失格教師と故買
しかし手馴れてるな、コイツ。いくら手軽っていっても。
「さてはお前、この手口で教室とか侵入してたんだな?」
「あっ、バレた」
舌を出す。バレないでか。教室やら家庭科室やら気軽に出入りしてると思ったら、こんな技術持ってやがったのか。
ってことは、D組のエプロン盗難のときも、井手之下先生はちゃんと鍵をかけてたのか?
疑ってすいません、井手之下先生。
捨見のお蔭で手口は割れた。
「アタシが分かるのは“どうやって盗ったか?”まで。“なぜ盗ったか?”はセンセお願いね」
犯行手段と犯行動機か。しかし、
「“なぜ盗ったか?”って、そりゃあ金に換えたいんじゃないか?」
おかしなことを言い出す。
「このタブレットって、高く売れるワケ?」
タブレットを1台保管庫から出して、俺の前で振って見せる。
「……売れない。ジャンクに不良品を足して5で割ったようなポンコツだ」
私立はまだしも、公立校は常に金欠だ。業者に頼みこんで格安で揃えたはず。正規品でもないから、値段すらつかないかもしれない。
あれ?
「待て待て。じゃあなぜ盗んだんだ? 知らなかったとか?」
「盗むの2回目なんでしょー? さすがにソレはないと思うケド?」
だよなあ。手口からして同一犯だし。
「つまり犯人は、スクラップと分かってて盗んだってことか? 16台も?」
「ほいよ、お宝発見伝~♪」
タブレットを操作していた捨見が画面を見せてきた。画面には、同じ型のタブレットが映し出されている。
「おおっ?」
画面を凝視する。個人売買の出品画面のようだ。商品の状態欄には、
『小さなキズ・汚れアリ』
発送元は「H県」
売却希望額は10000円。在庫は5とある。
「同じっしょ?」
先週盗まれたタブレットが5台。備考欄を見るにやはり同一犯か。
「間違いない」
S商のタブレットは、枠の右下に番号を書いたシールを貼っているが、それを剥がした痕跡まで見て取れた。
「こんな短時間で見つけたのか」
「型番さえ分かってればラクショーね。盗品売りさばくのは、実は盗むより難しいの」
O県で、中学生が学校から盗み出した楽器を音楽用品店に売ろうとして通報された事例があったな。
「だから今の時代、活用も悪用もネットが大活躍。メルカリとかの個人売買で売っちゃうワケ」
俺にはピンとこない発想だ。
「なんだ、じゃあやっぱり売ろうとしてたんじゃないか」
出品者のアイコンは、青いキーホルダーの写真。そして未成年タグ。やっぱり生徒の中に犯人がいるのか。
「よく見てみ。1台も売れてないっしょ」
履歴を見ると、たしかに実績がない。
「うーん、在庫が1台もハケてないのに、追加で用意することはないよな」
不良在庫を増やしてどうするって話だ。
「ケーカイされてて、全然売れないことに気付いたんだと思うよん」
誰1人買っていないということは、かなりめに怪しまれているかということか?
「ネットの客はどこに注目して警戒してるんだ? 実績か?」
が、俺にはその基準が分からない。
「未成年タグ。そもそも、個人販売+未成年+電子機器ってアヤシサの欲張りセットなワケ。子どもが想像する高いモノってーとソレでしょ~? 同型のモノ5つも出品してるし」
ああ、未成年の万引き対象に、高額電子機器は常に上位にランクインされるって聞いたことがあるな。
「ネットの個人売買は、未成年でも親にほとんど了承なしでできちゃう。しかも匿名発送なんてオプションも付いてきたり」
それで相手も相応に警戒してるのか。
「アトは値段かな~。盗品って値段設定がメチャクチャなことが多いワケ。オカシイぐらいに安かったり、逆だったり」
今回の場合は本来の価値を知らず、高く売れさえすればいいと思っている、と。あのジャンクに1万円は暴利もいいとこだ。
「だから誰にも落札されずに残ってるのか」
念のため、出品者のアイコンと出品物を撮影しておいた。
「このアカウントの持ち主、特定できないかな?」
売れてない今なら取り返せるかもしれない。
「たぶんムリじゃない? まだジケンセイがショーメーできないもの」
む、そうか。事件性が証明できるってことは、警察が介入してくるってことで、話を隠蔽できなくなる。
「大したもんだ」
これだけ詳しいってことは、コイツもメルカリとかで盗品さばいてる可能性があるってことだけどな。
「へへ、ホレるなよ?」
「それだけは天地がひっくり返ってもないから安心しろ。魅力的な牛ガエルにプロポーズする方がまだ現実的だ」
にべもなく否定すると、捨見は頬を膨らませた。
「んま、この情報は犯人に直結しないカモね」
そうだな。せいぜいダメ押しに使えるぐらいか。“1度目の5台盗難で売れないことを知ってるはずなのに、なぜ続いて16台も盗んだか”っていう点が謎のままだ。
「だから、あとはセンセの領分なの」
なぜ売ることもできないタブレットを盗んだか、か。しかも、16台ってのは盗む方も大変なのに。動機は。
「……嫌がらせ?」
自分で出した結論は半疑問形だった。が、重要なことに思えた。
「イヤガラセー? ダレに?」
捨見がもっともな追及をする。
「うーん」
事実だけを並べてみよう。
4時間目開始5分前に盗難。盗まれたのはタブレット16台。毒島が直前に印刷室に出入りしており、疑いが向けられている。
「ってことは、タブレットは犯人が学校のどっかに隠してるのか? 随分とリスキーなことするな」
ただ捨見の件で学んだことだが、学校は隠す場所に事欠かない。目星をつけずに俺が見つけ出すのは至難の業だろう。
「自分の教室から見える範囲だろうけどね~。目の届く場所にないと、不安になっちゃうから」
「それ、実体験か?」
分からないでもないが、犯人が分からないんだから限定のしようがないぞ。
「バンピングなんてできるんだから、ホーカゴに盗んじゃえばラクだったのにねー」
まったくだ。だから逆に考えてみよう。あの時間じゃなきゃいけなかった事情がある、と考えれば……。
「……あ、狙いは毒島か」
「毒島」
俺は廊下で毒島を呼び止めた。
「何だヨ?」
言いつつも足を止める。
「バイクを隠してる場所教えろ」
直球で訊ねる。駆け引きしてる暇はない。
「ああん?」
眉に暗雲を漂わせる暴走族。毒島はバイク通学疑惑がある。
「いいから教えろ。悪いようにはしない。お前嵌められるぞ」
「……はあ? 詳しく話せヨ」
言い募ると、毒島は聴く姿勢に入った。お前のそういう切り替え好きだぞ。
 




