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失格教師と屋根裏の散歩者  作者: あまやどり
第一章 失格教師とタブレット盗難事件
14/51

失格教師と鍵開けの方法

俺の中で毒島への疑いはだいぶ晴れた。

 が、それは新たな疑問の入り口だった。

「だとすると、だ。鍵のかかってる棚を開けた誰かがいる、ってことになるのか」

 もっとヤバいのがいることになるんだが。

「印刷室を出たのはいつぐらいだ?」

「……授業始まるちょい前だからヨ。50分ぐらいだゼ」

 4時間目開始5分前か。


「いいか、犯人探しなんて考えるなよ?」

 まずは毒島を牽制しておこう。

「えー。生意気な1年とか、片っ端からシメてやろうと思ってたのにヨ」

 暴走族をやっているだけあって、血の気の多い性格だな。

「そう思ったから釘刺したんだよ! 1年とモメたばっかりで、今は冷戦中だろが。犯人探しはこっちでやるから」

 毒島は不満そうだったが、一応条件を吞んでくれた。が、あの様子だと何日も抑えられない。


 そしてまたもや開かれる全校集会。2日続けて体育館に召集がかかる。

「犯人の名乗り出ない全校集会」。これももはやS商名物だな。


 


「シャッチョさん、いいオトコね。チョット遊んでかな~い?」

 集会の帰り道、捨見に呼び止められる。

「……どこで憶えてくるんだ、そんな下品な客引き」

 周りに他人がいないことを確認しておく。

「ナニが起きたの? 騒がしくて目が覚めちゃった。ふぁ~」

 昼寝してやがったな。大口開けてあくびをするな。

「タブレットの大量盗難だ。自首するならいまのうちだぞ?」

「冤罪はいくないと思うの」

 頬を膨らませる。かわいくねえ。主に性格が。

「冤罪を匂わせてオレを脅迫したヤツが言うと重みが違うな」

 捨見の軽口にも慣れてきた。元より俺も口が重い方じゃない。

「アタシはやってないってば」

「犯人はみんなそう言うんだ」

「犯人じゃない人だってみんなそう言うっしょ!」

 なんて不毛な会話だ。


「ヘンなウワサ立てないでよ~。見ての通り清純派で売ってるんだから」

「清純派か。さんざんコウモリムーブしといて、最終回直前に始末されるタイプの清純派な」

 さしづめネズミ男だ。屋根裏が似合いそうだしな。腐臭のする清純派なんて嫌だ。


 大雑把に今までの経緯を説明する。

「ミステリね! ちゃんとノックスの探偵小説10戒は守ってるでしょーね?」

 あらましを聞いて、捨見は食いついてきた。

「知らんわ」

「東洋人が犯人だとダメよ?」

 中途半端にミステリの知識があるらしい。

「なら迷宮入りじゃねーか」

 正確には「中国人は登場人物にしちゃ駄目」だったけどな。


「センセもなにげにミステリ好きなのね」

 ガキの頃、江戸川乱歩に傾倒してた時期があるからな。それはさておき。

「早めに解決したいんだが、手がかりも足がかりもなくてな」

 毒島の暴発が気掛かりだ。

「九字塚センセ、取引きしない?」

 取引きや賭けが好きなヤツだな。前世は交易商人か密輸業者だったんじゃないか?


「聞いてやるよ、3年以下の懲役または10万円以下の罰金」

「罪状でアタシのこと呼ぶのヤメない? ムダに長いし」

 ツッコミを入れてから、向き直った。

「解決に貢献したら、アタシの学校暮らしを、プラス1週間延長してくれない?」

 どうにか捨見を学校から追い出せないか、と企んでたところにこの持ち掛け。


 契約の更新か。正直悪くない。解決すれば毒島の暴発が防げる。しなかったらそれを理由に捨見を追い出せるかもしれない。

 逆を言えば捨見が活躍した場合、学校に住み着くことに文句も口出しもできなくなる、ということになるのだが、その危険に俺はこのとき気付いてなかった。


 変わったところがあるとはいえ、ただの高校生が犯人探しに活躍するなんて、普通は想像もしない。

「よし、その話乗った。成功報酬だぞ」

 視点が変われば、新しいヒントが見つけられるかもしれない、という程度の了承だ。捨見は笑顔で両手を握った。

「話が分かるわね~。やっぱり九字塚センセに目を付けてせーかい♪」

「俺は死神に目を付けられた気分だよ」


 しかし、捨見の現状は異常だ。保護者に育児放棄されてる可能性がある。学校に住み着いてる。盗品で生活している。どこを切ってもトラブルの臭いしかしない。

 保護者に連絡をしても、ことごとく冷淡な対応をされて、ろくに会話もできないでいた。『はい』とか『はあ』と気のない返事ばかりで、ろくにコミュニケーションが成立しない。

 少なくとも、「子どもを心配する親」の反応じゃない。


 本人はお気楽そうにしているが、これからも人目を避けて生きていくつもりなんだろうか? 俺のような協力者を強引に生産して。

 まるで、崖の上で目隠ししてブレイクダンスをしてるような生き方だ。


 捨見を伴って印刷室に来た。内心、誰かに不審に思われないかと気が気じゃなかったが。

「特に怪しいものはなかった気がするが」

 印刷室の様子は、先程来たときと変化はない。

「現場百回ですぞ、デカ長」

 誰が刑事長だ。なんかすっかりその気だ。捨見はスチール棚の鍵穴を覗き込んで、1人でうんうん頷いている。続いて隣の棚を見た。鍵は相変わらず鍵穴に突っ込んだまま。貴重品が入ってないとはいえ、杜撰(ずさん)な管理だな。

 捨見はさしっぱなしの鍵を引き抜き、光にかざして観察しはじめた。なんだか様になってる。目つきが鋭い。

 なんなんだ、コイツは?


「そっちの鍵は使えなかったぞ」

 事務員とのやり取りを思い出して、先回りして説明してやろうとしたら、すぐに遮られた。

「ん、もういいよん、巡査」

 刑事長からいきなり(ヒラ)に格下げしやがった。

「状況は分かったな?」

「手口も分かったケド?」

 あっさりと言い放った。

「犯人までは分からないケド。鍵を開けた方法ならラクショーっしょ」

 それにしたって早い。

「報酬に目がくらんででまかせを言ってないよな?」

 手詰まりで困ってた俺が馬鹿みたいじゃないか。

「疑い深いオトコはモテないわよ?」

「教師は疑い深いぐらいでちょうどいいんだよ。朴訥(ぼくとつ)になったらモテるって10年保証でもつけてくれるのか?」

 モテないのは大きなお世話だこの野郎。


 捨見に言われて、印刷室に鍵をかけた。これから他人に見られちゃマズいことを始めるつもりらしい。

「犯人は、コレを使ってロッカーのカギを開けたワケ」

 捨見が指さしたのは、隣のロッカーのキーだった。

「そっちの鍵を? 俺もやってみたが開かなかったぞ」

 それどころか、錆びてるのか元の棚すら開かなかった。

「そのままじゃカタツムリ~」

 妙な言葉遣いとともに、タブレットのロッカーの鍵穴に差し込んだ。

「ねっ、規格がいっしょだから、鍵穴に入ることは入るっしょ?」

 語尾が安定しない奴だな。

「“入るだけ”だろ。回しても開かない」

「鍵の仕組みって知ってる?」

 出し抜けに訊かれる。

「詳しくは知らないな」

「鍵の中に外筒と内筒があって、トップピン、ボトムピンっていうでっぱりがセットされてるの」

 スマホを出す。

「スマホなんて持ってたのかよ。生意気な学校内ホームレスめ」

 話に水を差す。宿直室に踏み込んだ時、盗んだと思われる充電器で充電してたよう記憶がある。

「要は、鍵の刻み(凹凸)の形にピンがぴったり合わないと、鍵が回らない仕掛けなワケ」

 妙なことに詳しいな、おい。スマホのお絵描きツールで、簡単な絵を描いて見せる。

「うーん、要はパズルのピースみたいに、鍵の形と鍵穴の中の形がぴったり一致しないと鍵は開かない、で合ってるか?」

 自信のない要約だったが。

「は~い。よくできました~」

捨見に頭を撫でられる。却って小馬鹿にされているように感じるのは俺の器が小さいからか?


「同じ規格の鍵でも内部の凸凹は違うから、こっちのは開けられないんだな?」

 なら隣の鍵を用いての開錠は不可能ということになる。

「そっ。でも~」

 捨見はまず1度、大げさに鍵を回した。次に、ポケットから小型のハンマーを出す。

「てりゃっ」

 今度は勢いよく鍵を回しつつ、軽くハンマーで鍵の頭を叩いた。すると、ガチャリと音を立てて解錠された。

「ど~よ?」

 胸を張って棚を開いて見せる。

「あ、開いた?」

「バンピング。ドロボー御用達のやり方よん。ハンマーで衝撃を与えて、内部のトップピンを跳ねさせ、ピンを強引に揃えちゃう(解錠状態にする)ワケ」

 頭の中で想像してみる。

「内部のピンを揺らして、偶然一致した瞬間に開ける、って感じか?」

 えらい力技を考えつくもんだ。


「ほらこのカギ、よく見たらバンピング用に改造してるっしょ?」

 渡された鍵を指の腹で触ってみた。凹凸の部分が、ところどころヤスリかなにかで削られているようだ。

「あ、それで隣のロッカーまで開かなくなったのか。削ったから」

「そーそー」

 鍵とハンマーを借りて俺もやってみたが、上手くいかない。

「バンピング、だったか? 素人がやるには難しくないか?」

「でもないよん。ピッキングより断然お手軽。ネットにやりかた説明した動画とかもあるワケ」

 さらりと空恐ろしいことを言ってやがる。

「マジか!」

 そんな犯罪の手口を広めてる動画があるのかよ。

「あるある。小学生がネットでこの手口練習して、塾にドロボーに入った、なんてコトあったぐらいにお手軽」

 なんてこった、世も末だな。

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