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失格教師と屋根裏の散歩者  作者: あまやどり
第一章 失格教師とタブレット盗難事件
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16/51

失格教師と冤罪未遂

今後は2日に1回更新ぐらいのペースです(/・ω・)/

【4月26日(水) 15:41】

 S商には校門と裏門以外に、通用門が1つある。だがこの通用門、ろくに補装もされておらず、技術棟の裏に出る不便さから存在をほとんど忘れられている代物だ。


 放課後。

 1人の生徒が校舎から出てきた。人目を気にしつつ、駐車場の端にある燃えるごみの檻を開ける。

 俺は技術棟の3階から見張っていた。やはり放課後すぐに動いたか。


 生徒は山と積まれた新聞紙や書類ゴミの中から、リュックを探し出した。あんなところに隠してたのか。教師総出で探しても見つからなかったかもな。

 重そうにリュックを担いだ生徒は壁沿いに歩き、錆だらけの通用門を潜った。

「そろそろ準備しましょう」

 隣の巻代先生が呟いた。

 門外は足の長い雑草が生え散らかしてるので視界も悪い。壁付近に、ブルーシートをかけられた大きなものがあった。壁が遮蔽になって校舎側からは見えない位置だ。

 生徒がシートをめくると、バイクを姿を現した。

 生徒はせっせとリュックからタブレットを取り出しては、バイクの荷台やハンドルに載せてゆく。なんかデコレーションしてるみたいだ。載せきらないのはスポークに強引に挟みこんだりしてやがる。


 やがて16台すべて載せ終えると満足そうに頷き、ブルーシートをかけなおそうとする。

「はーいそこまで」

 そこで、俺と巻代先生が声をかけた。

 ギョッと立ちすくむ男。

 あ、この顔見おぼえがある。たしか、酒石先生の代わりに授業に入ったときに騒いでた生徒だ。

「一部始終見せてもらってたから、話を聞こうか。嘘はためにならないと先に入っておくぞ」

 俺の宣告に、アトーと呼ばれていた生徒はうなだれた。


【4月26日(水) 16:55】


「んで、動機は?」

 階段下の倉庫で、捨見に顛末を話す。

「毒島を退学に追い込むこと、だってよ」

 どうでもいいがこのスペース、天井が低くて座るしかないんだよな。

 阿東は現在、生徒指導室の聴き取りを終えて保護者に連絡を取っている。

「認めてるワケ?」

「最初は抵抗してたけどな。バンピングの手口と、タブレットを売ろうとしてたアカウントのことを指摘したら、素直になったよ」

 この辺りは全て捨見の手柄だ。


「時系列順に説明してくと、だ。阿東(あとう)が先週のタブレット盗んだ動機は、完全に金目当てだったんだってさ」

 タブレット=高く売れる、と安易に考えての犯行だったようだ。。ネットでバンピングの動画を見て、これならできるかもと家の鍵で練習してたら、できてしまったらしい。

 ロッカーの鍵を削るマメさを他に生かせなかったもんかな。

「つまんない。ドラマみたいにわざとらしい悲劇的な背景とかなかったの? 額に縦線入れて、“この金があれば妹の心臓病を~”とか」

「んな艶っぽい話は出なかったぞ。実に下らん動機だ。“あっこうドットコム”って知ってるか?」

「うんにゃ」

 俺も寡聞にして知らなかった。ってか、知っててどうするんだって話だが。

「ネットで、指定した相手の悪口を捏造(ねつぞう)、拡散してくれる会社らしい」

 きっと、悪口(あっこう)が語源だろう。

「阿東はSNSだかツイッターで、嫌いな相手がいたらしくってな。粘着してたらしい」

 素顔も知らない、現実で会ったこともないような人間に憎しみを抱く世の中だ。

「その会社に依頼して、悪口を拡散してもらった?」

「ああ。で、料金30万請求されて支払いに窮してたんだってよ」

 絵に描いたような暴走バカだ。そういや、自習の時にも同級生に金の無心をしていたな。

「他にも、ソシャゲに10万以上課金してて、親に内緒でどうにかしたかった、とかも言ってたな」

「みっともない話ねー」

「バットでしかねえよ」

 金払って悪いウワサを捏造するよう頼む社会ってな、何て言うか、心が冷える話だな。


「で、直後に1年と2年が揉める出来事があった」

 1年と2年は仲が悪く、これまでもしばしば(いさか)いを起こしている。そのとき、毒島が出張って大事にならないように取り仕切ったらしい。

「でも、1年からしたら腕づくで黙らされたようで面白くない。かと言って腕っぷしの強い毒島相手に正面切って構える度胸もない」

 ファッション不良ってのはそういった半端者の集まりだ。

「そこでタブレット泥棒の濡れ衣を着せて退学に追い込むことを企んだ」

 上手くいけば、先週の窃盗の責任も押し付けられる。


 ちなみに、阿東の教室での席は窓際で、隠し場所だったゴミステーションがかろうじて見えた。捨見の「目の届く場所に隠している」という推測は正解だったわけだ。

「お前の推理気持ち悪いぐらい当たってたぞ」

「キモチ悪くない。あのさ、犯罪って非日常じゃない?」

 捨見が唐突に言い出した。

「そうだな」

 でもそれ言うなら、学校暮らしも非日常じゃね? という野暮なツッコミは話の腰を折っちまうか。

「犯人にとってもそうなワケ。だから、“安心するため、目の届く範囲に隠す”。パパの受け売りだけどね」

 つまり、犯人にとって犯罪は大バクチなわけだ。

 あと、それは本物の「パパ」なんだろうな?


「“せっかく動画で憶えたバンピングで金が稼げなくて腹が立ってたから、毒島の冤罪に再利用してやろうと考えた”んだってよ」

「そんなところだ」

「なんで16台も盗んだのよ?」

「前回5台盗んだとき、表沙汰にならなかったからだそうだ」

 さすがに16台は毒島も対処に困るだろうしな。

「プラスバイクの無断通学の合わせ技で退学?」

「厳密には、学校にはもう生徒を退学にする権限はないんだけどな。自宅待機とか、自主退学を期待したんじゃないかと思う」


 毒島が情報の授業のときタブレットを借りに行くことは分かってたので、その直後に盗む。が、それだといかにも時間が際どいから、一旦ゴミステーションに隠しといて放課後にバイクまで持ってゆく。あとで生徒指導室あたりにタレコミするつもりだったんだろう。


 今回の肝は、現行犯で捕まえること。でなければ毒島の無実を証明できない。先回りして待ち伏せするために、バイクの隠し場所を聞き出すことは必須だった。

「毒島が素直に教えてくれたから解決したようなもんだ。阿東のことをそれとなく伝えておいた」

「でもブスジマ君はキノドクじゃない? バイクの場所教えてくれたんでしょ~? なのにバイク通学バレて別室行き?」

 毒島(とくしま)な。

「それじゃ取引きにならないだろうが。事前に阿東が来ることは予想がついてたんだぞ。毒島のバイクは他に移動させて、バイクショップから借りた廃棄バイクをそれらしく置いといただけだ」

 毒島がバイトしてるバイクショップが近くにあったのが幸いした。かい摘んで事情を説明したら、快く貸してくれたしな。

毒島が乗ってるのはたしか、ストリートファイターとか呼ばれてるバイクだ。良い趣味してんな。


 まあ、巻代先生は何となく察したようだが、目を瞑ってくれたようだ。

「あらま、意外とゆーずーきくのね、九字塚センセ」

「お前を見逃してる時点で気付きやがれ」

 「相手にデメリットを持ち掛けて取引の材料にする」ってのは捨見から学んだことだ。


 対外的には、“毒島がバイク通学をしていると聴いた阿東が、放置バイクをそれと勘違いして盗んだタブレットを置き、濡れ衣を着せようとした”って事件になるだろう。

「前回盗まれたタブレットも無事回収できそうだし、この件は公にならずにオワリだ」

 無論、通報しないだけで阿東には重いペナルティが科せられる。退学届けを出して学校を去ることになるだろう。

 現在の学校では生徒に停学・退学措置がとれない決まりだが、裏で退学を迫る手段はいくらでもある。


 警察沙汰を水際で防いだことで、巻代先生はお偉方からいたく褒められたそうだ。

 が、「手柄の9割は九字塚先生ッスよ」と全部正直に話してしまったらしい。俺としちゃ独り占めしてもらっていっこうに構わなかったのだが。

 

「お蔭で俺の株も僅かに上がったよ」

 他人のふんどしで取った相撲だが、正直悪い気はしなかったな。

 何より、お偉方の憶えがめでたければ、来年の雇用に繋がる。


「で、そのオテガラはダレのオカゲでしたかしらね~?」

 泥棒の上前を撥ねた形だから、捨見は面白くないわな。

「憶えてるよ、1週間の黙認、だろ」

 これで合計2週間の黙認だ。


 後日談だが。

 あれから毒島はあまり反抗的な態度をとらなくなった。俺に一目置いてくれたんだろうか。

「アタシのオカゲよね? お礼は? カワイイとかセクシーの化身とかの賞賛も受付中ですぞ?」

 嫌な笑顔で迫ってくる屋根裏の散歩者。助かったのは事実だが、捨見の不法滞在を1週間延長することになってしまった。

 なんだか、コイツが諸悪の根源に思えてきたぞ。


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