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復讐は内密に  作者: K
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11/12

11. あなたが最後にみた私

※ 本作には「アレルギー」に関する描写が登場しますが、あくまで異世界ファンタジーとしての演出です。

現実の疾患を軽視・揶揄する意図は一切ありません。

祝賀の場で起きた発作のあと、痒み自体は時間をかけて治った。

けれど、一度芽生えた“違和感”は拭えなかった。


「……また、何かあったら怖いし」

「ちょっと不潔なんじゃないかしら?」

かつてルチアナを見れば誰もが微笑み、花が咲くようにその場の空気が華やいだ。

だが今では、社交の場で彼女に向けられるのは明確な拒絶ではない、けれど確かに距離を取る仕草と曖昧な目線のそらしだった。


ルチアナは、ただ感じ取ってしまう。

自分が今までのように愛されていないことに。


それが恐ろしくてたまらなかった。


「なんで……どうして、みんな私を見てくれないの?ドレスも……香油も……ちゃんとしてるのに」


鏡の前で何度も髪を梳き、笑顔を作ってみせる。

けれど、ルチアナの瞳の奥には確かな“怯え”が映っていた。


数日後ルチアナは自室に閉じこもったまま出てこなくなった。

食事も人を介してしか取らず、鏡の前でうつろな笑みを浮かべるだけ。

そんな妹に、リディアーヌは声をかけた。


「ルチアナ、お願い。ちょっとだけ、顔を見せて?あなたの好きな物を持ってきたわ」


ドアをノックし、丁寧な笑みを浮かべながら手にしていたのは、ルチアナの好物ミートパイと“ナラクア”を極薄にした希釈したジュース。

ルチアナは怯えたように扉を見つめるが、姉のその優しい声音に、どこか安心して扉を開けた。


「まぁ、こんなにやつれて……可哀想なルチアナ」

「…お姉さま」

「これを食べて元気になりましょうね」

優しくルチアナを心から案じる姿は、さぞ美しい姉妹愛に見えただろう。

ベッドに座ったルチアナは、差し出されたジュースに目を落とす。

手を伸ばしかけて、ピタリと止まった。

その香り。ほんのり甘くて、どこか懐かしい果実の香り。


「……こ、れは」

そう言いかけて、彼女の指先が震えた。

理由はわからない、でも無意識に身体反がこれを拒絶している。


「ナラクア……で、しょう?」

喉奥に、冷たい不安がせり上がる。

ルチアナは小さくかぶりを振って、伸ばしかけた手を引き寄せた。


「……やっぱり、いらないわ。ごめんなさい、ちょっと今は……」

「だめよ、ルチアナ」

リディアーヌの声が、静かに、けれど決定的な拒絶を含んでいた。

笑っていた唇が、そのままなのに冷たい。


「せっかくあなたのために用意したのよ?“元気になってほしい”と思って」

「……お姉さま?」

「ルチアナ、飲んで」

「飲まないと——“また誰からも愛されなくなるわよ”?」

リディアーヌの手が、すっと伸びる。

ジュースの入ったグラスを持つ手が、ルチアナの口元へと強引に寄せられる。


「やっ……やめて、お願い……!」

「何が“お願い”よ」

リディアーヌの声が低く、乾いていた。


「あなた……自分が何をしたか、もう忘れたの?」

その瞬間、姉の手がぐっと力を込める。

ルチアナの顎を指で固定し、まるで口移しでもするようにグラスを傾けた。


「や、いや……っ!!」

わずか一口、喉に流れ込む果実の液体。

身体が本能的に拒絶し、咳き込む。


「っ、げほっ……うっ…なに、これ!」

「懐かしいでしょ?“あなたを育てた味”よ」

そう言って、リディアーヌはにっこりと微笑んだ。

しかしその瞳は、どこか冷たい凪のような狂気を湛えていた。



「……わたしね、ずっと思ってたの。

どうして“私の妹”が、あんなにも誰からも愛されるのかって」


ルチアナの背筋が凍る。

リディアーヌの瞳は、どこまでも静かで底が知れなかった。


「でも、もうわかったのよ。あんたには“神様の祝福”がある。

それも、誰からも好かれるなんて、都合のいいやつがね」

ルチアナは小さく震えた。

まるで、自分の中の秘密をすべて見透かされたような気がして。


「でもね……」

リディアーヌは一歩近づいた。


「どれだけ甘やかされても、どれだけ愛されても。

そんなもの、“たった一滴の違和感”で、ぜんぶ壊れるのよ」


彼女の声は、まるで呪詛のようだった。

だがそれ以上に、確信に満ちていた。


「お姉さま、なにをっ……ん、あれ?喉……なんか……変……」

呼吸が少し苦しくなる。肌が少し赤くなり始める。

けれど、それは非常に軽度だった。

命に関わるほどではない。

だがルチアナは己の変調を悟るや否や、カッと目を見開いた。


「っっ、お姉さま!?殺す気!?私を殺そうとしたのね!!」

叫ぶと同時に、コップを投げつけ、リディアーヌを突き飛ばした。


「この、悪魔っ……っ!!」


ルチアナの言葉にリディアーヌは思わず吐き捨てた。


「……どの口が」


ルチアナの部屋から響いた騒音と叫びに、騒ぎを聞きつけて、メイドや家令が駆けつけてきた。


「ルチアナ様、どうなされました!?」

「お嬢様!?」


ルチアナは駆けつけたメイド達に訴えた。


「この人がっ、私に毒をっ、私をっ……殺そうと……!」

「…ルチアナ」

けれど誰もが、言葉を飲み込んだ。

その場にあったのは桃色の液体がこぼれた床と、倒れ込んだリディアーヌ。

そして頬を紅潮させ、ゼェゼェと息をするルチアナの姿。


どこをどうみればリディアーヌがルチアナを殺そうする光景に見えるのか。


「……ルチアナ様、落ち着いてください」

「リディアーヌ様は、ただご様子を見にいらしただけですわ」


「違う!!違う違う違う!!この人が!この人が私を……!」

必死で叫ぶその姿に、誰かがぽつりと呟いた。


「……頭がおかしくなってしまったのかしら」

その一言が、部屋の空気を凍らせる。


先日まであれほど“可憐”と褒めそやされた少女の瞳が、今や疑念と怯えに濁っていた。

あの子は今、“愛されない”ことへの恐怖に押し潰されそうになっている。


ルチアナが突き飛ばした拍子に倒れたリディアーヌは、ゆっくりと床から身を起こす。

軽く埃を払いながら、何かを思い出すように、目を伏せて笑った。


石畳の冷たさ、打ちつけられた頭蓋の震え。

背後から背中を押した男の気配。

そして、遠ざかっていく意識のなかで見た、あの、妹の笑顔。


リディアーヌの頬が、ひたりと緩む。

ほんの一瞬だけ、口元に浮かんだのは、あの夜、ルチアナがしていたのとまったく同じ “うっそりとした笑み”。


誰に向けるでもない、ただ自分の中から零れたような、独り言。


「……ねぇ、覚えてるよ。あの時、あなた……そんな顔してたわね」

床に座ったまま、リディアーヌはルチアナを見つめる。


「今の私、ちゃんと似てたかしら?


——あなたが最後に見た、私の顔に」


その微笑の奥にあるのは、優しさでも憐れみでもない。

あの夜、死の淵で“私が”見た、あの表情を今、“私が”纏っているだけ。




****

最後までお読みいただきありがとうございます。

数ある小説の中からこの小説をお読み頂き、とても嬉しいです。

少しでも本作品を面白い、と思っていただけましたら・・

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― 新着の感想 ―
〉——あなたが最後に見た、私の顔に」 ではなく 私が最後に見た、あなたの顔に ではないでしょうか?
父、母、妹、婚約者まで、アレルギー持ち!? ちょっと多過ぎて不自然かな? これがリディアーヌにもあると納得なんですが。
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