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失格教師と屋根裏の散歩者  作者: あまやどり
第二章 失格教師とワケ有り教師
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18/51

失格教師と採用試験の裏事情?

新章始まりです(/・ω・)/

【4月28日(金) 8:10】


 朝、職員室に行く前に1階の廊下の様子をうかがう。我ながら不審者丸出しの挙動だ。誰もいないことを確認すると、宿直室に入った。

「入るぞー」

「エッチ~、レディの寝室にイキナリ入ってこないでよ」

 うるさい屋根裏の散歩者がいやがる。たまにはいなくてもいいのに。って言うか未来永劫いなくていい。

「ここはお前の寝室じゃねえ」

「シャワーとか浴びてたらどうする気~?」

 捨見は明らかに起き抜けで、眠そうにあくびをしていた。

「四畳半の宿直室にシャワーがあるか!」

 冷静に考えれてみれば、着換えの最中とかだったら気まずいことにはなるんだが。不法滞在してるヤツに、律儀にノックしてやるのもシャクだ。


「朝飯置いとくぞ」

 行きがけにコンビニで買ってきたおにぎりを卓袱台(ちゃぶだい)に置く。手助けしてやるのも業腹だが、空き巣をされるよりマシだ。

 どんどん共犯者になってく気分。

「おう、気が利くではないか~」

 ムダに偉そうな不法滞在者。

「こうしてフォローしてやってんだから、学校で窃盗はやめろよ」

「は~い」

 アンパンを口にくわえつつ、勢い良く手を上げる。

「……うまそうだな、そのアンパン」

「半分あげよか?」

 半分に割って俺に寄越す。

「自分の齧った方を俺に差し出すんじゃない。 どこで買ったヤツだ?」

「酒石センセの引き出しから」

 あっけらかんと言う。やっぱり盗品かよ! おにぎり買ってきた意味ねえ!


 酒石みどり先生は若い女性だが大食漢で、いつも昼に弁当を2つ食べている。引き出しにはカップ麺やパン類、オヤツ類が常備してあった。

「まあいいか、酒石先生なら」

 俺は酒石先生が好きじゃない。


 若い女性教員の多くは、「どんな失礼な発言をしても、間違ってないなら許される」という思考をしてる。が、その発言は倫理的にも常識的にも間違ってることがほとんだ。

 要は、うぬぼれが強い世間知らず。こう言っちまうと、ほとんどの教師に当てはまるな。


 酒石先生もその係累で、しかも思考は生徒側に近い……と思う。

「九字塚センセもあっさりしたもんね~」

「毎月180時間のサビ残(サービス残業)を強制されるブラック企業で、聖人君子まで強制されてたまるか」

 やさぐれてる自覚はある。


「金なら出してやるから、欲しいものがあるなら買って来いよ」

 泥棒を働かれる度に、共犯逮捕のリスクが増してくんだぞ。

「近所のコンビニやスーパー、S商生出禁っしょ」

 そうだった。S商生の素行が悪いこと世紀末のごとし。コンビニでは万引きや、商品棚を蹴り倒してことごとく出禁だった。スーパーは駐車場で大騒ぎしたり、バイク(校則で禁止)や車(無免許)を勝手に停めて通学する生徒が複数いて、めでたく出禁となった。

 よって、学校に住んでいると買い物できる店が限られてくる。

「頼むから、おとなしくしといてくれよ」

「は~い」

 返事だけは素直だ。ムリだろうなあ。コイツはしょっちゅう校内をうろついてる気配がする。

 いつも眠そうにしてるのは、夜中活発に動き回っているからだろう。文字通り「泥棒の昼寝」だ。夜中の学校で何をしてやがるのか不安だ。

 だが、俺が従順に協力してるなんて思うなよ。そろそろ首根っこを掴んでやる。



 福島主任は朝にスマホでニュースを聞くのが日課だった。

「また強盗があったみたいだぞ」

 音声を大きくする。

『榎本鉄鋼の経営者宅に強盗が入りました。警察が捜査したところによると――』

 アナウンサーの声が耳に届く。

『被害額は500万円と推定。連続強盗団を思しき犯罪はこれで12件目であり……』

 500万か。1回の強盗の実入りにしちゃ破格だ。ピア・セキュリティサービスのときといい、金周りがいい個人企業を狙ってるのかな。あの手の会社は現金が必要なことが多いから、運転資金を現金で手元に置いてるらしいし。

「こんだけのことして、よく捕まらんよな」

 音声を戻して主任が言う。

「ずいぶん犯人はF市の事情に詳しいみたいですね」

と話しているところに、

「ねーねー、ミドリいる?」

ドアを開けてタメ口で訊ねてくる女子生徒。

「こら、“酒石先生いますか?”だろ! やり直し!」

 岡先生が叱りつけた。正論だ。

「うざ! 死ねクソ!」

 悪態と暴言を吐いて、ドアを荒々しく閉めた。S商生のスタンダードなリアクションだ。


 ややあって、酒石先生がパンを大量に抱えて戻ってきた。売店に行ってたらしい。売店と言っても、パン屋や雑貨屋が決まった時間にロビーで移動販売してるだけだが。

 大昔に売店はあった形跡があるが、生徒の万引きや暴力であっというまに消滅したらしい。さもありなん。


「買い置きのパンが思ったより減っちゃっててー」

 捨見がネコババしてたからな。岡先生が先程の経緯を伝える。

「えー? セシル帰っちゃった? 悩みがあるって言うから呼んだのに」

 これには進路の先生全員呆れ顔。酒石先生は「友だち教師」だ。生徒と馴れ合い、友人関係になろうとする。

「せっかく来てくれてたのにー」

 非難がましい目を向けるなよ。岡先生が正しい。視点が教師じゃなくて生徒寄りなんだよな。


「あ、今日は“後1”なのでよろしくです」

 酒石先生がいきなり宣言した。

「1時間早退ですか? 体調でも悪いとか?」

 若貴先生が気遣う。どうみてもムダに元気があふれてるだろ。

「いえ。今夜、生徒指導部が繁華街の見回りに行くそうなので、応援に行こうかと」

 祭りなどのイベントで市内がにぎわうと、S商生が面倒事を起こすのがお約束。ケンカ、飲酒、恐喝等、殺人以外何でもござれ、っていうのはさすがに言いすぎか。この前の祭りでは、酔っ払って駅前の銅像の小指を折ってやがった。


 で、方々で厳重注意をもらったS商の生徒指導部は、祭りのたびに夜回りに駆り出されるわけだ。

 F市で大きめのイベントが開催されるたびに、S商生の評判はうなぎ下がり、住民からは親の仇のように恨まれ、教師の肩身は猫の額よりも狭くなるわけだ。


 酒石先生はその生徒指導の援軍に行くつもりらしい。もっとも、酒石先生は勝手な行動が多く、生徒指導部としては「ありがた迷惑」に思われているようであるが。

 よくそんな体力があるもんだ。俺なんか日頃の業務だけでいっぱいいっぱいだぞ。やらなくてもいい仕事を自主的に増やす精神が理解できない。大食漢なだけに、体力も豊富なんだろうか。どちらかと言わなくても貧弱な俺には羨ましい限りだ。

 或いは、これが「教師に向いている人間」と向いてない人間の境界線なのかね。


「ははあ、さては評価を良くして、良い高校に行こうって企んでるな? 来年転勤だろ」

 福島主任が推量する。

「へへー、正解です」

 酒石先生は笑った。意外に計算高い面も持ち合わせてるのか。

「ならせめて、起案の名前ぐらい漢字で書け」

 主任がヒラヒラ振っている起案用紙には、「起案者」の欄に「さけいしみどり」と下手なひらがながおさまっている。

「ひらがな使うの、みんなの間で流行ってんですよ」

 平安時代の女かよ。それと、生徒のことを「みんな」とか言うな。

「それに、たまには早く帰ってやらないと、彼氏に別れを切り出されるぞ?」

 福島先生が茶化す。上品な冗談とは言えないが、或いは主任も俺同様、酒石先生が好きではないのかもしれない。

「残念でしたー。ラブラブですよ」

 惚気(のろけ)られた。

「彼が教員採用試験受からなくって、なかなか結婚できないんですけどね」

 ぽつりと言い残して去って行った。

 酒石先生と同年代なら、カレシとやらは教師浪人4年目ぐらいだよな。そりゃ受かる目はないんじゃないか?

 10回目で合格した福島主任のような例があるにはあるけどな。

 飲み会の時に酔った主任が口を滑らせたことがある。


 なんでも主任は、2次の面接等で9回連続落とされて、正教員を諦めてた時期があるらしい。

 で、臨採を数年真面目に勤めていた。そしたら、ある日教頭がやってきて、

『福島先生は教員試験は受けないのですか?』

と訊かれた。主任が

『もう何度も落ちたので、さすがに諦めました』

って返事したら、小声で

『今年あたり受かるかもしれませんよ。受けてみられては?』

と言われたそうだ。

 半信半疑で受けてみたら合格した、ってウソみたいなホントの話。


 1次の筆記試験はごまかしようがないが、2次の面接やら集団討論やらの得点は、いろいろおもうところはある。

 真面目に働いてる福島主任の態度を教頭が見て、2次試験に何らかの作用があったとしたら……闇深い話だ。

 同時に、上への俺の覚えが目出たくない俺はやっぱり受からんのじゃないかな。


 教師、見切りをつけた方が良いのかなあ。

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