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失格教師と屋根裏の散歩者  作者: あまやどり
第三章 失格教師と謎の落書き
28/51

失格教師と謎の企業

新章開始です(/・ω・)/

【5月4日(木) 18:25】


 捨見の母親の電話番号を検索した先に、「代行サービス」なる会社を探り当てた。

 思い切って訪問してみる。隣町のかなり良い立地にその会社はあった。小ぎれいで交通の便が良い。が、外観からは何を扱ってるのか皆目分からない会社だ。


 入ってみると、事務所にデスクと電話が何台も並んでいた。

「代行サービスというのはですね、契約者の代わりに私共が電話を取り次ぐサービスです」

 事務員の男性が説明してくれる。

「うーん……? じゃあ俺が登録して、“田中一郎”で登録したとすると」

「田中一郎様宛てにかかってきた電話を、さもいるかのように取り次ぎます。それだけで、余計なことは一切言いませんのでご安心を。ご希望でしたら電話手を男性か女性か指定することもできます。追加料金が発生しますが」

 捨見母の電話での応対がやけに事務的だったのも、曖昧な返答しかなかったのにも納得がいった。事務的どころか事務員そのものだったか。

 だが、けったいな仕事があるもんだ。


 たとえば、保証人をでっち上げたりするとかか? まっとうな使い道じゃないだろ、これ。

 胡乱(うろん)な感想が表情にも出ていたのだろう。

「あの、お客様、契約をご希望で?」

 責任者らしき男性が警戒を強めた。

「いや、ありがとうございます。いったん持ち帰って検討しますので」

 いかにもな文句を並べてその場を後にした。


 捨見はここに登録してたわけだ。どこからか電話が来たら、女性事務員に母親のフリをさせていたんだな。

 1つの疑問が解け、新たな疑問が頭をもたげる。


 じゃあアイツの本当の母親は、いったいどこにいるんだよ?



【――――】


 教育委員会の真東と名乗る人物から、何度も連絡が来ている、と代行から連絡があった。

 中学のときろくに学校に行ってなかったけど、そんなトコから連絡なんて1回もきたことない。


「九字塚センセしかいないワケ」

 生徒の電話番号は、担任しか見ることができないと聞いて安心していたんだケド。思った以上に生徒の情報管理はザルっぽい。

 しかもセンセ、どーやらアタシのこと怪しんでいるフシがある。

「遅かれ早かれ気付かれるだろーとは思ってたケド」

 どうやら、予想以上の速度で九字塚恭二はアタシの秘密に肉薄しつつあるみたい。

 いっしょにタブレットドロボー捕まえたことや、わいせつ教師をとっちめたことに影響を受けたのかもしれない。


「……余計な知恵をつけさせちゃったカナ~?」



【5月8日(月) 8:18】


 暑さを感じる時期になると、教師はネクタイをしなくてもいい、と規則にある。ネクタイのあるなしだけで、暑さの感じ方がずいぶん違う。

 ただし、やはり例外というものはあって、進路指導部の人間だけは夏でもネクタイ着用が義務付けられていた。「急な来客でも対応できるように」ってことで、要は進路は接客業扱いなんだな。

 ただでさえ俺は暑いのが苦手だってのに。おのれ。


 暑さが苦手な俺は、いつもこの規則を恨めしく思っている。

 愛用のランサーで学校に向かうと、校門の前に白黒の車が横付けしてあった。おや、学校にパトカーが来るのは珍しい。

 学校は鎖国した島国だ。警察は言うなら外国の軍隊。余程のことがなければ通報せずに内々で片付けてしまう。


「おいおい、何があったよ? まさか、あの屋根裏の散歩者のことが発覚したか?」

 警察官が巻代先生たち生徒指導部と何やら話をしていた。

 校門の近くの壁に、ペンキで大きく落書きされているのが目に入った。


【ハンザイシャに気をつけろ! このガッコウにいるぞ!】


と、書きなぐられている。

「……うげ」

 どういう意図か、白と黒で文字が書き分けられていた。ハ、ャ、ろは白で書かれてるのに、ン、ザ、気はなぜか白い部分と黒い部分が混在していた。他は全部黒字。


 犯罪者……。犯罪者と言われて真っ先に思いつくのは、あの屋根裏の散歩者だが。


 まさか、捨見を告発しようってヤツがいるのか?


 しかし、校門には防犯カメラがあるから、犯人は丸分かりだろう。捕まるのは時間の問題だ。

 そうなったら、芋づる式に捨見、そして俺にまで手が及ぶことになる。思わず回れ右して逃げ出したくなってくるな。

 さて困った。が、自首する前に詳細をきいてみよう。


 体育教師がブルーシートをかけて落書きを隠す前に、こっそりとスマホで撮影した。

 生徒たちもスマホで撮影している。教師が制止しているが、S商生にやめるようなモラルはない。午前中には全校生徒に拡散されるだろう。


「見たッスか? 校門のシート」

 巻代先生が面白そうに笑っている。かなり遠慮のないやり取りができる間柄だからこその笑顔だ。

「ペンキででかでかと怪文書が書いてましたね。教頭先生は?」

「そりゃあもちろん、コレッスよ」

 両手の人差し指を頭に当てて見せた。だいぶんお冠のようだ。

「近所の住民が通報したもんだから、大事になっちゃって」

 いつもの揉み消しができなかったわけな。普段騒音で迷惑してる住民の皆さんも、危機感に駆られたんだろう。

「俺たちに“消せ”って言わないだろうなあ」

 命じられたらやるしかないんだけどな。学校もご多聞に漏れず縦社会だ。

「体育教師が落書きの処理、生徒指導部が警察対応を押し付けられました」

「それはお気の毒」

 授業時間外の教師は、ほとんど何でも屋だもんな。3月なんか、学校中の教室を教員総出でワックスがけをする。あれは辛い。


「まあ、校門には唯一の防犯カメラがあるから、すぐに分かるでしょ」

 校門にはS商唯一の防犯カメラが設置してある。S商は恐ろしく荒れてるのに、校内に防犯カメラの1つもない。プライバシーがどうたら言ってるが、その結果屋根裏の散歩者が闊歩してる現状なわけで。

「アレ、ダミーッスよ」

 巻代先生がけろりとした表情で答えた。

「マジか!」

 校門だけは、S商で唯一まともな防犯設備があると思ってたのに。

「安物のダミーなら1500円ぐらいでありますから。本物なら工事費込みで9万円ぐらいかかるッスよ」

 それならまあ、予算のないS商ならダミー一択だな。


 あれ? なら落書き犯は、カメラがダミーだと見抜いてたのか? それともただの後先考えない人間性か。

 即犯人特定かと思いきや、そうでもないらしい。俺も首の皮一枚繋がったか。


 宿直室に行ってみると、誰もいなかった。出て行ってくれたなら諸手を挙げて喜ぶところだが、衣類がそこらじゅうに転がってるので、そうではなさそうだ。せめて下着ぐらいは片付けとけよ。


 ずぼらな生活に呆れる。ちゃぶ台の上にメモが置いてあった。


『別荘でバカンス中♪』


 反社は刑務所のことを別荘って呼ぶらしいけどな。

 接触を諦めて廊下に出る。



 8時30分。チャイムが鳴り、いつものように朝礼が始まった。

「えー、今日の朝早朝に、ですね。校門にペンキで落書きがされておりました」

 生徒指導部の主任がさっそく説明を始める。器物損壊や窃盗がままある世紀末校ではあるが、最近は特に大変だな。校長や教頭の栄転や胃の健康も前途多難。

「残念ながら犯人は特定できておりませんが、緊急の全校集会を設けて名乗り出るよう、呼びかけたいと思います」

 例によって、誰も名乗り出てこないだろうな。いままで呼びかけて名乗り出た者はいなかった。

目撃証言から犯人が見つかったことがあるだけだ。

「外部の人物がやった、ってことはないんですかいの?」

 井手之下(いでのした)先生が質問した。「もしそうなら、警察に丸投げできる」と顔が言っている。が、下心はともかくもっともな疑問だ。

「えー、残念ながらその可能性は少ないと思います。使われたペンキは、運動部の部室棟にあったものです。部外者が存在を知っていて、わざわざ校内に侵入したとは考えられません」

 犯人は学校の備品を使ったのか。セコイなあ。


 朝のHRでは、キバヤシが相変わらず覇気のない調子でしゃべっている。

「……を提出すること。え、えー、以上だ」

「木林先生、緊急集会の件忘れてます」

 めんどくさいからって、わざと忘れたふりしてるんじゃないだろうな?

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