い。殴られた所が悪ければ死んでしまうひ弱な生き物なのに。
お腹を鳴らしても、傷が痛んでもふにゃふにゃと赤子のように邪気なく笑っていた。
なぜなのか、知りたい訳ではなくだだなんとなく私の余っている食べ物をあげた。…本当に余っていたし。食べなくていい理由も欲しかったし。
その子は、キョトンと私を見ていた。ありえないものを見るように。
私が差し出したパンを、ふれていいのかためらっていたから口元まで持っていった。
その後に気づいた。私は、この孤児院に来てから一度も、誰とも、接していなかった事に。
人形のように座り込み、シスターに促され席に座る。食べなさいと言われ、食べる。眠りなさいと言われ眠る。一言も話す事無く。そんな子を孤児院の子供たちは、最初のうちはからかったり髪を引っ張ったりしてきた。でも、そのうち何もしなくなった。…私がジッと見つめたからかもしれない。
食べられる獲物かどうかを。どこに噛みつこうかと。首筋。手首。腕の付け根。お腹。内腿。足首。一瞬で値踏みした。この子は、喰える、のか。
喰ってもいいのか。いつ?今?夜?今?
飢餓に耐えられなくなりそうな私は、そんな事ばかり考えていた。
その空腹を、飢餓を、孤児院の子供たちは、無意識に気づいたのだろう。そして、距離をとった。喰われる事の無いように。空腹を刺激する事の無いように。…獲物にされないように。…視界に入る事の無いように。
大変、賢い選択をしたのだ。一人を除いて。




